「近視は老眼になりづらい」は俗説。眼科医が教える目の老化予防

「スマホ画面が見づらくなってきた」「本や新聞を読むときに、つい遠くに離してしまう」「少しでもまわりが暗くなると、ものが見えづらい」――。これらは明らかに眼の老化=老眼の症状です。できるだけ症状を緩和して不便なく暮らす方法を、眼科医、アンチエイジングドクターの日比野佐和子先生と、日本眼科学会認定眼科専門医の林田康隆先生に教えてもらいます。

老眼の仕組みを知っておこう

まず、老眼とはどういう状態を指すのでしょうか。ここで老眼のしくみを詳しく説明しておきましょう。

老眼は、水晶体が加齢によって硬くなることによって起こります。目の表面には角膜というお椀の形をしたレンズがあり、その奥に、カメラでいうオートフォーカスレンズの役割をしている水晶体があります。

眼球から入ってきた光はこの角膜と水晶体を通って、網膜に映像となって映し出されます。その映像の情報が視神経を通って脳に伝わり、私たちはものを認識することができるのです。

このとき、映像のピント合わせをしているのが、主に「水晶体」とそのまわりにある「毛様体筋」です。

水晶体は、近くのものを見るときは厚くなり、遠くのものを見るときは薄くなります。この水晶体の厚みを調節しているのが毛様体筋です。毛様体筋が伸びたり縮んだりして、水晶体の厚みをコントロールし、ものをはっきり見えるようにしているのです。 

ところが、年齢を重ねるにつれて水晶体は硬くなっていきます。水晶体が硬くなれば、毛様体筋がどんなに伸び縮みしても、レンズの厚さを自在に変えることができません。
老眼になるかどうかは、水晶体が柔軟かどうかが大きなポイントなのです。

とくに、「老眼になった」と実感するのは近くのものを見るときです。加齢が進むと、これが難しくなってしまうのです。近くのものを見るときは、毛様体筋が収縮して水晶体がふくらんで厚くなる必要があります。

しかし、毛様体筋の筋力が弱まり、水晶体は硬くなっているので、水晶体をふくらませて厚みをつけるのが、とりわけ難しくなるというわけです。

加齢とともにピントの調節機能は低下していく

よく、近視の人は老眼にならないといわれますが、これは間違いです。近視とはもともと遠くのものではなく、近くのものにピントが合っている状態。

ですから、近くを見るために水晶体の厚さを変える必要がないので、老眼を自覚しにくいことがあるのです。

近視に限らず、遠視、乱視といった若いうちから起こる症状の原因は、主に角膜や水晶体での屈折異常です。

屈折異常とは、眼球から入ってきた光が角膜や水晶体で屈折し、網膜でピントが合わされるときに、その屈折率に異常がある状態です。近視の人は、この屈折異常によって、裸眼で近くにピントが合っているということであり、眼鏡などをかけないと遠くがしっかり見えないわけです。

屈折異常があってもなくても、加齢とともに確実にピントの調節機能は低下していきます。つまり、近視の人は老眼が出にくいというわけではなくて、眼鏡やコンタクトレンズなどでピントを遠くに合わせた状態であれば、同じように老眼を自覚してきます。

老眼になりやすいかどうかは、近視や遠視、乱視であるかどうかとは、ほとんど関係がないといっていいでしょう。

それよりもむしろ、今までの仕事や生活でどれだけ目を酷使してきたかのほうが、ずっと深くかかわっているのです。

視線を上手に「ずらす」と、目に疲れがたまらない

とはいえ、テレビやスマホ、パソコンのない生活がもはや考えられない以上、できるだけ目に負担をかけないようにする方法を知っておくことが大切です。

ポイントは三つあります。まず一つ目は、長時間同じ姿勢で見続けないこと。今、あなたがどんなに快適な環境で、正しい姿勢で作業をしているとしても、目や体にとって、「同じ姿勢で長時間作業をし続ける」ことの負担は大きなものです。

目のピント調整機能は、一定の距離を長時間見続けることによって、どんどん低下していきます。とくにパソコン作業の場合は、最低でも1時間に1回は目を休める必要があります。

「目を休める」=「目を閉じる」と捉えている人も多いですが、パソコンから目をそらして遠方を見るだけでもいいのです。わざわざ窓を開けて遠くの景色を見なくても、少し先を見るだけで大丈夫。とにかくパソコンとの近距離に合わさったピントを調整するのが目的だからです。

休憩中に次のようなトレーニングを行うのもおすすめです。

遠近トレーニング

①腕を伸ばして人差し指を立て、その指先を1秒凝視します。

②視線を遠く(目安としては2~3メートル先、コップやペットボトルなどの対象物を置いておくとやりやすい)を見て、 そこを1秒凝視します。指と対象物は一直線になるように置くのがポイント。 また、手前の指の位置を近づけると毛様体筋により負荷がかかり、トレーニング効果が高まります。③ ①と②を30 回程度繰り返します。

現代は目を酷使している社会ですので、状況や疲れ具合によっては10分に一度程度、こまめに視線をずらしてあげることも大切です。多い気がするかもしれませんが、1回に数秒でよく、目の疲れを防ぐことになるため、むしろ仕事の効率が上がるはずです。

 なるべく明るいところで画面を見る

ポイントの二つ目は、暗いところで見ないこと。できるだけ周囲が明るいところで見るようにしましょう。とくに暗いところでスマホやパソコンの画面を見ると、室内の暗さと画面の明るさの差が大きいため、疲れを感じやすくなります。

一方、画面が明るすぎても目はまぶしさを感じるのでよくありません。明るい画面を見続けることは、たとえていうなら蛍光灯を見続けているようなもので、目にとってはかなりの負担になります。

最近のスマホは使用環境の明るさを認識して画面表示が反転する(通常は白バックに黒文字であるのが、黒背景に白文字になる)機能が最初からついているので、これを利用するとラクに画面を見ることができます。

ポイントの三つ目は、就寝前に見ないこと。睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が低下してしまうことにより、不眠につながってしまうからです。

グー・パートレーニング

強くまばたきをするように、目を見開いてギュッとつぶるトレーニングです。主に目のまわりにある眼輪筋を鍛えることができます。そのため、目のまわりの血流がよくなるだけでなく、目のクマや目の下にできるたるみを解消できる可能性もあります。

①真っすぐ前を向き、目に力を入れたまま顔の中央に寄せるイメージでぎゅっと目を閉じます。その状態を2秒間維持します。

②目をパッと思い切り見開き、そのまま2秒間。これを3~5回繰り返します。

涙の分泌が促されるため、ドライアイにも効果大。パソコン作業中に「目が乾いたな」と思ったら、すぐにやってみましょう。
一日に何回やってもかまいません。眼鏡やコンタクトをしたままでもできます。

 

PROFILE
日比野佐和子

医療法人再生未来Rサイエンスクリニック広尾院長、大阪大学医学部大学院医学系研究科特任准教授、医学博士。内科医、皮膚科医、眼科医、アンチエイジングドクター(日本抗加齢医学会専門医)。大阪大学医学部大学院医学系研究科博士課程修了。アンチエイジング医療のエキスパートとして各メディアで活躍中。

PROFILE
林田康隆

日本眼科学会認定眼科専門医、Rサイエンスクリニック広尾副院長、医療法人和康会林田クリニック理事、医学博士。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。現在はおもに大阪で難治性白内障等の手術に取り組むかたわら、東京でも診療にあたり、メディアでも活躍中。