英語は勉強しないほうが身につく⁉ 脳医学者も実践する学び方

脳医学者の瀧靖之先生によると、大人の英語にとってもっとも重要なのは「勉強しよう!」という意志ではなく、「楽しみながら続ける」ことだそうです。英語と聞くと、中学や高校時代の苦手意識を思い出す人がいるかもしれませんが、大人が学ぶ英語はまったく別モノ。”勉強”せずに英語を身につける極意を聞きました。

大人の英語に「やらされ感」は不要!

学生時代に英語が苦痛だったという人の多くは、なぜ英語を学ばなくてはならないのかもわからず、ただ授業の1科目として「やらされ感」があったからだと思います。

大人の英語習得は、その「やらされ感」を排除して、自分から楽しく学べるようにすることが大切。そのためには、学んで楽しい素材を自分で選ぶのが第一です。趣味や楽しみから入れば、苦痛を感じるなどということはありません。

入門として一番入りやすいのは、自分の好きな英語の曲を聴くことでしょう。英語の授業や試験が嫌いだった人でも、好きな英語の曲の1つや2つはあることと思います。

そんな曲を聴いて、真似して歌い、歌詞を覚えるというのが、大人の英語の第一歩としておすすめです。単に英文を聴いたり読んだりするのとは違って、メロディやリズムがついているので、自然と覚えられるのが大きなメリットです。

私が若かった1980年代は洋楽全盛期でした。CDやFM放送でシカゴやボン・ジョヴィなどをよく聴いていましたが、なかでも好きだったのはビリー・ジョエルです。

『Honesty』(オネスティ)や『This Night』(今宵はフォーエバー)といった歌をよく聴いていました。もっとも、当時はすべての意味を理解していたわけではありませんでした。30歳を過ぎて英語をやり直すにあたり、歌詞カードを見ながら聴いてみると、「ああ、こういうことを言っているんだな」と改めて納得できたのです。

少し上の世代だと、カーペンターズは発音がきれいなので、英語を学ぶ人に適していると思います。ビートルズの歌詞は俗語も交じってきますが、初心者にも聴き取りやすい英語といえるでしょう。

もちろん、ジャンルはジャズでもハードロックでも構いません。自分の好きな曲を、CDやYouTubeなどでもう一度聴いてみてください。歌詞カードが手元になくても、インターネットで検索すれば探し出すことができます。

映画なら視覚と聴覚の両方からインプットできる

音楽よりも効果的なのは映画です。映画ならば、聴覚だけでなく視覚にも訴えかけてきますので、強く脳に刻み込まれることが期待できます。

日本語字幕付きならば、英語を聴きながら意味がわかるので、教材としてぴったりです。少なくとも、単語力がないうちから字幕なしの映画を観るのは効率的ではありません。英語のリズムに慣れるという意味はあるかもしれませんが、何と言っているかがわからないと、学習効果は低いといわざるをえません。

慣れてきたら英語の字幕付きを観るのもよいでしょう。できれば英語と日本語の字幕が、両方付いていれば理想的です。あっちを見たりこっちを見たりと、あわただしいかもしれませんが。

映画で英語を覚える大きなメリットの一つは、単語や表現が、映画のシーンとともに記憶として脳にインプットされやすくなる点にあります。どのような状況や立場で、どのように使われたのかが、そのシーンとともに強く印象に残るためです。

たとえば、英語で「もちろん」と言いたいときに、あなたは何と言いますか。ほとんどの日本人の頭に浮かぶのは、「Of course.」でしょう。

しかし、映画を観ていると、むしろ「Sure.」や「Certainly.」という言い方をよくすることに気づきます。さらに、人に誘われたときには、「もちろん、断るわけありませんよ」という意味で「Why not ?」と言いますし、願いごとや頼みごとを受けるときには「もちろん、問題ない」という意味で「No problem !」という言い方もあります。

辞書や教材で見るだけでは、どれにも「もちろん」という訳語がついているので、どの表現をどんな場面で使ってよいのか判断が難しいものです。ところが、映画のシーンとともに覚えれば、「こういうときに“Sure.”と使えばいいんだ」「こんなケースに、“Why not ?”と返事をするのはスマートだな」ということが、よくわかるでしょう。

映画のもう一つのいい点は、生きた英語に触れられることです。

アメリカやカナダなどに行くと、日常的なあいさつの言葉として、「Have a nice day !」と声をかけられる場面がよくあります。直訳すると「よい1日を!」ですが、要するに好意を込めたあいさつの決まり文句です。では、そう言われたら何と返事をすればよいでしょうか。

なにしろ日常的な言葉ですから、映画にもよく登場します。一番基本的な答えは「You too !」。「あなたもね」という意味です。難しいことは考えずに、こう反応すればいいのです。

「ハヴァ ナイスデイ!」と言われたら、映画の登場人物の真似をして、にこっと微笑みを浮かべて「ユー トゥ」と答えるだけ。相手もまた微笑みを返してくれるはずです。

これだけで、英語のコミュニケーションがしっかり成立。自分の英語力がワンランクアップしたような気持ちになるでしょう。こうした体験の積み重ねで英語が身についていくと思えば、これほど楽しいことはありません。

好きな映画こそ最強の教材

教材とする映画は、自分の好きなものを選べばいいでしょう。SFでも、音楽映画でも、人間ドラマでも、警察ものでも、アニメでも構いません。好きな俳優が出ている映画を観るというのでもいいのです。

英語は苦手だったけど『スター・ウォーズ』は大好きだという人や、『ハリー・ポッター』シリーズだけは見逃さないという人もいるでしょう。そうした映画を取っかかりにして、英語に親しんでいくのはいい方法です。

好きな俳優のセリフや、好きなシーンの言葉を暗記するのも、いい勉強になります。そうしたことの繰り返しで、少しずつ英語が身についていきます。

先日、たまたま私に英語の相談を求めてきた女性がいました。ハワイが好きだという彼女は、旅行に行く前に旅の英会話をまとめたCD付きの本を買ったのですが、あまりおもしろくなく、頭に入ってこないと言うのです。

そこで、私はここに書いたような話をして、ハワイを舞台にした映画もたくさんあるので、その中から選んでみたらいいのではとアドバイスをしました。

すると彼女は、その日のうちに映画のDVDを何本も買ってきたというではありませんか。実際に映画を観たところ、行きたいと思っていた場所や知りたいと思っていた文化も出てきて、引き込まれたと言っていました。それと同時に、英語をもっと知りたいという好奇心が芽生えてきて、久しぶりに辞書を引いてみたとのこと。

楽しい映画や音楽を使えば、このようなモチベーションのアップにつながるわけです。 ですから、英語の教材を購入するよりも、まずは好きな歌手や俳優が出るCDやDVDを買ったり、ネットで試聴したりするのがおすすめです。または、この女性のように行ってみたい国を舞台にした映画を探して観れば、まさしく楽しみながら身につけることができます。

映画で英語を覚えると、ちょっと偏った英語になってしまうのではと心配するかもしれませんが、普通の映画を観ている限り、それほど問題はないでしょう。もし、あなたの英語が少し変わったものになったとしても、それはそれで相手に興味を持ってもらう要素になりえます。

逆の立場で考えればわかります。外国人がアニメに出てくるような日本語を口にしたら、私たちは「どこでそんなのを覚えたの?」と興味津々で聞くでしょう。それと同じように、相手に興味を持ってもらって、楽しいコミュニケーションのきっかけになるはずです。

こうして、音楽や映画を聴いたり観たりしていき、それでも物足りなくなったら次のステップとして、ニュース番組を流しっぱなしにしたり、英会話学校に通ったりといったレベルに進むといいでしょう。

 

 

PROFILE
瀧靖之

東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究に従事。

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