肉には発がん性があるのか?
食生活の欧米化に伴い、若い世代を中心に魚より肉を好む日本人が増えているように感じます。しかし、がん予防の観点からは、肉よりも魚に軍配があがります。
2015年、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、肉(加工肉および赤肉)の発がん性について、以下の発表を行いました。
これは、10カ国22人の専門家からなる研究グループが、過去20年にわたる800件以上の研究論文を総合的に解析したものです。
・加工肉の摂取は、大腸がんを引き起こす「十分な医学的根拠」がある。そのため喫煙やアスベストなどと同じグループ1(人に対して発がん性がある)に分類される
・赤肉(牛、豚、羊の肉。鶏肉は含まれない)は、大腸がんのほか、すい臓がん、前立腺がんとの関連性も見られたが、「限定的な証拠」であったため、グループ2a(人に対しておそらく発がん性がある)に分類される
加工肉には、ベーコン、ソーセージ、ホットドッグ、サラミ、コーンビーフ、ビーフジャーキー、ハムなどが含まれ、その製造過程で使われる亜硝酸ナトリウムなどの食品添加物に発がん性があることがわかっています。
また、赤肉にはヘム鉄という成分が含まれていますが、食べ物として取り込まれると体内で活性酸素をつくり出し、がんのリスクを高めると考えられています。
毎日ハムやソーセージを食べている人は要注意!
では、どのくらい食べたらがんになるリスクが増加するのでしょうか?
研究によると、加工肉も赤肉も食べる量が多ければ多いほど、大腸がんのリスクが高くなると言われています。
まず加工肉の場合、目安として1日50gの摂取量増加に伴い、一生涯における大腸がんの発生リスクが18%上昇するとのことです。
ちなみに加工肉50gとはいったいどのくらいの量なのでしょうか?
一般的に、ウインナーソーセージは1本約20gなので2.5本、フランクフルトソーセージは1本約50gなので1本、ロースハムだと1枚約13gなので4枚程度の計算になります。この量を毎日食べ続けると、大腸がんを発症する相対リスクがおよそ20%上昇するのです。
赤肉に関しては、1日100gの摂取量増加により、大腸がんのリスクが17%上昇するという結果でした。
また、赤肉の摂取は大腸がんに限らず、ほかのがんのリスクも高めることが研究によって明らかとなっています。
たとえば、フランスでの大規模な研究結果によると、赤肉の摂取が最も多いグループは、最も少ないグループに比べ、すべてのがんのリスクが31 %、乳がんのリスクが83%高くなることが示されています。
ただし、これらの研究結果は海外のデータであり、食生活の異なる日本人にそのままあてはまるとは言えません。では、日本人ではどうなのでしょうか?
日本では、45歳から74歳の男女約8万人を対象に加工肉・赤肉摂取量と大腸がん罹患リスクに関する追跡調査を行った研究結果が、2011年に報告されています。
この研究では、食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、肉類の総量や加工肉・赤肉の摂取量が低い人から高い人まで5つのグループに分けて、その後の大腸がんの発生リスクとの関連を検討しました。結果は以下の通りでした。
・加工肉については、男女ともに大腸がんとの関連は見られなかった
・女性は、毎日赤肉を80g以上食べるグループで結腸がんのリスクが高かった
・男性は、肉全体の摂取量が最も高いグループで大腸がんのリスク上昇が見られたが、赤肉に限った解析ではとくに関連は見られなかった
これらのことから、加工肉および赤肉を食べすぎることは、大腸がんをはじめ、がんのリスクを増加させる可能性があると考えられます。
ただ日本人は、そもそも欧米人と比べるとそれほど肉を多く食べる習慣はありません。
実際、2020年の国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、日本人の赤肉・加工肉の摂取量は1日あたり70gで、世界的に見て最も摂取量の低い国の1つです。
つまり、日本人の平均的な摂取の範囲であれば加工肉や赤肉が発がんリスクに与える影響は少ないと言えます。
とはいえ、とくに加工肉に関しては、やはり食べすぎはよくないでしょう。ハムやソーセージなどを毎日食べているようなら、2、3日に1回に減らしてください。
一方、赤肉には鉄分や亜鉛などのミネラルやビタミンB12などが豊富に含まれており、栄養的なメリットもあるため、適量であればむしろ食べるべきだとする研究者もいます。
摂取量の目安としては、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による評価報告書(2007年)で、赤肉は調理後の重量で週500g以内にするようにと勧告していますので、「1週間に500g末満なら問題ない」と言えるでしょう。
要はバランスが大切であると言えます。
毎日、牛肉や豚肉を食べている人は、週に数日は赤肉を摂取しない日を設け、2日に1度は鶏肉や魚に替えるといった工夫をしてみてください。
医師・医学博士(産業医科大学第1外科講師、在宅サポートながさきクリニック非常勤医師)。1968年、福岡県生まれ。93年、九州大学医学部卒業。外科医として研修後、九州大 学大学院へ入学。2001年から米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部にてがんの分子生物学を研究。2006年より九州大学腫瘍制御学助手、12年より産業医科大学助教を経て現在にいたる。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会、日本消化器外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。16年に「がんをあきらめない人の情報ブログ」(https://satonorihiro.xyz/)を開設し、がんについての情報を発信。著書に『ガンとわかったら読む本』(マキノ出版)、『がんが治る人治らない人』(あさ出版)等がある。