マーケティングとはお客さまに「うれしさ」を提供すること
マーケティングを考える際に一番大切なのは、「お客さまのうれしさ」から見ていくことです。あなたが大切なお金を投じて買うとき、あなたは何らかの「うれしさ」を得ているはずです。
たとえばハーゲンダッツのアイスを買ったとき、あなたが得られるうれしさにはどんなものがあるでしょうか。
・ハーゲンダッツのおいしさがもたらす至福の瞬間
・ちょっとした集まりに持って行って、みんなが喜ぶその笑顔
あなたがハーゲンダッツを買うとき、実際には冷やし固められたクリームや脱脂粉乳、砂糖、卵黄、バニラ香料(アイスの原料)を手にしているのかもしれませんが、心情的には何らかの「うれしさ」を買っているのです。
お客さまにとって、商品やサービスは何らかの「うれしさ」を手に入れるための手段。ハーゲンダッツがそれだけの「うれしさ」をあなたにもたらしてくれるからこそ、あなたはお金という「うれしさの対価」を支払ったわけです。
逆に「売り手」の企業は、あなた(お客さま)に「うれしさ」すなわち「価値」を提供し、その対価として「売上」を得たということになります。
マーケティングとは、まさにこの「お客さまにうれしさを提供して対価を得る」ことです。この「当たり前」のことがマーケティングの極意。極意とは常にシンプルなものです。
「使うとき」がうれしいとき
お客さまは何らかの「うれしさ」を求めて商品・サービスを買います。では、お客さまは具体的に「どんなとき」にそのうれしさを感じるのでしょう?
その答えは単純で、「商品・サービスを使うとき」。「使うときがうれしいとき」なのです。お客さまは使うために買うのです。アイスは食べるために買います。アイスを食べておいしさを味わっているときがうれしいとき(=至福の瞬間)ですよね。
しかし売り手は、売れた瞬間に仕事が終わったと考えてしまいがちで、お客さまがどんなときにうれしさを感じたのか、意外に知らないものです。
さらに、うれしさを感じるときは一つとは限らず、無数にあり得ます。再びハーゲンダッツの話。私の知人(男性です)が仕事から遅く帰るときにはハーゲンダッツを買い、奥様に「1日子育ておつかれさま」と一言そえて渡すと、奥様が笑顔になるとのこと。その笑顔がその知人にとってのうれしさ、ということになります。
使うときがうれしいとき。この知人男性がハーゲンダッツにうれしさを感じるときは、夜遅く帰っても家庭内が平和であるとき。知人男性は、「夫婦円満を保つ魔法のギフト」としてハーゲンダッツを「使って」いるわけです。
そしてこの「使うとき」(=うれしいとき)は作り手・売り手には見えません。私の経験上、お客さまの「うれしさ」「うれしいとき」をきちんと把握できている会社は意外に少ないものです。
お客さまの「使うとき」がわからなければ、たとえば商品開発などをお客さまの「うれしさ」を把握せずに行うことになります。すると商品開発が売り手の思い込みで行われ、「売れるも八卦、売れないも八卦」という「ギャンブル」になります。
売れない商品・サービスができる要因の一つはそのあたりにあると私は考えています。
商品・サービスが提供する「うれしいとき」は一つとは限らない
ある商品・サービスの「使うとき」をきちんと表現すると、「利用場面」となります。
商品・サービスの利用場面とは、「お客さまが商品・サービスを使ってうれしいとき」「お客さまが商品・サービスの価値を感じる瞬間」です。
ややこしいのは、先ほど説明したようにある商品・サービスが提供する「利用場面」が無数にあり得ることです。
たとえば、あなたが最近行った「美容院」について考えてみましょう。髪の毛を切る、というときの「使うとき」(=「利用場面」=「うれしいとき」)はいつでしょう? 美容院に行って「うれしいとき」は、たとえば次のようなことでしょう。
・朝のセットがラクになった(セット時間を10分短縮できればその分寝られる!)
・夕方になっても髪型が崩れず、ずっと自分の思い通りの髪型が続く
・気になるあの人に「その髪型、似合うね」とほめられた
このように商品・サービスを使って「うれしいとき」はたくさん存在します。
これらはいずれも「髪を切ったあと」の話ですから、美容院がこの「うれしいとき」を把握することは難しいですよね。「お客さまが周りの人に髪型をほめられた」という美容師冥利に尽きる瞬間に、残念ながら美容師は立ち会えないのです。
「売り手」が「お客さまのうれしいとき」を把握するのが難しい理由は、次の二つ。
1.商品・サービスが提供する「うれしいとき」がたくさん存在する
2.お客さまが「うれしいとき」、売り手はその場にいない
売り手がこの「お客さまのうれしいとき」を知るには、お客さまに聞いてみるのが最善策。「お客さまがうれしいとき」を知っているのは、当然ながら「お客さまだけ」だからです。
売上を伸ばすには「うれしさ」を上げよう
「買い手」であるお客さまは、商品・サービスが提供する「うれしさ」に対してお金を払っています。このことを「売り手」である企業から見れば、企業は商品・サービスを通じてお客さまに「うれしさ」を提供していることになります。
そして、そのお客さまが払ったお金が売り手である企業の「売上」になります。つまり、企業は「うれしさ」をお客さまに提供した対価として売上を得ていることになります。企業の売上とはお客さまに提供する「うれしさ」の対価なのです。
そうなると、売上を伸ばす方法はごく単純であることがわかります。はい、お客さまに提供する「うれしさ」を上げればよいのです。
「うれしさ」を上げれば、その対価としての「価格」も上げられます。ハーゲンダッツは250円前後と他のアイスより高価ですが、その価格はそれだけの「うれしさ」を提供していることに対する「対価」なのです。
そして、マーケティングとは、まさに、お客さまに「うれしさ」を提供し、その対価として売上を得るという、それだけのことなのです。
しかし、それを本当に理解し、実行するのは極めて難しい。そうでなければ世の中はヒット商品だらけになって、「売れない商品」などなくなるはずです。ちなみに、企業が倒産する原因の約68%、約3分の2以上が「販売不振」。売れないから倒産するわけです。
売れない理由は単純で、「お客さまが欲しくないから買わない」。お客さまから見れば「自分が必要としているうれしさ、課題解決を提供してくれないから買わない」ということです。
倒産の主要因である「売上不振」に対する抜本的な解決策は、お客さまに「うれしさ」「課題解決」を提供して、対価としての売上を得るということしかありません。
それが難しいからこそ、体系的に、理論的に考えて成功率を高めるのです。
マーケティングのゴールはお客さまとの「相思相愛」
戦略がうまくいっているとき、売り手と買い手には「相思相愛の関係」が成立します。お互いになくてはならない存在となっているのです。マーケティング戦略がしっかりしているからこそお客さまに選ばれる理由がつくられ、お客さまとの「相思相愛の関係」ができるわけです。
これが、「お客さまに選ばれるためのマーケティング戦略」であり、それがマーケティング戦略のゴールなのです。マーケティング戦略のゴールは、売り手と買い手が「相思相愛の関係」となる、いわゆる「熱烈なファン」をつくり出すこと。人気のある商品・サービスは、このような相思相愛の関係が成立しています。
ファンは継続的に買うだけでなく、周りの人にも熱心に勧めます。つまり、自社に長期的・安定的な「売上」をもたらしてくれるのです。経営環境が厳しい場合、このように「自分を選んでくれる」お客さまがいるほど、売上・利益が上がりやすくなる、ということです。
だからこそ、厳しい時代に必要なのがマーケティング戦略であり、それが目指すのはお客さまとの「相思相愛の関係」なのです。
「うれしさ」競争をしよう!
その「相思相愛の関係」をつくる際に中核となる考えが、お客さまに提供する「うれしさ」です。マーケティング戦略の本質とは、お客さまに提供するうれしさをひたすら高めていくこと。そのうれしさを求める人が多いほど、「売上」が増えていきます。売上は「うれしさの対価」だからです。
独自のうれしさを提供できれば、競合との「価格競争」にもなりません。極端な話、「競合」がなくなります。他に選択肢がなく「この商品・サービスなしではいられない」となるからです。それが売り手が目指すべき「お客さまとの相思相愛の関係」です。
マーケティングをひと言で表現すれば、技術競争でも売り込み競争でもなく、「お客さまにうれしさを提供する競争」です。
日本企業は、技術力ではいまだに素晴らしいレベルにあります。しかしその技術力が高い会社が、次々に外国企業の軍門に下っています。
それは、「うれしさの提供力」で負けているからです。お客さまは、より「自分をうれしくしてくれるもの」を選んでいるだけなのです。競合と同じうれしさを提供しているだけでは、価格競争になります。同じうれしさなら安い方がいいに決まっています。
自社の商品・サービスが売れない理由はごく単純。お客さまにとってはそれほど「うれしくない」(価格も含めて)か、あるいはそのうれしさが伝わっていないからです。素晴らしいうれしさがあれば、高価であろうと、行列をつくろうと、お客さまは買いたいのです。
それを証明するのが、あなたの「買い物」です。あなたは、自分が欲しいもの、うれしくなるものを買いますよね。自分をすごくうれしくしてくれる商品・サービスは、高くても頑張って貯金して買いますよね。行列にも並びますよね。
企業が「うれしさ」競争をするほどに、お客さまのうれしさは高まります。そして、それが「企業の競争力を高める」ということです。企業の競争力とはただ一つ、「お客さまへのうれしさ提供力」なのです。
そして、企業が「うれしさ提供力」を高めるほどに、世の中にはうれしさが満ちていき、幸せな世界となります。
つまり、マーケティングの、そしてマーケティング戦略の究極のゴールとは、「世の中のうれしさを増やして、幸せな世界をつくること」なのです。
マーケティングコンサルティング会社、ストラテジー&タクティクス社代表取締役社長。NTTで営業を経験後、渡米しペンシルベニア大ウォートン校でMBAを取得。外資系マーケティングコンサルティング会社を経て、独立。2万人以上が購読する人気マーケティングメルマガ「売れたま! 」の発行者としても活躍中。

お客さまには「うれしさ」を売りなさい 一生稼げる人になるマーケティング戦略入門
- 作者:佐藤 義典
- 発売日: 2018/02/21
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