決断力が弱いほどダイエットに成功する!? 脳科学からわかった理由

「決断力がある」と言われると悪い気はしませんが、じつはダイエットの場合はその決断力がジャマをしてしまっていることも。脳科学者の中野信子先生が、人間が意思決定をするときの仕組みについて説明してくれます。

判断をするときに使われる2つのシステム

人間がなんらかの判断を下すときには、主に脳の2つのシステムを使っています。まず1つ目が、ものごとを迅速に判断する「Xシステム」と呼ばれるもの。Xとは「reflex=反射」からとられました。“反射システム”と置き換えて考えてもよいでしょう。

このXシステムの特徴は、その名の通り反射的にものごとを素早く判断できること。よく“即断即決”などといいますが、それをするにはXシステムが不可欠です。そのかわりマイナス面もあります。それは速いだけに間違えやすいこと。要は「拙速」な判断になりやすいという弱点を抱えるのです。

ネット掲示板などで、よく考えずにいい加減なレスをしたとき、「脊髄(せきずい)反射でものをいうな!」などと揶揄されたりしますが、そのイメージにも近いかもしれません。

また、ときどき問題になる、国会や都議会で質問する議員への“ヤジ”。以前大きな批判の的となった「自分が早く結婚したらいいじゃないか」「産めないのか」などと心ないヤジを入れたあの件などです。

これも脳的にいうと、Xシステムを通しての発言です。いっている本人は、答弁に合いの手を入れるように素早く面白いことをいったつもりですが、あまりに配慮が欠けていたため大きな問題となりました。

“決断力がありすぎることによる弊害”もここにあります。何ごともスパッと決められるのはいいけれど、深い思慮や緻密な計算が欠けているため、後になって大きな問題が発生してしまうこともあるからです。

たとえば仕事でとてもイヤなことがあったので、次の転職先も考えずにスパッと会社を辞めてしまう。ところがいざ転職活動を始めてみると、元の会社を上回る条件や仕事内容の会社がまったく見つからない……。

あるいはプライベートでの話。飲み会で出会った女のコの見た目がとてもタイプだったので、すぐに告白してつき合い、1カ月であっさりスピード婚! ところがいざ毎日顔を突き合わせてみると、意外と趣味や好みが合わないことがわかってくる。話が合わないから家での会話はどんどん少なくなり、一緒にいる毎日が苦痛に……。

このように、Xシステムによる“思い切りのよい決断”も、一歩使い方を間違えると大きな失敗となってしまう可能性もある。ときには人生を狂わせかねないのです。これを避けるには、どうすればいいのでしょうか?

ちなみにこのXシステムが働いているのは、脳の大脳辺縁系という部分です。大脳辺縁系は快感や喜び、不安、恐怖といった情動を司る器官で、“情動脳”や“哺乳類脳”などとも呼ばれます。ある意味、とても“動物的”な器官なのです。

判断が遅いけど合理的な脳の「Cシステム」

スピードは速いが大きな過ちも起こしかねないXシステムに対処するにはどうすればいいのか。そこで注目したいのが、人間が意思決定をする際のもう1つのシステム「Cシステム」です。Cは「calculate=計算する」のCと考えれば覚えやすいでしょう。

こちらの特徴は、Xシステムに比べるとずいぶんスピードが遅いかわりに、ものごとを慎重に判断できること。たとえばXシステムなら「あの人は悪い人だ」と拙速に判断するところを、Cシステムなら「いや、ちょっと待てよ。あの人は悪い人に見えるけど、じつはいいところもあるんじゃないか」と考え直すことができます。

いうなれば、ものごとを長期的な視野に立ってより正確に、合理的に判断できるシステムなのです。Cシステムはそのシステムの特性上、“熟考システム”と置き換えて呼んだらわかりやすいかもしれません。

たとえば先ほどの結婚のケース。こちらのCシステムを通したなら、つき合ってすぐに結婚を決めたりはせず、もう少し長くつき合ってみた末に、「この女性はとてもキレイでタイプだけど、自分とは性格が合わないので長く結婚生活をともに送る相手としては不向きだ」と、より正しい判断が下せます。

会社ですごくイヤなことがあったケースでも、Cシステムを通せばすぐに会社を辞めたりはせず、まずは辞めるべきか残るべきかをじっくり考え、そのうえで「辞めても、いまの会社以上の職場を見つけるのは難しそうだし、いま抱えている問題は腰を据えて対処すれば、おそらく解決は可能。だからいまは会社に残るべきだ」と慎重かつ合理的なジャッジが可能になるのです。

もう1つ例を挙げてみましょう。多くの人の関心を集める「ダイエット」です。じつはダイエットこそ、成功するかしないかはまさにこのCシステムにかかっているといっても過言ではないのです。

たとえばダイエット中に目の前に食べ物がある。そんなときにXシステムに頼ってしまえば、「美味そうだ」「腹が減った」という情動が勝ってしまい、すぐに“よし、食べよう”という判断を下してしまう。

これがCシステムならどうでしょう。「ここで食べたら、絶対に“食べなければよかった!”と後悔するだろうな」と考えることができる。その結果、目の前の食べ物をなんとか我慢できる。

 “決断力のある人”と聞くととても頼もしく、かっこよく見えます。片や“優柔不断な人”と聞くと、なんだか頼りなくてだらしない感じがします。でも、日々の生活では、情動に任せてどんどんものごとを決めていくよりも、長い目で見て慎重に判断したほうがいい結果となることがはるかに多いものです。

要は決断力は“蛮勇”と隣り合わせ、そして一方の優柔不断は“慧眼”と隣り合わせといえるかもしれません。優柔不断は決して悪いことではなく、じっくり考えている証拠といえるのです。そしてわたしはそういう人のほうが、つねに即断即決の人よりも人間らしく、人として知能が高いと感じます。

「アクセル」と「ブレーキ」の働き

決断力があって素晴らしいなと思うケースもあります。その1つがテレビの世界です。テレビの世界では、秒刻みの展開でいかにパッと気の利いたことをいえるかがとても重要です。その点、お笑い芸人さんは本当にすごいものがあると思います。

とにかくものごとに切り返しを入れるスピードが人より速い。その差はコンマ何秒の差かもしれませんが、そのスキをついて面白いことをどんどんいっていく。その姿には、共演していて毎回感心してしまいますし、かっこよく見えて、非常にうらやましい、妬ましいような気持ちになることもあります。

ただ、あれはあくまで“芸能”の世界における特殊技能なので、普通の人にはなかなか真似できるものではありませんよね。ちなみに、ここまで紹介してきた「Cシステム」が働いているのは、脳の「前頭前野」という部分。その前頭前野のなかでも、主に「背外側部(はいがいそくぶ)」というところが担っています。

前述したように熟考して合理的な判断をする機構で、前述のXシステムで起こったさまざまな情動を、ここでセーブする。Xシステムが“アクセル”だとすると、Cシステムは“ブレーキ”と考えるとわかりやすいかもしれません。

こう考えると、お笑い芸人さんたちはすごいエンジンを積んだランボルギーニのようなスーパーカー、わたしたちは街乗りやレジャーを安全に快適に楽しむためのセダンやワンボックスカーに当たるといえるでしょうか。それぞれの環境に適合した、向き不向きがあるのです。

また、ふだんの生活では、一流の芸人さんたちも意外とセダンのように振る舞っていたりします。そしてじつはある実験で、このCシステムを働かせて余計な情動を抑えられる人は、生涯を通じて“勝者”となりやすいということが証明されているのです。 

PROFILE
中野信子

1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学教授。東京大学工学部応用化学科卒業後、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆を行っている。著書に『脳科学からみた「祈り」』(潮出版社)、『努力不要論』(フォレスト出版)、『サイコパス』(文藝春秋)、『キレる!』(小学館)など多数。テレビのコメンテーターなどで活躍中。

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