「いい商品なのに売れない」と嘆く人が忘れているメッセージの価値

せっかくいい商品をつくったのに、その魅力がお客さまに伝わらずに日の目を見ないまま……。よくある失敗ですが、では売り手はお客さまにどんな方法で何を伝えるべきなのでしょうか? MBAコンサルタントの佐藤義典さんに、マーケティング戦略で大切な「メッセージ」のつくり方について解説してもらいました。

売れる前に大事なのは「おいしい」ではなく「おいしそう」

お客さまのニーズをしっかり把握して、ライバル社にはない強みのある商品つくる――。ここまでは多くの日本企業が努力してやっていると思いますが、ここから先の、概念を具体的な現実としてお客さまに「見える化」するのが苦手な会社が多いようです。

あなたが何かを買うときのことを思い出してほしいのですが、自分に伝わっていない商品の要素は考慮しません。というか、考慮できないですよね。いくらいい商品でお客さまにとって有益でも、その良さが伝わっていなければ存在しないのと同じなのです。

概念を具体的な現実としてお客さまに「見える」ようにするには、商品の特徴を現実に落とし込む「メッセージ」が必要になります。

アイスクリームを例に考えてみましょう。あなたが、まだ食べたことのないアイスクリームを買うかどうかを決めるとき、何が大事になるでしょうか? まだ食べたことがないので、「おいしい」かどうかはわかりません。

では、どうやって「食べたことのないアイスクリーム」を買うか判断するかというと、「おいしそうかどうか」で判断するはずです。「おいしいかどうか」ではありません。おいし「そう」かどうか、です。

「おいしい」と「おいしそう」は全然違います。おいしいかどうかは実際の商品の話で、おいしそうかどうかは「メッセージの伝え方」です。

食べた後は、もちろん「おいしいかどうか」が重要です。食べれば実際に味がわかります。おいしいと感じなければもう買わないでしょうから、「おいしいこと」が大事なのはいうまでもありません。

つまり最初の購買のときに大事なのが「おいしそう」なことで、リピート購買のときに大事なのが「おいしい」ことです。「おいしい」だけでは、初回購買は起きないのです。これは食品はもちろん、すべての商品・サービスについても同じです。

「ハーゲンダッツ」の見えざる戦略

よく「いいものをつくってるのに売れない」と嘆く人がいますが、その原因の一つがメッセージを伝える努力・工夫の不足。よさが伝わっていないのです(ちなみにもう一つの原因は、いいと思っているのは自分だけで、お客さまはそう思っていない、というものです)。

「メッセージの出し方」が新製品開発の成否を大きく左右する、ということはデータでも証明されています。新製品開発に「成功した企業」と「成功していない企業」で、一番差がつくのが「自社の製品・ サービスの情報発信が不十分である」という点なのです。(中小企業白書2017年版「新事業展開の成否別に見た課題 (2)新製品開発戦略」第2-3-12図)

いかにお客さまに商品のよさ、つまり「うれしさ」を魅力的に伝えるか、というメッセージまで考えて、初めてマーケティング戦略が完結します。「おうちに帰るまでが遠足」なら、「お客さまに伝わって売れるまでが商品開発」というところでしょうか。

実際の商品で考えてみましょう。定番のアイスクリーム、「ハーゲンダッツ」は「おいしそう」をどのように伝えているでしょうか?

一つは官能的なテレビCM。ウェブサイトでも女優さんが官能的なおいしさを醸し出しています。キャッチコピーは「1日の終わりに ときめきを、ひとすくい」。1日の終わりの自分へのご褒美に、ということですね。

もう一つがパッケージのイラストです。文章だけがメッセージではなく、パッケージの写真やイラストなどもメッセージの伝え方の一つです。ハーゲンダッツのパッケージは、すごく「おいしそう」に見えるよう工夫されています。買う前に重要なのは、「おいしそう」であることだからです。

メッセージに込められた「強み」がお客さまを動かす

メッセージで伝えるべきことは、基本的には「強み」です。強みは競合とのうれしさの差であり、「お客さまが競合ではなく自社を選ぶ理由」です。

ですから強みが伝わればその商品・サービスが選ばれることになります。強みを伝えて売れないのであれば、メッセージあるいは強みそのものがおかしい、ということです。

メッセージについて、次はビジネスパーソンに大人気のノートパソコン「レッツノート」で考えてみましょう。レッツノートの総合カタログ(2017年度)では、「軽量・頑丈・長時間」が3つのコピーとして大きく取り上げられています。

“軽量”こそがビジネスの力になる。
“頑丈”という実力で、差がつくビジネスライフ。
“長時間”いう優位性が、仕事の質も変える。

「軽量・頑丈・長時間」という強みを、「メッセージ」として伝えているわけです。顧客ターゲットがビジネスパーソンですから、使い方はビジネスに絞っています。

そして、たとえば軽量については「世界最軽量」、長時間については「約22時間の駆動時間」などの詳細な説明がその後に続きます。官能的に伝えるハーゲンダッツとは対照的に、レッツノートは強みを「機能的」に伝えています。

それは商品特性上の違いであり、お客さまが求める「うれしさ」の違いです。ハーゲンダッツは「官能的なうれしさ」をお客さまが求めるので「官能的」に伝え、レッツノートは「機能的なうれしさ」をお客さまが求めるので「機能的」に伝えているわけです。

メッセージ

名キャッチコピーに込められた本当のすごみ

もうひとつ、企業のマーケティング戦略が見事に表現されているメッセージの例を見ていきましょう。JR東海が1993年から使っている京都への観光促進キャンペーンのキャッチコピー「そうだ 京都、行こう。」です。平成の名キャッチコピーの一つでしょう。

このキャッチコピーから連想されるのは、春の桜や秋の紅葉など、京都の美しい風景です。京都旅行に行きたくなりますね。

しかし、なぜ「京都」なのでしょうか? JR東海の新幹線を使ってほしいなら大阪でも神戸でもいいはずですよね。京都は美しい都市ですが、大阪にも神戸にもそれぞれ素晴らしい魅力があります。

ここからは私の推測です。なぜ京都かというと、東京~京都間の移動なら、確実にJR東海の新幹線が選ばれるからです。新幹線の「強み」が活きるのが京都への移動。

JR東海は、もちろん自社の新幹線を使ってほしい。東京圏から見た場合、大阪や神戸だと飛行機と競合します。大阪の近くには伊丹空港が、神戸には神戸空港があります。どちらも都市部へのアクセスがいい便利な空港です。

しかし、京都には空港がありません(2020年時点)。東京圏から京都に行くとなると新幹線しか選択肢がなく、自社が自動的に選ばれるのです! 京都旅行には「JR東海の新幹線」が圧倒的に便利であるという強みがあるため、「京都に行く」と決まった時点で、競合を排除できるのです。

富士と新幹線

だから、大阪でも神戸でもなく、「そうだ 京都、行こう。」なんです。京都はJR東海の新幹線の強みが最高に活きる観光地です。

「そうだ 京都、行こう。」というメッセージの本当のすごみは、その美しいイメージの背後にある、自社の強みを活かす戦略性。しかもその戦略性はお客さまにとってはまったく自然に見えています。

メッセージは強みを伝えるものですが、伝え方次第で、お客さまにそうと意識させずに伝えることもできるのです。

 

PROFILE
佐藤義典

マーケティングコンサルティング会社、ストラテジー&タクティクス社代表取締役社長。NTTで営業を経験後、渡米しペンシルベニア大ウォートン校でMBAを取得。外資系マーケティングコンサルティング会社を経て、独立。2万人以上が購読する人気マーケティングメルマガ「売れたま! 」の発行者としても活躍中。