東大に合格して泣いている若者に林修先生は何と声をかけるか

※本記事は、林修先生唯一のビジネス書である『林修の仕事原論』(青春出版社)より、抜粋してご紹介します。 

テレビでも活躍する大人気予備校講師の林修先生は、人生のさまざまな物事に「勝負」という感覚を持ち込んでいると言います。そこにはどのような心構えで臨み、結果に対してどう向き合うべきなのか――。林修先生の勝負に対するスタンスを教えてもらいます。

敗者に泣く資格はない。「すべて自分が悪い」と考えよう

判官贔屓(ほうがんびいき)という言葉をご存じですか? 「判官」とは九郎判官義経のこと。源義経ですね。彼はライバルの平家打倒に際して大活躍したにもかかわらず、兄の頼朝に疎まれて反逆者として追われる身になり、最後は悲劇の死を遂げます。

このことに人々が同情を寄せたことに由来して、弱者に対して依怙贔屓(えこひいき)の気持ちを持つことを、日本では昔から「判官贔屓」と呼ぶんです。

もちろん、僕にもこういう気持ちはありますよ。しかし、「でもねえ」と思ってしまうことが多いのも事実です。公平な勝負の場で競い合うスポーツ競技の場合には特にそうです。そういうわけで、たとえばオリンピックで負けて泣いている選手を見ると、なんだか腹が立ってきてテレビを消してしまいます。

よほど判定に疑問があるような場合なら別です。かつてのシドニー五輪における柔道の篠原信一選手のような、明らかな誤審ならわかります。しかし、多くの敗北は実力不足の証明なのです。自分の力がおよばなくて負けただけじゃないですか。僕にすれば泣く資格もないよと思っています。

まず、自分を倒した勝者に敬意を表するべきだ──。そう考えてもしまうのです。先の篠原選手の場合、本当は一本勝ちだったのに、審判は技術不足でそれがわからなかったんですね。結局、判定は覆らず、彼の手に渡されたのは銀メダルでした。このケースは、悔し涙を流してもよかったのです。

しかし、実際には「すべて自分が弱いから負けたんです」と、彼は潔く引き下がっていました。一方で、勝者の涙は美しい。目的を達成するに至るまでの苦難を噛みしめるうちに落涙する──。素敵ではありませんか。

ところが、真の強者は泣かないんですよ。その例がウサイン・ボルト選手。彼が泣いたのを見たことがありません。だから、受験生にも「ボルトのようになりなさい」と激励しています。実際、真のトップ層は合格しても涼しい顔をしています。

東大合格など人生のワンステップにすぎない

受験の話をもう少ししましょう。まず、受験は完全実力の世界です。最近は本当に入りやすくなっているので、運がよくて受かることはあります。直前でおさらいした部分が出題されて、それで受かったということはありえますからね。

しかし、運が悪くて落ちるなどということは、絶対と言ってよいくらいありえません。落ちた生徒は、すべて実力不足が原因です。ただただ準備が足りなくて落ちたのに泣きじゃくるような生徒を見ていると、かわいそうだとは思いますが、「そういうことではないんだけどなあ」と冷めた思いになってしまうのも事実です。

しかし、それ以上に嫌いなのは、たかが(あえてこういう表現をします)東大に受かったぐらいで泣いて喜び、大騒ぎをする生徒です。その気持ちがまったくわからないとは言いませんが、東大合格なんて単に人生のワンステップを突破しただけで、実際は何も始まっていません。

実際、真のトップ層で泣いて喜んだという生徒を見たことがありません。みんなさらっと受かって、すぐ次のステージに向けて走り始めます。だから、僕はあらかじめ授業でこう伝えておくんです。

「受かっても落ちても、くれぐれも大騒ぎしないでください。日本にカースト制はありません。だから、身分のせいで不合格にされることはありません。また、書類審査もないんですから、容姿も考慮されません。僕でも大丈夫でした(笑)。本当に平等です。公平なんです。君たちの書いた答案用紙だけで評価してもらえます。落ちるのは単なる実力不足。もし落ちたら『実力不足でした』とペコリと頭を下げてください」と。不運だなんて思っていたら成長は不可能です。

本当のトップは感情を揺らさない

かつて大阪の授業後に、こんなことがありました。入試直前の最後の授業が終わったとき、いつもはさっさと帰ってしまうのに、珍しく数人の生徒が教室に残っていました。
そろいもそろって飛びきり優秀な生徒たちでしたが、さすがに時期が時期です。

「もう直前なんだから、さっさと帰って勉強しなよ」と僕が言うと、そのうちの一人がニヤニヤしながら、「今、話していたんですけど、僕たちどうやっても落ちようがなさそうなんですよ」と。残りの生徒もうなずきました。

彼らは全員東大理Ⅲ志望、すなわち日本で最難関の学部の受験生たちです。普通なら、「そうは言っても油断大敵だぞ」くらいのことを僕も言うのですが、本当の自信に満ちあふれた彼らを見ていたら、それすら不要であることを悟りました。

合格発表当日、東大で出会った彼らは全員笑顔でした。
「ね? 言った通りでしょう?」
かといって、特にはしゃぐこともなく淡々としている彼らの様子は、僕には非常に好ましく映りました。十分な準備を重ねて(彼らは本当によく勉強していました)、落ちようがない状況をつくり上げ、そのまま受かっていく──。

そして大騒ぎもしないで、ただちに大学の勉強をスタートする。この姿勢は、我々社会人も学ぶべきものがあると思います。

いかに「勝負」という感覚で仕事に取り組めるか

もちろん、ビジネスは受験ほど「公平」ではありません。ある程度の運不運はあります。それでも不運を嘆いたところでどうにもならないのは受験と同じです。

では、どうやって幸運を引き寄せるか? 僕は、すべての物事に「勝負」という感覚を持ち込むという方法があると思い、自らも実践しています。一つひとつの仕事を「勝負」だと思って、真正面から真剣に取り組む──うまくいけばそれでいいやという感覚を捨て、よりよい勝利を目指して貪欲に立ち向かう。

そうした姿勢を貫くことによって、運も味方してくれるようになる。そういうものだと考えています。なんだ、当たり前のことではないか、と思われる方も多いでしょうね。しかし、仕事がうまくいっている人は、まず当たり前の真面目さを備えている人ばかりです。

目の前の仕事に対して誠実になれない人に、幸運が訪れることなどありえません。誠実に取り組んでいると、ときに気まぐれな幸運の女神がプレゼントをくれる、そういったものです。ただ、彼女は案外、押しに弱いのも事実です。

 

 

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PROFILE
林修

1965年愛知県生まれ。東進ハイスクール、東進衛星予備校現代文講師。東京大学法学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。その後5カ月で退社し、予備校講師となる。現在、東大特進コースなど難関大学向けの講義を中心に担当。テレビ番組のMCや講演など、予備校講師の枠を超えた活躍を続けている。

林修の仕事原論 (青春新書インテリジェンス)

林修の仕事原論 (青春新書インテリジェンス)

  • 作者:林 修
  • 発売日: 2016/11/02
  • メディア: 新書