「ごちそう様」って誰のこと? 語源を知らずに使っている日本語

いつも使っているのに、なぜそう言うのか聞かれると「?」となってしまう日本語、けっこうあるものです。日本語講師の岩田亮子さんが、外国人の生徒さんの「素朴で鋭い」質問から得た気づきを教えてくれます!

「おはよう」「こんにちは」って、もともとどんな意味?

朝会った人に「おはよう」、日中に会った人に「こんにちは」と挨拶します。普段、深く考えずに使っている挨拶の言葉ですが、「おはよう」や「こんにちは」には、もともとどんな意味があるのでしょうか。

「おはよう」は、「お早く、起きられましたね」や「(ある場所に)お早く、お着きになりましたね」などというときの「お早く」が音変化して「おはよう」になった言葉です。

 「こんにちは」の由来は、「今日(こんにち)は、ご機嫌いかがですか?」や「今日(こんにち)は、良い日ですね」などに使われる「今日は」です。これが「こんにちは」になりました。ちなみに、「こんにちは」を「こんにちわ」と書く人もいますが、言葉の由来から考えると、正しくは「こんにちは」です。

それでは、この「おはよう」と「こんにちは」、何時までが「おはよう」で、何時からが「こんにちは」になるのでしょう。例えば、午前10時から会議があるとき、集まった人たちへの挨拶は「おはようございます」がいいのか、「こんにちは」がいいのか、迷いませんか。

NHK放送文化研究所が、「テレビで出演者があいさつする場合に『おはようございます』は何時まで言ってもかまわないか」と調査したところ、「午前9時まではよい」と考える人が約90%だったのに対し、「午前10時まで」は約64%でした。午前10時になると、約3分の2の人が「よい」としつつも、3分の1以上が「おはようございます」に違和感を覚えるようです。

そう考えると、午前10時の会議の挨拶は難しいところ。30人参加するとしたら、10人以上は「おはようございます」に抵抗を感じるかもしれません。この調査では、50代や60代と年齢が上がるにつれ「よい」の割合が下がっています。参加者の顔ぶれを見たほうがいいかもしれませんね。

食事を終えたときに言う「ごちそう様」って誰?

また、「ごちそうさま」は、食事を終えた後の挨拶です。漢字で書くと「御馳走様」。「〜様」と書くことから、外国人の生徒さんから「ゴチソウ サマ ハ 誰 ニ 言ッテ イマスカ?」と聞かれたことがあります。えらい人や目上の人を指すのではないかと言うのです。

「ごちそうさま」は、食事を振る舞ってくれた人に対する感謝の気持ちを伝える言葉として使います。「ごちそう」は、「馳走」という言葉に丁寧語の「ご」がついたもの。「馳走」の本来の意味は、「走り回ること」や「奔走すること」です。スーパーや商店街がない昔は、今と違って食事の準備は大変でした。お客様をもてなすためには、あちこち走り回って食材を集める必要がありました。

そこから転じて、「ごちそう」は、食事などを出して客をもてなすことや、もてなすための料理を指し、今では「おっ、スキヤキか。今夜はごちそうだね」などと使います。

この「ごちそうさま」は、もともとは仏教由来の言葉で、「ごちそうさま」とは「韋駄天(いだてん)」のことという説があります。韋駄天は、足が速いことで知られるバラモン教の神様ですが、古代インドではお釈迦様の骨が盗まれたときに、俊足を活かして犯人を捕らえたという言い伝えがあります。

昔の人が、食事が出されたときに、韋駄天が足の速さを活かして「あちこち走り回って食材を集めてくれた」と考え、感謝の気持ちを込めて「ごちそうさま」と言うようになったとされています。

「おいしい」は「お+いしい」

丁寧語の中でも、言葉に「お」や「ご」をつけて表現するものを美化語と言います。「お食事」、「お名前」や「ご連絡」、「ご挨拶」などと使います。
美化語は、話しているものに「お」や「ご」をつけて上品に表現すると同時に、そうした丁寧な表現を通じて、話している人の品格を高めるという働きがあります。
美化語には、普段から何気なく使っているため、美化語とは気づきにくいものも多くあります。例えば「おにぎり」、「おでん」、「お帰りなさい」など。言われてみれば、いずれも「お」が付いたことで丁寧な言い方になっているとはわかりますが、普段の会話で「にぎり」と言えば寿司になるし、おでんを「寒いね。『でん』でも食うか」はピンときません。
「お帰りなさい」と出迎えるときに「帰りなさい」では、おかしな命令になってしまいます。いずれも「お」を取って使うことがほとんどないので、美化語であることは、あまり認識されていないかもしれません。
「おいしい」も、同じように美化語です。これは、もともと「お+いしい」という言葉。つまり、「いしい」を丁寧に、上品に言ったのが「おいしい」なのです。それでは、「いしい」とはどういう意味でしょう。
「いしい」はもともと、女房詞(にょうぼうことば)で「味が良い」ことを意味します。女房詞とは、室町時代初期の頃から宮中に仕えていた女房たちの間で使われ始めた一種の隠語のようなものとされています。
水のことを示す「おひや」、青色の野菜を示す「あおもの」、里芋の「衣(きぬ)かつぎ」といった女房詞は、現在でも通用しますね。こうした女房詞の中の「いしい」に「お」がついて「おいしい」という美化語になりました。

別れ際の「さようなら」って、もともとはどんな意味?

日本語での挨拶の言葉には、前述した「おはよう」、「こんにちは」のように、もともとは長い言葉だったものが省略されて短くなったものが多くあります。

別れ際の挨拶の「さようなら」も、もともとは「然様(さよう)ならば、もう帰ります」や、「然様ならば、これにて御免(ごめん)」など、帰り際の挨拶が短くなったものです。「然様ならば」とは、「それでしたら」や「それなら」、「そうなら」といった意味合いの接頭語です。

つまり、「さようなら」とは、「然様ならば」が「さようなら」に変化したもの。そうなると、「さようなら」のもともとの意味は、「そうでしたら」や「それなら」となってしまいます。じつは、あまり深い意味を持たない接頭語だったのです。

 

PROFILE
岩田亮子

日本語講師。大学卒業後、産業・経済専門紙記者を経て、2003年から現職。現在、外資系自動車会社をはじめIT部品メーカーなどのビジネスパーソンや外国人研修生を対象とした日本語研修、日本語学校での授業を担当。初めて日本語と日本文化に触れる外国人から、大学や大学院への留学を目指す外国人まで、「誰もが楽しく学べる」をモットーに日本語のレッスンを実施。外国人の生徒さんから寄せられる素朴な「日本語の大疑問」に日々新たな発見をしている。