「最初のひと言」で商談の成果は9割決まっている

仕事のありきたりな定型句にちょっとした言葉を加えたり、いつものメールに一文を加えたりするだけで、人間関係はもちろん自身への評価、仕事の業績、そして自分の未来さえも大きく変えることもできます。リーダーシップやコミュニケーション、子育て講演などで活躍する松本秀男さんに、その方法を教えてもらいます。

できる人・残念な人の「最初のひと言」

初めて商談するお客様に、できる営業がまず口にするひと言は、次のどちらだと思いますか?

①私どもの商品には○○という特徴があります。

②この商品で何かお困りのことなどありますか。

①のように、初めてのお客様にいきなり商品の宣伝をはじめる営業がいますが、それでうまくいくことはまずありません。答えはもちろん②です。なぜなら、お客様は商品ではなく“解決策”がほしいのです。

住宅リフォームを例にとると、台所が古くて使いづらい、動線が悪いなどといった不満があって、それをきっかけにリフォームをしようという動機が生まれます。

どこに不満があって、どこを改良したいのかも聞かず、一方的に「こちらが新素材を使ったキッチンです」「新しいトイレは高機能で清潔です」と商品をぶつけても、相手の気持ちには届きません。

私は損害保険の営業をしていましたが、それは不安やリスクというマイナスの課題に対する解決策を提供する仕事です。ですから、いたってシンプルな質問ではありますが、②のようなひと言がお客様の心の扉を開くのです。

悩みや不安がはっきりしていればいるほど、このひと言だけでせきを切ったようにお客様は話をはじめます。

「実は同業者の○○さんのところで、こんな事故があってね。保険会社の対応がこうこうで……」と、いきなりストライクな答えが返ってくる可能性もあります。

そうなると、商談の様子が一変。ゴールに向かってまっすぐにレールが敷かれ、その上を走る快適な商談になります。

ところが、こちらが勝手にレールを敷いたり、強引に電車を発車させてしまうと紛糾必至。お客様は「そうじゃない。違う、違う。何言ってるの」という気持ちになってしまうのです。

「違う、違う」と言ってもらえればまだいいのですが、ほとんどの人はそこで沈黙! さもなくば「あー、いいです」と断るだけで終わり。残念な営業は、ずれていることに気づかされることもなく、体よく追い出されてしまうのです。

断られたときの「ひと言」がその後を左右する

うまく商談が進んだとしても、途中で断られることは残念ですがよくあります。そんなときのひと言でも、できる営業とそうでない営業の差が出るものです。

「また、ご縁がありましたら」とか、「また、よろしくお願いします」で終わる営業に、次のご縁はありません。最後に必ず、

「今後もまたご提案をしてよろしいでしょうか」

という意味合いの言葉を加えておくこと。これで「いいよ」という言葉を引き出せば、またいつでも訪問してよいというぼんやりとした合意が、暗黙のうちにお互いのうちにできます。いわば、無期限の通行手形をもらうようなものです。

残念な営業は、有効な商談に持っていけないと「ダメだ、このお客様」と見切りがちですが、それはあくまでも営業側の発想にすぎません。

たまたまタイミングが悪かったり、相手の仕事が忙しくて落ち着いて考える暇がなかったりしたのかもしれません。また、ちょうど資金繰りの谷間で、あまり余裕がなかったのかもしれません。

営業だけでなく、就職試験も大学入試も恋愛も結婚も、すべてタイミングです。断られたからといって、全人格を否定されたように思うのは間違いです。

かつて、「断られた時点で、本当の営業がはじまる」という名言を吐いた人がいました。「断られた」というのは、全体のセールスプロセスの一部分でしかありません。断られてもそれでおしまいということではないのです。

同時に、契約したからといって、それがゴールでもありません。継続してもらったり、新商品を買ってもらったりするなど、お客様と営業との関係はずっと続いていきます。その全体がセールスプロセスなのです。

断られても、タイミングや状況が変われば、また改めて商談、契約と進んでいくこともあります。ですから、一回断られただけで投げ出さないこと。将来の収穫を期待して種をまき続けるようにしましょう。営業も人生も、人とのつながりがすべてなのです。

「契約がとれたら終わり」にしない

商談が首尾よく進んだとしても、契約をとるだけで終わらせるのはもったいない。ある人がやっていた“終わらせ方”は、とても参考になるものでした。

その人営業カバンには、B5判程度の小さなサイズのスケッチブックが入っていました。そのスケッチブックには、1枚に1人、お客様の手書きの文字が記されていたのです。それを初めて見たとき、「すごいな、この人!?」と私は驚がくしました。

それは、お客様から彼へのメッセージであったり、座右の銘であったり、会社の理念であったり、何やら可愛いイラストのようなものであったりします。契約が成立したときに彼はスケッチブックを差し出し、特に目的も言わずにこう切り出すのだそうです。

「私は書類の準備をしていますので、その間にこれに何か書いていただけますか」
「えー、何を書けばいいの?」
「座右の銘でも好きな言葉でも、僕に対するひと言でも、なんでもいいですから」

いきなりこんなことを言われると、人はおとなしく従ってしまうもの。実際、「そうかー」と言いながら、「一期一会」「感謝」などと書いてくれるのだそうです。

彼によれば、契約が成立するくらいだから、すでに信頼はいただいているけれど、このスケッチブックに書いてもらうことで、一気に距離が縮まるというのです。

その時点までの質問というのは、社長の事業やプライベートのことを聞きながら、課題や思いや悩みなどを察していくものですが、このスケッチブックの言葉は、いきなり社長の心の中が表に出てくるので、距離の縮まり方がすごいとのこと。

書いてもらった瞬間に、2人の間はビジネスでのつながりではなく、人と人とのつながりになり、言葉づかいも変わってくるそうです。

「へえ、社長はこういう言葉がお好きなんですか」「うん、こういうことを大事にしているんだよね」といった具合。いわば、それまで「お客様対営業」だった会話が、一瞬で「お酒飲んでいるトーク」に変化するのだから超強力です。

とくに損害保険は年に一回更新するだけなので、フォローをしたくてもお客様の数が多くて何度も通うのは難しい。だからこそ印象に残ることで、気持ちもつなげておく。スケッチブックの言葉一つで、電話をすれば「おう、○○くん!」と言ってくれるような関係をつくれるのです。

 

PROFILE
松本秀男

一般社団法人日本ほめる達人協会専務理事。国学院大学を卒業後、歌手さだまさし氏のマネージャーを経て、家業のガソリンスタンドを再建。45歳で外資最大手のAIU保険の代理店研修生に。そのコミュニケーション力で数々の成果をあげ、トップ営業、本社経営企画部のマネージャーとして社長賞を受賞するなど、まわりにムーブメントを起こす感動エピソードを生み出し続けた。組織を動かし、家庭まで元気にする達人として活躍中。