iDeCo(イデコ)は「年金は自己責任」という国からのメッセージ

税制面で大きな優遇が受けられることから、開始以来多くの人が加入しているiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)。本来は徴収できるはずの税金を国が免税するのはなぜでしょうか? そこには政府からの日本国民へのある“メッセージ”が込められています。老後のお金で悩みたくない人のために、iDeCoを利用すべき理由とその仕組みについて説明します。

「老後のお金」はこんなに大変です!

その昔、「年金暮らし」という言葉にはどこかうらやましく感じるイメージがあったものですが、一億総中流社会から格差社会へと大きく変化した現在では、「なんとか食べていくだけで、ほとんど贅沢のできない質素な暮らし」という寂しい老後のイメージに変化している人も多いのではないでしょうか。

そもそも私たちは将来、いったいいつから、いくら年金がもらえるのでしょうか。以前は60歳から年金をもらえましたが、2013年度の年金制度改正で年金の支給開始は65歳になり、2020年からは公的年金の受給開始時期を75歳まで繰り下げることができるようになりました。年金はどんどん私たちから遠ざかっている……そんな状況です。

そして、日本の年金制度は必要な財源をその時々の保険料収入から用意する「賦課方式」。現役世代が高齢者世代の生活を支える仕組みです。少子高齢化が進み、現役世代が減って、高齢者世代が増えているわけですから、年金納付額が上がり、年金受給額が下がるのも仕方がないのかもしれません。

少し前に「老後資金2000万円問題」が大きな波紋を呼びました。これから高齢者になっていく現役世代は、年金以外に2000万円の貯金がないと夫婦が20年間生きられないというのです。しかも、頑張って2000万円を貯めたとしても、「もっと長生きしたら?」「介護が必要になったら?」など、悩みは尽きません。

現役時代は一生懸命働いたのに、引退したら死ぬまでお金の不安を抱えながら質素に生きていくだけ……。そんなセカンドライフで、本当にいいのでしょうか。

豊かな老後には3階建ての年金が必要

日本の年金は「3階建て」といわれています。1階部分は日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」。国民年金は65歳以上から死亡まで支給される終身年金です。

2階部分で一般的なのは、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」。これも終身年金で、会社は社員を雇用する場合に厚生年金への加入を義務づけられており、会社勤めの人はほぼ2階建てになっています。

そして3階部分は、企業が独自の制度として運営している確定給付型企業年金や、主に業界団体が運営している厚生年金基金。老後の生活に余裕が出るかどうかは、この3階部分が充実しているかどうかにかかっています。

豊かな老後を過ごすのに3階建ての年金が必要なのだとすれば、2階、3階部分を自分で増築するしかありません。個人型確定拠出年金は、その「自分年金」を積み立てるのに最もおすすめなのです。

日本の年金制度は“3階建て”

国が〝自分年金〟づくりを強力に後押し

あとで説明しますが、確定拠出年金には大きな節税メリットがあります。徴収できるはずの税金を国が免税するということは、税収を減らすことになるわけですが、それでも国がこの制度を推進する理由はなんでしょう? それは、日本国民みんなが安定した老後を送るには、既存の年金制度だけでは到底足りないことが明らかだからです。

足りない部分(3階部分)を補ってきた企業の退職金制度や企業年金制度も、多くの企業で維持するのが難しくなってきており、縮小や廃止も増えています。

このままいけば、高齢者の貧困問題は今後、どんどん大きくなっていくでしょう。国はこの、「日本人の老後」問題をなんとかしなくてはならないと考え、たどり着いた答えが、確定拠出年金なのです。

つまり、国がここまでしてこの制度を推進する背景には、「国はもう全国民の老後の面倒を見ることができないので、自己責任で年金を自主的に運用して、自分で老後の資金を用意してください」というメッセージがあります。

もちろん、その対象が投資信託であることからリスクはゼロではありません。それが心配な方には、リスクがほとんどない代わりに資産の増加もあまり期待できない預金や保険の商品も用意されています。

個人が受けられる税制面の大きなメリット

確定拠出年金には次の三つの税制メリットがあります。

①入口──掛金が全額所得控除される
②運用期間──運用益が全額非課税になる
③出口──「退職所得控除」「公的年金控除」の対象になる

まず①の「掛金が全額所得控除になる」について。確定拠出年金を始めてから最も実感しやすいメリットは、所得控除によるものでしょう。個人型確定拠出年金では毎月決めた掛金を拠出していきますが、この掛金が課税所得から控除されるのです。

たとえば課税対象となる所得が360万円ある人の場合、所得税と住民税で合計65.75万円の税金がかかります。それに対して、たとえば自営業者の方で、掛金の上限額である6.8万円を拠出している人の場合、6.8万円×12カ月=81.6万円分を課税所得から控除できます。

つまり、360万円あった課税対象の所得が278.4万円になり、そこから所得税と住民税を計算すると、所得税が11万円強、住民税が8万円強と合わせて19.3万円もの減税になります。81.6万円の年間投資で19.3万円のリターンを得られたと仮定すると、投資に対する年率リターンはなんと23.6%。相当なお得感です(税金は考慮していません)。

②の「運用益が全額非課税になる」についてはどうでしょう。通常、預金の利息、株式の売却益や配当金、投資信託等の分配金に対して利益の約20%が徴収されますが、個人型確定拠出年金で資産運用して得られた利益は課税の対象とされず、得られたリターンのすべてが再投資(新たな運用)に回ります。

個人型確定拠出年金は60歳になるまで原則的に途中解約することはできませんし、利息や分配金の受取もできません。運用期間中に得られる利息や分配金に税金はかからず、自動的に確定拠出年金の投資資金に回ります。得られた利息や配当、値上がり益を再投資していくことで、複利効果を最大限に発揮し、資産を増やしていくことが可能になります。

③の『「公的年金控除」「退職所得控除」の対象になる』について。給付金は一時金として一括で受取るか年金として分割して受取るかを選択できますが、それぞれ税金控除が活用できます。一時金での受取りの場合は退職所得控除、年金での受取りの場合は公的年金等控除の適用となり、課税を抑えられるのです。

転職先に持っていくこともできる

iDeCoには税制面以外のメリットもあります。まず、転職先にもそのまま持っていけるというポータビリティ制度。確定拠出年金に加入している会社員で転職される方や、独立して個人事業主になる方、退職して主婦になる方、個人事業主で個人確定拠出年金に加入しているが就職する方など、条件が変わる場合に、確定拠出年金制度を持ち運べる制度が用意されています。

もう一つ、万が一会社が倒産しても影響がないというのもメリットです。企業年金や退職金を会社が準備してくれている場合、業績が著しく悪化したり、万が一会社が倒産した場合には、その金額が減額されたり、最悪のケースでは全くもらえないこともあります。

しかし確定拠出年金に関しては、毎月振り込まれた掛金が即時、個人の資産としてきちんと保護されます。一人ひとりに個人口座が用意され、IDとパスワードでいつでもウェブサイトを通じて残高のチェックができます。ネット証券の口座を一つ持つようなイメージです。また、年に1~2回程度、運用状況レポートが送られてきます。

このように、毎月老後のためにお金を積み立てていくだけで大きな減税効果が得られる個人型確定拠出年金制度は、〝やらない理由が見つからない〟といえるほど、まぎれもなく国民にとって有利な制度です。老後のお金に少しでも不安のある人は、ぜひ検討してみてください。 

 

PROFILE
中桐啓貴

1973年神戸市生まれ。山一證券株式会社を経て、メリルリンチ日本証券にて個人富裕層への資産運用コンサルタントに従事。留学のため退社し、米ブランダイズ大学にてMBAを取得。帰国後、2006年にFP法人ガイアを設立。金融機関に属さない独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)の先駆けとしてメディアからも注目を受ける。50~60代の退職準備世代・シニア世代を中心にライフプランや資産配分を提案し、これまでに同社を訪れた相談者は約6000人にものぼる。