座らないだけですごい効果⁉ カンタンで安上りな「がん予防法」

日本では、年間100万人以上が新たにがんにかかると報告されています。「日本人の2人に1人が一生のうちにがんにかかる時代」だそうですが、もちろん当事者になるのは避けたいもの。予防のためにカンタンで安上りな方法は……? 世界の最新研究で明らかになった、エビデンスに基づく方法を佐藤典宏医師に伺いました。

「座りっぱなしの生活」はがんのリスクを増加させる⁉

現代社会では、生活が便利になる一方で、あらゆる場面で座って過ごす時間が増えました。たとえば、娯楽(テレビ、ビデオゲーム、コンピューター、スマートフォン、タブレット、読書など)、仕事(デスクに座っての仕事、パソコンに向かっての仕事など)、移動(バス、車、または電車)など、日常生活では座ったままで行うことが圧倒的に多いと思いませんか?

とくに、長時間仕事をする日本人は座っている時間がほかの国に比べても長いといわれています。世界20カ国の成人を対象に、平日の座位時間について調査した研究結果では、世界20カ国の平均が5時間なのに比べ、日本人はなんと平均を2時間上回る1日7時間であることがわかりました。

そして、座って過ごす時間やテレビの視聴時間が長い人(つまり活動性の低い人)は、肥満や糖尿病などの生活習慣病に限らず、すべての部位のがん(とくに大腸がん、すい臓がん、子宮体がん、および肺がん)になりやすいことが多くの研究によって明らかとなっています。

日本人(3万3千人以上)を対象とした大規模な調査では、仕事中に座ったままの時間が長い人ではすべての部位のがんのリスクが上昇する傾向にあり、とくに男性ではすい臓がん、女性では肺がんのリスクが高くなるという結果でした。

では、なぜ座っている時間やテレビを観ている時間が長いと、がんのリスクが増加するのでしょうか? はっきりとした理由の特定にはいたっていませんが、以下の複数の要因が考えられています。

・ 座っている時間が長くなると、エネルギー消費量が減り、様々ながんの危険因子である肥満につながる

・ テレビの視聴時間が増えると、がんの原因となる砂糖入り飲料水やスナック菓子、ファストフードといった不健康な食べ物(超加工食品)の消費増加につながる

・ 運動不足によって、血糖値を下げるインスリンが体で効きにくくなる「インスリン抵抗性」につながり、がんのリスクを高める

・ 運動不足によって、がん細胞の成長をうながす慢性炎症(慢性的な炎症)が引き起こされる

このような理由から、座って過ごす時間が増えるとがんのリスクが高くなると考えられます。言い換えると、「座る時間を減らすことが最大のがん予防になる」のです。

歩く習慣は簡単に取り入れられる!

では、日常でできる座る時間を減らすコツをいくつかご紹介したいと思います。

・買い物など近くへの用事では車を使わず、歩いて移動する

・エレベーター、エスカレーターを使わず、できるだけ階段を使う

・通勤の電車・バスの一駅分を歩く

・職場で座って仕事をする場合、できるだけ歩いてものを取りに行ったり、遠いトイレに行く

・万歩計(歩数計)や歩数などの体の動きが記録できる器具を購入し、まずは1日1万歩歩くことを目標にする

「座る時間を減らす」だけでがん予防ができるのであれば、簡単で、安上がりだと思いませんか? ぜひ、これからは日常生活のなかで、できるだけ座って過ごす時間を減らし、歩く習慣をとり入れてみてください。

運動は13種のがん発症リスク低下につながる!

さらに体を動かす余裕のある方は、ぜひ運動を取り入れてみてください。運動はがんを予防する効果があることも明らかになってきたからです。

運動と様々ながんとの関係を調査した欧米の最大規模の研究が、2016年に報告されました。この研究は、欧米で全144万人を対象に、運動(ウォーキング、ランニング、スイミングなど)に費やす時間や身体活動レベルと、26種類のがんの発症率について調査したものです。

解析の結果、観察期間中に18万6千932件のがんが確認され、最も活発に運動する人は、ほとんど運動しない人に比べ、13種のがんの発症リスクが低下することが示されました。がんの種類と運動によるリスクの低下の割合は以下の通りです。

食道(腺)がん(42%)、肝臓がん(27%)、肺がん(26%)、腎臓がん(23%)、胃噴門がん(22%)、子宮体がん(21%)、骨髄性白血病(20%)、骨髄腫(17%)、結腸がん(16%)、頭頸部がん(15%)、直腸がん(13%)、膀胱がん(13%)、乳がん(10%)

では、日本人の場合はどうでしょうか?

日本人を対象とした研究においても、運動をする人のほうががんになるリスクが低いという結果が報告されています。

日本人約8万人を対象とし、くわしいアンケート調査によって日々の身体活動のレベル(運動量)を評価し、その後、平均7.5年間の観察期間中のがん発症を追跡調査しました。

その結果、最も運動量が少ない人に比べ、最も運動量が多い人は、すべてのがんの発症リスクが男性で13%、女性で16%低くなっていました。

また、がんの種類別では、男性の結腸がん、肝臓がん、すい臓がん、女性の胃がんで、運動によるリスク低下が示されています。たとえば男性の結腸がんの場合、最も活発に運動する人は、ほとんど運動しない人に比べておよそ40%もリスクが下がるという結果でした。

週末だけでもOK! 運動ががん抑制につながるワケ

では、どうして「体を動かすこと」ががんの予防につながるのでしょうか?

色々な要因があると考えられていますが、主なものを紹介しましょう。

・定期的な運動によって、肥満が予防できる(肥満はがんのリスク因子となる)

・運動は血糖値の上昇およびインスリンの分泌を抑える(高血糖状態やインスリンは、がんを進行させる原因となる)

・運動によって、炎症を抑えることができる(慢性の炎症はがんの原因となり、がんを進行させる)

・運動には、がんの原因となる活性酸素を抑制する抗酸化作用がある

・運動によって筋肉から放出される様々な物質にがんを抑制する作用がある

上記の理由から、身体活動量を高めたり、運動をしたりすることによって様々ながんを防ぐことができるのです。

では、がんを予防するためにはどんな運動を、どの程度すればよいのでしょうか?

厚生労働省は、「健康づくりのための身体活動基準2013」のなかで、18歳から64歳の身体活動について、以下のようなことを推奨しています。

・歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行うこと

・65歳以上の高齢者については、強度を問わず、身体活動を毎日40分行うこと

65歳未満の人は、毎日60分間のウォーキングに加えて、30分以上の少し激しい運動(ランニング、サイクリング、スイミングなど)を週2日行うことが大切です。

65歳以上の人は、毎日40分間のウォーキングを目標にしましょう。
いかがですか?

「少しハードルが高い」と思った人や、「忙しくて、毎日運動なんてムリ」という人もいるかもしれません。でも、大丈夫です。

実は、毎日運動できなくても、週末だけ運動すればがんの予防効果があるという研究報告があるのです。

イギリスの研究者らは、6万人以上の国民の運動パターンを、①まったく運動していないグループ、②運動が不十分なグループ、③週末だけ運動しているグループ、④定期的に十分な運動をしているグループの4つに分類し、がん死亡率との関係を調査しました。

その結果、「運動していないグループ」と比較して、「定期的に十分な運動をしているグループ」はがんによる死亡リスクが21%低下していましたが、「週末だけ運動しているグループ」でもほぼ同等の18%低下していたのです。

つまり、週1~2回の運動でも、がんによる死亡率をおよそ20%近く低下させることができるのです。

ただし、週末だけの場合には、少し激しい(息がはずみ、汗をかく程度の)運動が1時間以上は必要です。

できれば毎日、もし無理なら週末だけでも運動する習慣をつくるといいでしょう。

 

 

seishun.jp

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PROFILE
佐藤典宏

医師・医学博士(産業医科大学第1外科講師、在宅サポートながさきクリニック非常勤医師)。1968年、福岡県生まれ。93年、九州大学医学部卒業。外科医として研修後、九州大 学大学院へ入学。2001年から米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部にてがんの分子生物学を研究。2006年より九州大学腫瘍制御学助手、12年より産業医科大学助教を経て現在にいたる。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会、日本消化器外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。16年に「がんをあきらめない人の情報ブログ」(https://satonorihiro.xyz/)を開設し、がんについての情報を発信。著書に『ガンとわかったら読む本』(マキノ出版)、『がんが治る人治らない人』(あさ出版)等がある。

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