北朝鮮はどこへ行く!? 独自の進化を遂げた社会主義体制の行く末

北朝鮮は近年、本来の社会主義がめざすものとは離れた独自の国家体制を志向しています。果たしてこの先、北朝鮮が目指しているゴールとは? この社会主義国家の行く末を、人気予備校講師の蔭山先生が解説します。

「社会主義」と「共産主義」の違いとは?

社会主義と共産主義、この2つの言葉は、よく混同して使われる。同じ言葉としてごっちゃにされることが多く、学校の先生などでも授業の最初では「社会主義」と言っていたのが、後半ではいつの間にか「共産主義」になっていたりする。

この2つは、厳密にいうと別の言葉だ。わかりやすく言えば「社会主義は〝途中〟で共産主義は〝ゴール〟」と考えればいい。何の途中とゴールなのか? それは「平等な社会」を築く途中とゴールだ。

まず労働者は、資本家の搾取に対する不満や怒りがピークに達した時、革命を起こす。そしてその革命に勝利した状態が「社会主義」だ。

しかしこの社会主義の状態は、まだゴールではない。なぜなら社会主義は別名「プロレタリアート独裁」と呼ばれ、まだ完全平等が実現していないのだ。ここでは今まで踏みつけられていた労働者が、逆に資本家を踏みつけるようになっただけなのだ。

革命とはトランプの大貧民ゲームと同じく〝逆転現象〟のことだから、ここからしばらくは支配関係の逆転した「逆の不平等」の時期が続く。

そしてそこで思想改造などが行われることにより、最終的に世の中は「労働者階級だけ」になる。そうすると、もう階級区分の必要がなくなるため〝階級〟という概念は消滅し、その後〝国家〟も死滅する。なぜならマルクス主義の解釈では、国家は「1階級が別階級を抑圧するための道具」だから。階級がなくなった時点で不要になるものなのだ。

このように階級が消え、国家がなくなった状態こそが、社会主義思想の究極の理想「共産主義社会」だ。

南北に分断された朝鮮半島

別々の道を歩み始めた2つの国

資本主義が「自由」をめざすのに対し、社会主義は「平等」をめざす。このめざす方向性の違いから、両者は対立しがちだ。

日本による統治が終わった1945年に朝鮮半島は北緯38度線で分断され、南をアメリカが、北をソ連が、それぞれ占領統治する形となった。

その後、朝鮮半島は、米ソが共同で信託統治することになったが、その方法をめぐって話し合いが決裂し、結局それぞれの占領地域を独立国家とすることとなった。

こうして南が大韓民国、北が朝鮮民主主義人民共和国として独立し、朝鮮半島に2つの国家が誕生したのである。

この時、韓国側のリーダーは李承晩(イ・スンマン)、北朝鮮側のリーダーは金日成(キム・イルソン)となった。金日成は、日本による植民地支配に抵抗する「抗日パルチザン」の朝鮮労働党満洲派のリーダーで、今でも北朝鮮には、抗日闘争に関する数々の逸話が残っている。またパルチザン時代にソ連軍と合流し、ソ連軍の大隊指揮官も務めた。

1950年、北朝鮮軍が分断された南朝鮮人民を解放すべく南進し、朝鮮戦争が始まった。この戦争はアメリカを中心とする多国籍軍に、ソ連軍、中国義勇軍まで入り乱れての大戦争となったが、最終的には1953年、板門店(パンムンチョム)で休戦協定が結ばれて北緯38度線を「軍事境界線」とすることになり、それぞれ独立国家として今日に至っている。

北朝鮮は“君主制”社会主義国を目指す!?

さてその北朝鮮、当初は他の社会主義国同様スターリン型の社会主義を導入していたが、スターリンの死後、他国にない独特な社会主義へとシフトしていった。それが「主体(チュチェ)思想」だ。

主体思想とは、金日成が唱えた北朝鮮統治のあり方で、その内容は「思想における主体、政治における自主、経済における自立、国防における自衛」から成る。

つまりまず「人民こそが歴史の主体であり、自分の運命も含めすべてを自分で決定するものだ」という考えで、人民に革命と建国の主人公という意識を植えつけるのだが、それを無軌道にやったのではうまくいかない。

そこで「首領の正しい指導」が必要になる。なぜなら人民と首領は、同じ肉体の手足と頭脳みたいなものだから、頭脳の正しい導きがあってこそ、手足はその歴史的役割を正しく果たすことができる。だから言うことを聞けということだ。

北朝鮮ではこういう形で、主体思想に基づく独自の個人崇拝の形を確立したが、それにしても問題がある。それは「権力の世襲」の問題だ。

仮に北朝鮮が君主制なら「王の権力は代々血筋の者が世襲」で何の問題もないが、いかんせん北朝鮮は社会主義。平等な社会をめざす国家に、王のように特別扱いされている一族がいるのは、非常にまずい。2代目の金正日は「主体思想の正統な継承者」という言葉で何となくうやむやにしたが、3代目ともなるとそうはいかない。

そこで北朝鮮は、近年とんでもなく大胆なことをやった。なんと2010年、朝鮮労働党の規約に「金日成の党」と明記し、しかもそこから「マルクス・レーニン主義」の文言を削り取ったのだ。

北朝鮮は社会主義をやめたのか!? 僕はめちゃくちゃ驚いたが、北朝鮮の憲法では、あいかわらず国家としては社会主義国家のままだ。しかし朝鮮労働党のほうは、少なくとも規約の文言上は、社会主義の政党ではなくなった。

朝鮮労働党は、一体なぜこんな大胆なことをやったのか? もうおわかりだろうが、社会主義の政党でなくなれば、3代目の金正恩は少なくとも“党”の要職には自由に就けるようになる。それならば文句を言われる筋合いは一切ないし、そこから権力への足がかりを築いていけばいいだけだ。

しかし北朝鮮は、どんどん社会主義の実態から離れて「王国化」している。もはや民主的な自浄作用は期待できないし、やはり外部からの圧力を強めるくらいしか、今のところ手立てはないのかもしれない。

 

PROFILE
蔭山克秀

代々木ゼミナール公民科で人気№1の講師。早稲田大学政治経済学部卒。指導科目は政経、倫理、現代社会、倫理政経で、4科目すべての講義がサテライン衛星授業として、全国の代ゼミ校舎および提携高校・提携塾に映像配信されている。語り口のテンポのよさ、板書の正確さ、講義内容の面白さとわかりやすさで、生徒たちから高い評価を受ける。また「新報道2001」をはじめ、テレビ解説や雑誌連載でも活躍中。主な著書は参考書類20冊以上に加え『やりなおす戦後史』(ダイヤモンド社)、『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)、『マンガみたいにすらすら読める哲学入門』『マンガみたいにすらすら読める経済史入門』(大和書房)など。