自分の仕事はAI時代に残るか消えるか―「AI耐性」をチェック

AIはわれわれの仕事に大きなインパクトを与え、着実に浸食しているが、ITコンサルタントである水野操氏は、AIへの耐性は業界や仕事によって違うので、すぐAIにすべての仕事が奪われるということではないと解説する。AIに耐性のある仕事とAIにとって替わられそうな仕事の見分け方を紹介しよう。

AIから逃れられる特別な仕事はない

現代社会では、多くの人は企業など何らかの組織に属することでその職業を成り立たせているが、AIが企業に与える影響と、企業で働く個人に与える影響はイコールではない。

ある場合はAIを使った製品のサービスのおかげで会社は大発展を遂げるかもしれないが、逆にAIがもたらした環境の変化で会社の業績が急激に落ちて倒産するかもしれない。

つまり、「〇〇をやるAIが登場したので、この職種は消滅する」といった考えは極端すぎる。危機感を煽るには有効だが、それでは自分の将来を考える役には立たない。各業界がどうすればAI時代を生き残ることができるのか、考えてみたい。

これから社会に出ていく大学生、あるいは高校生たちは、シンギュラリティ(技術的特異点)が到来するという2045年にはまだ現役で働いている。当然、AIに奪われるような仕事にはつきたくないと考えるだろう。

ただし、ある日出社したらあなたの机にAI搭載の人型ロボットが座っていて、上司から「君の仕事はもうないよ」と言われる状況はおそらく発生しない。当面の間は。

だが、あなたが使う道具の中にAIを活用したものがどんどん増えてきて、いつの間にか、それなしでは仕事が進まないという状況が訪れるだろう。今の職場におけるパソコンの存在と同じように、AIを使いこなさなければ仕事をしていけないようになる。その意味では、AIの影響から逃れられる特別な職場はどこにもないと言えるだろう。

AI時代に生き残る方法は簡単に言って2種類だ。一つはAIを道具として使い、自分の人間としての価値を職務の中で生かしていくようにすることだ。

もう一つは、AIを道具として使うだけでなく、AI自体をビジネスにすることでAIを一段上の立場で活用することだ。自分の仕事がそこに当てはまるのか当てはまらないのかで判断してほしい。

 

[質問1] 自分はビジネスのオーナーだ

場合によってはAIが本当に1つの職種を消し去ってしまう可能性もあるが、その中で、仕事の中にどこまでAIが入ってきても大丈夫という「聖域」がある。それがビジネスのオーナー経営者だ。

ビジネスを所有して推進していくのは人間だけで、人間がもっと儲もうけたいと考えてビジネスを行うからこそさまざまな仕事、さまざまな職種があって多くの人が仕事をしている。

会社やビジネスの規模は問わない。大事なのは、自分が確かにビジネスを所有しているかどうかだ。そうであれば人間を雇用し続けることも、より便利になるAIを導入することも自由に選択できる。オーナー経営者が職場から追い出されるのは、自らのビジネスの失敗によってのみである。

[質問2] 自分の仕事を一言で説明せよと言われても難しい

どんな仕事がAIにお願いしやすく、そしてどんな仕事がAIにお願いしにくいだろうか。お願いしやすいと考えられるものの一つに「運転」がある。自動車の運転と、それに必要なスキルや機能は明確で、コンピューターが扱えるよう定量化もしやすい。

しかし、世の中の多くの仕事はそうではない。たとえばあなたがマーケティングのプロフェッショナルで、ある会社にマーケティング部のマネージャーとして雇われたとする。経営者はあなたに期待することについて話すかもしれないが、別に事細かにやることを指示するわけではない。

個別のタスクはあなた自身が定義し、実行し、そこに必要なリソースを手配して割り当てることを期待される。「私の仕事はマーケティングです」ということは言えても、個別の作業は実にさまざまで、一言で説明するのは困難だ。

現在の弱いAIは、誰でもわかる具体的なレベルにまで指示を定義してやれば高いパフォーマンスを発揮するが、そうでなければ少しの仕事も任せることはできない。人間であれば、能力のある人なら仕事を「丸投げ」してもどうにかしてくれる。しかしAIにある業務を頼みたいと思っても、そのAIサービスが対応していなければどうにもならない。やってもらえるとしても、「なんとなくよろしく」ではなく、具体的に指示しなければならない。

[質問3] 人間の「判断力」が強く期待される仕事か

最近提供されてきているサービスの例として、AIによるガン診断がある。また、マーケティングや人事でもある程度はAIを活用できそうだ。

とはいえ、AIがやってくれるのはあくまで提案であり、助言である。その分析の結果や助言の結果を妥当と判断し、次の行動へとつなげるのかどうかは人間だ。現在のAIは「その分野の仕事にある程度精通している人間が使う」ことが前提になっている。

人がアドバイスや提案を受けたりした時、何を基準に助言を受け入れたり、否定したり、一部だけ受け入れたりなどと決断するのだろうか。まず、助言者に対する信頼があるかどうか。もう一つは助言者がその分野に対する知見を持っているか。さらに、その助言が自分の会社の経営のあり方に沿っているのかが考慮される。

[質問4]人間が責任をとることを期待されている仕事か

ビジネスには何らかの責任がついてくる。注文書をもらったり契約を交わしたりすれば、約束した通りのモノやサービスを提供する責任がある。従業員も雇い主に対して期待されたパフォーマンスを発揮する責任がある。

基本的には、責任は会社におけるポジションが上になるほど高い。下のミスは上の人がカバーできるが、ミスした人のポジションが上になればなるほどそれも難しくなる。

現在のところ、その責任を負うことができるのは人間だけだ。ソフトウエアはたぶんこれがいいという案は出してくれるものの、その案に対する責任をとってくれるわけではない。

特に経営そのものに関する仕事やそのビジネスの本質にかかわる仕事は、いやでも人間が判断し、責任を負うことを求められ続けるだろう。

[質問5] あいまいさから具体性を引き出すことを求められる仕事か

どの職種においても、言語化することは難しいが、相手(顧客)が求めるものに対応しなければならないことが多くある。

たとえば、診療放射線技師は、単に撮影をすればよいわけではなく、問題になりそうなことを把握し、診断する医師が期待する画像を撮影しなければならない。単に言われた通りのことをすればいいわけではない。

別の言い方をすると、「コミュニケーション」が重要な仕事だということだ。行間を読んだり、明確になっていないプロトコル(データ通信を行う際の手順や規約)を把握したりしていなければならないのだ。

[質問6]人が対応することが期待される仕事か

AI翻訳が高性能になるにつれ、翻訳や通訳の仕事はなくなるともいわれているが、すべてをひとくくりにするのは正確さに欠けるだろう。Google翻訳をはじめとする機械翻訳の進化は著しい。最近は下訳として使う分には十分に実用に堪えるようになってきている。

しかし、たとえばあなたが海外の事業者と何かタフな交渉事をやっていたとしたらどうだろうか。意味を取り違えると相当な問題になるような非常に大事な場面で、どこまであなたはAIの翻訳・通訳を信用することができるだろうか。通訳や翻訳の難しさは、「その訳を本当に信頼できるのか」というところにある。

まだ英語であれば理解する人は多いので、おかしいなと思ったら原文にあたってみることも可能だ。しかし、自分がまったく理解できない言葉だとしたら、もはやAIの翻訳や通訳が正しいのかどうかを確認する術がないわけだ。

[質問7]頭脳的な業務よりも肉体を動かす作業が多いか

あくまでもAIは頭脳であり、物理的な現実世界においては、それ単体ではどうしようもないところがある。人間がさまざまなことに対応できるのは、脳があるからというのはもちろんだが、やはり肉体があるからだ。

肉体を使う作業の一部をロボットなどをはじめとする機械で代替することができても、全部の作業を代替して、なおかつそれら一連の作業をつなげ、必要に応じて手順を組み替えて作業をするのは案外難しい。筆者は大学で機構設計の授業も教えているが、機械と比較すると、人間がよくできていることがわかる。

工場ではファクトリーオートメーション(FA)が1970年代、80年代から進んだが、工場から完全に人が駆逐されたわけではない。大きな作業から繊細な作業まで、必要に応じていろいろなことができる人間に代わる存在は今のところない。

専門職でも、一見単純作業に見えるような仕事でも、頭脳と肉体を駆使する多様な作業には人間にアドバンテージがあると考えていいだろう。

[質問8]柔軟性と瞬発力が試される仕事か

一般に、コンピューターが得意とするのは定型的な処理で、それも大容量のデータを一気に処理していくことだ。近年その能力が急速に高まると同時にコストが大幅に下がったため、さまざまな情報の急速なデジタル化とあいまって、ビッグデータの処理が楽になった。

それが、結果的にAIの進化にもつながっている。確率統計的な処理やその他の数学的な手法も取り入れられ、十分なデータがある場合は相当正確な予測ができるようになってきている。

だが、突発的な出来事には、現在のAIはまだ弱い。株や為替のトレーダーも将来的にはなくなる仕事に挙げられており、トレーディングの世界ではAIを駆使した自動ツールがどこでも使われるようになってきている。

しかし現場のトレーダーに言わせると、まだAIは進化途上で、突発的なマーケットの変動に対応できないという。そのため、何かあると後ろにいる人間のトレーダーによる修正が必要になるのだという。

逆に言えば、このようなことを確実にこなせる人間の生存確率は高い。

[質問9]法律に守られた仕事か(法的な参入障壁があるか)

資格を持っていなければできない仕事も多い。ここで言う資格とは、その業務を行うのに必要な、独占的な資格のことだ。弁護士や公認会計士、医師などその代表格だが、医療従事者関連の仕事にも実はたくさんある。

医師免許を持っていればオールラウンドに医療行為を行うことができるが、医師以外の人が同様の作業をする場合、専門の資格がなければできない。

資格という防波堤がある職業は、それだけでAIに対する抵抗力があるのは確かだ。そのうえで、これから伸びる分野に詳しくなる、あるいはAIを利用した道具を積極的に活用できるようになることが、常に仕事を維持していくための条件になるだろう。

実はAIの前に人手不足が心配

AIが自分の仕事を奪うのではないかという懸念は、まだ今日とか明日という話ではない。では何が懸念かというと、それは人手不足だ。最近、人手不足倒産も話題になっている。また、形としては倒産ではないものの、後継者難や事業承継がうまくいかないなどの理由で、まだ会社に余裕のあるうちに廃業をしてしまうというケースもある。

人手不足は、これから伸びていこうとする企業の足かせにもなる。建設業や飲食業、あるいは運送業、ソフト開発などの「情報サービス業」でも同様だ。

自動車会社では製造現場での期間工の確保に困っていたり、金属製品の会社では現場技術者の不足ゆえに受注活動を抑えたり、機械メーカーでも人手不足のため納期が遅延したりして、結果的に買い手はいるのに受注できないという状況に陥っている。

実は今の日本において、直近の雇用の危機はこんなところにあるのかもしれない。AIやIoT、ロボット関連の技術者、それを実際にサービスに展開するための技術者、さらには展開されたサービスを使いこなすリテラシーを持った人たちが不足している。

そうであれば、若い人たちはそのニーズのある分野を目指し、あるいは自分の分野でプロになったうえでツールを使いこなすリテラシーを身につける。中年以降だって分野の転換は可能だ。

 

PROFILE
水野操

有限会社ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。mfabrica合同会社社長。1990年代のはじめから、CAD/CAE/PLMの業界に携わり、大手PLMベンダーや外資系コンサルティング会社で製造業の支援に従事。2004年にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを設立後は、独自製品の開発の他、3Dデータを活用したビジネスの立ち上げ支援、3Dプリンター事業、シミュレーションサービスなど積極的にデジタルエンジニアリングを推進。