日本人の年金がピンチ!? 運用成績が世界と比べて明らかに低い理由

年金の行く末は・・・?

これから急激な少子高齢化を迎える日本では、「年金」の原資不足が懸念されています。政府は少しでもそれを補おうと巨大な資金を投資に回していますが、その成績は世界標準の半分以下。それにはどのような理由があるのでしょうか。信州大学特任教授の上地明徳先生に解説してもらいます。

世界の年金運用は相場予測をしていない!?

アメリカ、カナダ、スウェーデン――。こうした国の年金基金は、経済や市場の予測をせずに長期国際分散投資を行っていることをご存じでしょうか? じつは、世界それぞれの国で国民の年金を運用しているプロの機関投資家(年金基金)たちは、相場予測をする必要はないと考えています。

世界の年金基金が市場予測を行わない理由は、予測は当たらないからという理由のほかに、彼らの目的(ゴール)が長期で資金を増やすことだからです。年金ですから、1年後、2年後ではなく、10年後、20年後の資産最大化を目標に設定しているわけです。

1年で何が何でも資金を増やしたいなら、予測という「賭け」が必要ですが、10年後のお金を増やすのに「賭け」は不要。「10年後、おそらく世界経済は今よりも成長しているだろう」くらいの感覚で運用しています。

資産運用は、目的(ゴール)が決まると、それに応じた最適戦略と最適商品が決まります。世界の公的年金ポートフォリオ(=保有資産の組み合わせ)の事例を紹介しましょう。どの国でも基金の半分以上を株式資産に投資していることがわかります。

世界の公的年金ポートフォリオ

各国のポートフォリオを見てみると、日本だけほかの国と少し違うことに気がつきましたか? 日本の厚生年金は、日本株と外国株式で50%、日本債券と外国債券で50%とちょうど半々になっています。

次に、各国の運用成績を見ていきましょう。ここでの日本の成績は、大学の成績で評価すると「C」という感じですね。

各国の運用成績

15年という長期の年率平均リターンが3%程度というのは、世界標準からするとお粗末な成績と言わざるを得ません。不合格ではないけれど、最低の成績という位置づけです。世界標準の7%で初めて成績「A」をつけられます。

日本の公的年金の運用は“ヘタ”なのか?

どうして日本の公的年金の運用は世界標準の半分以下の成績なのでしょうか? これは上記のポートフォリオで示されているように、日本株が25%保有されているからです。

世界経済において日本経済が占める割合から見れば、せいぜい「10%」程度が適当です。日本債券は35%あり、これも多すぎる。ゼロでもいいくらいです。日本株と日本債券を合わせて60%も持っているというのは、リスク分散という意味では少々疑問です。

多くの方は、「なぜ世界標準に近い運用を目指さないのか? 成功している国の年金運用をマネすればいいじゃないか?」と思うでしょう。

そうしない理由は、日本の公的年金の目的が「長期リターンの最大化」とは別のところにあるからです。

「日本株の25%」は、2012年まで「12%」だった比率を引き上げたのですが、当時は円高デフレ不況で日本株は底値を這う最悪の状況でした。1ドル80円、日経平均株価8000円割れの中で、日本の株式市場を買い支えたいといった政治的な思惑が働いた結果の「25%」なのです。

これでは、日本の公的年金基金の運用成績が悪いのも納得がいきます。

世界の年金運用先から投資先を学ぶ

もう一度、各国のポートフォリオをご覧ください。株式比率が一番低いのがカリフォルニア州政府職員の年金で58%。高いのはカナダの公的年金で85%です。運用成績は3つの中で一番低いのがカリフォルニアで「6.6%」、高いのがカナダで「8.5%」です。

このデータからわかることは、長期の運用成績が最もいいカナダは、株式の比率がほかの国に比べて大きいということです。つまり株式の比率を高くすると、長期的なリターンは高くなるのです。

しかし、日本の一部メディアは短期的なリターンの変動性が高まること、つまり短期的には損するリスクが大きくなることばかりをネガティブに報道し、長期的なリターンで得られるメリットを報じません。

さらに補足すると、年金以外の分野でも長期目的で運用する人たちがいます。〇〇財団、××基金といった団体です。日本の財団や大学基金では、投資は積極的に行われていませんが、欧米の財団・基金の多くでは長期国際分散投資が実践されています。

この世界標準の長期国際分散投資を個人に応用したのが、私が勧める「長期・分散・積立」投資です。

「長期・分散・積立」投資を実践している人は、日本人の間ではまだまだ少数派ですけれど、世界ではとっくに始めている人たちがたくさんいるのです。

日本だけに投資するのはリスクがある

国内の情報についてはほかの国の情報よりも多く詳しく入ってくるため、日本人の方にどこに投資をしたいかと聞くと、日本の企業が中心になってしまいます。

しかし、現実的に考えると、長期の投資先として考えた場合、将来的な日本経済の実力はそんなに高くならないことを覚えておきましょう。

「先進国+新興国の株式インデックスファンド」に投資をすれば、世界でよほどのことが起こらない限り手堅く成長を取り込めます。

iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどの制度も用意されているので、「もう遅い」などと考えず、投資への一歩を踏み出してみてください。

 

PROFILE
上地明徳

1958年東京生まれ。オンライン金融ビジネススクール「上地ゼミ」主催者、一般向けには同じくオンラインで学べる「アール宅配便」を通じて長期国際分散投資の啓蒙活動を行う。また、信州大学経営大学院特任教授としてファイナンス科目を担当。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、米国モルガン・スタンレー証券にトレーダーとして入社。1998年、日本初の投資信託専門証券会社の設立に参画、同社にて専務取締役。その後、米国大手資産運用会社にてアドバイザーを歴任。『ダマされたくない人の資産運用術』(小社刊)のほか著書・論文多数。2014年、大阪銀行 協会より論文『銀行の投資信託販売と投資家の行動バイアス』で優秀賞を受賞。2016年、『年金民営化の経済分析』で特別賞受賞。