敏感すぎて生きづらい…「5人に1人」の悩みの正体はHSPだった

人の言葉に過剰に反応したり、大きな音や強い光が苦手だったり……。周囲の環境や出来事に、自分でも「やりすぎだな」と思うぐらい過敏に反応してしまうこと、ありませんか? それを内向的な性格や考え方のせいだと自分を責めたり、自分の性格を社交的で明るいものに無理やり変えようとしたりすると、世の中はとても生きづらいものになります。こうしたHSPという気質について、日本における研究の第一人者である長沼睦雄先生に教えてもらいます。

あなたの繊細さは生まれ持った気質かも

「小さなことを気にしてクヨクヨする自分が嫌いだ」「ちょっとした出来事に過敏に反応してしまい、毎日疲れる」「人の気分の変化に左右されやすく、困っている」……。私は精神科医として約20年間働いていますが、世の中にはこのように小さなことを気にしてしまい、ちょっとしたことに敏感に反応してしまう人たちが多くいます。

些細なことによく気づく、繊細で、敏感な神経の持ち主は、「小さなことに気がついてしまう敏感な自分」に振り回されてしまい、困惑したり、自分のことを責めたりしているのです。

実は、このように「小さなことを気にしてしまう」のは、性格の問題ではなく、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という生まれ持った気質が根本的な原因である可能性があります。日本語に訳せば「とても敏感な人」となります。

気質と性格はよく混同されがちですが、まったく異なります。気質とは、動物が先天的に持っている刺激などに反応する行動特性であり、性格は気質からつくられる行動や意欲の傾向のことを指します。

アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士もまた、繊細で、敏感な神経の持ち主でした。そのアーロン博士が自身の内面を探り、そして、さまざまな調査や研究を重ねた結果、見い出したのがHSPです。

アーロン博士の研究から、どの社会にも15~20%の割合でHSPがいることが判明し、さらに、HSPは環境などによる後天的なものではなく、生得的な気質だということもわかりました。

HSPはその敏感さゆえに、たぐいまれなる鋭敏な感性と直観力を持っていることもわかっています。すぐれた芸術家や科学者の中にはHSPが多くいるようです。

敏感さ、繊細さは「弱さ」が原因ではない

HSPは些細なことにも敏感に反応してしまうため、日々の生活のさまざまな場面で、非HSPであれば気にしないようなことにも過剰に反応してしまい、生きづらさやストレスを抱え込んでしまうことが少なくありません。

HSPが社会全体に占める割合を20%とすれば、非HSPは80%にも上ります。つまり5人に1人がHSPなのです。世の中には圧倒的に非HSPのほうが多いわけで、HSPは「自分よりも鈍感な人たち」に取り囲まれて生きているようなもの。アーロン博士も「社会は鈍感さに満ちている」と自著で表現しています。

しかも、その非HSPの中にはHSPを「神経質で、何事にも細かすぎて、気が小さくて、意気地なし」と思っている人もいて、このような周囲の無言の批判を痛いほど感じ取ってしまうのが、HSPの特徴です。そのため、多くのHSPは自分を落ちこぼれのように感じて、自信を持てずにいます。

HSPの提唱者であるアーロン博士自身も、HSPであることに悩んでいた1人です。彼女はかつて、大声で自己主張ができて、物おじせず、社交的で、明るいキャラクターを理想とするアメリカ社会で、生きづらさを感じていたといい、自分を「二流の人間」と見なすこともあったそうです。

しかし、HSPという概念をアーロン博士が提唱すると、世界中で大きな反響が起こりました。これは、小さなことを気にしてしまう自分をいたずらに責めていた多くの人が、敏感さが生得的な、ある面から見ればとてもすぐれた気質であることを知り、心から救われたからだと思います。

HSPの疲労感は「脳」の疲れ

HSPが生きづらさを感じるその他の要因に、「すぐに疲れてしまう」というHSPの特徴があげられます。HSPは五感をはじめとした、刺激への鋭敏な感覚を持つがゆえに、ほかの人が感じていないことまで感じながら日々を過ごしています。

非HSPの人の何倍、人によっては何十倍もの刺激を取り入れながら生活していれば、少し活動しただけで疲れてしまうのは、当然だといえるでしょう。

また、HSPは自分では理由がわからないのに、突然具合が悪くなったりします。特定の建物にいると体調を崩したり、あるお弁当を食べると食後しばらく動けなくなったり……。敏感さが、電磁波や化学物質など、自分の体にとってよくないものに対して過剰に反応するために、このような事態に陥ってしまうのです。

HSPが常に感じている、このような疲労感や体調不良をまわりの人たちは、なかなか理解できないでしょう。そのため、HSPは「弱い人間だ」とか「怠け者だ」とか、「臆病だ」といった目で見られてしまうことが多々あります。

敏感なHSPは、そのような周囲の目や評価を痛いほど感じますし、他者の考えに影響されやすいので、自分自身のことをダメな人間だと考えるようになっていきます。これも、HSPの生きづらさにつながっていくのです。

HSPの感じる疲れは肉体的なものではなく、脳が疲れている、つまり疲労はしていないけれど、強い疲労感がある状態です。疲労感は脳の帯状回皮質の前部という場所と深く関係しています。そこは理性と情動の中継基地であり、自律神経や痛みにも関わる場所です。

ストレスが続いたりすると、この帯状回皮質の前部の活性が低下します。その部分の活性が落ちれば、疲労感が発生するだけでなく、自律神経の働きも乱れ、痛みも感じやすくなってしまいます。

HSPは大量の刺激を受けつづけ、しかも、それを処理しきれず、帯状回皮質の前部の活性が低下しやすく、それにともない疲労感や痛みを感じやすくなるといえます。

HSPであるという自覚を持って身を守る

HSPは5人に1人の割合で見られる気質で、それ自体が障害や病気ではありませんが、些細な刺激にも過敏に反応するというHSPの特性が、心や体に過剰な負担を強いることで、心身のバランスを崩しやすいことはたしかです。

でも、安心してください。正しい対処法を知り、それを身につければ、心や体への負担をかなり軽減することはできます。そして、そのために必要となるのが、まず「自分を知り、HSPであるという自覚を持つこと」。自分がHSPであることを知り、そのことをきっぱりと認めるのです。

たとえば、わずかな刺激にも過敏に反応して、神経を高ぶらせるとどうしても疲れやすくなることを自覚しましょう。そうでないと、疲れやすいという自分を不甲斐なく思い、いたらない自分に引け目を感じてしまいます。

さらには、疲れていることに気づかないまま無理を重ねて、寝込んでしまう可能性もあります。寝込んでしまった事実が罪悪感となり、必要以上に落ち込んでしまうことにもなるでしょう。

また、HSPは神経を使いすぎるきらいがあることも、自覚しなければなりません。この自覚がないと、なまじ直観が働いて、人の心の動きがわかったりするものだから、相手の気持ちを先取りして、よけいな気の回し方をすることになります。このようなことを続けていれば、ストレスが溜まるのも当然でしょう。

さらに、境界線が薄く、自己抑制が強いために、人の影響を受けやすいことも自覚しておく必要があります。そうでないとまわりの人の気分にはげしく左右されてしまい、頭の中も心の中も他人のことで常にいっぱいになってしまう……ということにもなりかねません。これらの自覚がなければ、詐欺の被害者になることも十分に考えられます。

しかし、このようなことを自覚できていれば、それらを避けるための行動も取れますし、生活の仕方を変えることもできます。自らの心と体を守るために、HSPであることを嘆くのではなく、受け入れて、日々の生活を送るようにしたいものです。そうすることで、HSPならではの豊かな情感やイマジネーション、鋭い感受性やひらめきといった特性を生かせる場所で活躍できるようになるでしょう。

少しの勇気で前よりずっと生きやすくなる

どれだけ敏感なHSPであっても、物の考え方や生活の仕方しだいで、生きづらさを少しずつでもなくしていくことはできます。

自分の敏感さに悩んでいる方々にとっては、なかなか信じがたい話かもしれませんが、現に自分を取り巻く環境を変えたり、考え方や生活のパターンを変えることで、生きづらさをなくすことに成功したHSPの方は、私のまわりにもたくさんいます。

あるHSPの人は、近くの運送会社から聞こえるトラックの出入りする音に耐えられず、思いきって引っ越しました。

別のHSPの人は断るのが苦手だったけれど、あるとき、「今日は疲れているから、飲みに行けないよ」と、勇気を出して断りました。ほかにも、自分の気質にあった働き方にするため、職場を変えたHSPの方もいます。その全員が、以前よりもずっと生きやすくなったというのです。

たとえば、お酒を飲みに行くのを断った女性は、「ずっと自分の前にたちこめていた霧が一瞬にして消えて、心が晴れ晴れとして、気持ちがとても軽くなった」と話してくれました。彼女は他者への強い共感性ゆえに、人から誘われると断ることができず、かならず「いいよ」と答えていたそうです。「他人の考えばかり尊重するのをやめよう」と意を決して、彼女にしてみれば、清水の舞台から飛び降りるような覚悟で断ったら、ちゃんとその成果が現れたのです。

彼女はそのあと一気に生活や考え方が変わり、断ることができる人になりました。「生きづらさのもと」を1回で断ち切る人、小さなことを積み重ねていく人……。それぞれの状況や性格によって、そのやり方も違うでしょうが、とにかく、考え方や生活を変えることで、「生きづらさのダイエット」をしていくことができます。

HSPは生まれ持った気質ですから、敏感すぎる気質を変えることはできませんし、変える必要はありません。それはすばらしい個性なのですから。HSPの生きづらさは、社会的な価値観や人間関係、生活環境などから生じる後天的なものなのです。

そして、後天的なものは、その気になりさえすれば変えられます。生きづらさを捨てることで、HSPである自分にこれ以上振り回されずにすむようになるはずです。

 

seishun.jp

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PROFILE
長沼睦雄

北海道立緑ヶ丘病院精神科医長。日本では数少ないHSPの臨床医。平成12年よりHSPに注目し研究。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行っている。発達障害、発達性トラウマ、愛着障害などの診断治療に専念し、脳と心(魂)と体の統合的医療を目指している。

「敏感すぎる自分」を好きになれる本

「敏感すぎる自分」を好きになれる本

  • 作者:長沼 睦雄
  • 発売日: 2016/04/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)