なぜ、いまどきの社員は心が折れやすい「繊細くん」ばかりなのか

「若手が何も言わずに辞めてしまう……」と悩む管理職が増えています。職場の改善対策の専門コンサルタントとして、20年近く300を超える企業や官庁などで研修を行ってきた渡部卓氏は、「繊細な世代」の思考や心理を知ることがこれからますます大切になると言います。新しい働き方が求められる時代に知っておきたい、‟最近の若者”の傾向について解説してもらいました。

繊細な彼らを読み解く3つのキーワード

ここ数年、職域リーダー研修やコーチングのあとに「最近の若者は繊細になった」という嘆きを管理職や経営陣からよく聞くようになりました。

「自分の意見をハッキリ伝えられない」

「厳しい時代に仕事や人生設計、何を考えているのかわからない」

「誰に対してもYES・NOがきちんと言えない」

「仕事に対する責任、チャレンジ意識、チームワークが感じられない」

「ちょっと強く注意すると、すぐに心が折れる」

「当たり前の指導をしても、パワハラだ、ブラック企業だ、となる」

などなど、管理職・経営者からすると、いまの若手社員にもの足りなさを感じる場面が多くなったようです。

無理もない話だと思います。

実際、私もそう感じていた時期があります。

しかし、外資系企業に勤めたりベンチャー企業を起ち上げた中で、あるいは、その後に大学教員として多くの若い人たちと接してきて、必ずしも彼らがひ弱になっているわけではないことに気づきました。

では、「いまどきの若者は……」とつい思ってしまう中高年の管理職世代と何が違うのか。それについて、私なりに感じ、考え、たどり着いた結論があります。彼らの繊細すぎるともいえる言動の背景には、大きく分けて3つの共通点があるのです。

中高年には見えにくい「不安心理」

まずは何といっても「不安心理」です。

現在の30代ぐらいまでの世代は、多感な時代に、社会が劇的に変化する衝撃をイヤというほど経験してきました。

まず彼らが物心がついたときに「阪神・淡路大震災」「地下鉄サリン事件」(1995年)がありました。「アメリカ同時多発テロ事件」(2001年)、「リーマン・ショック」(2008年)も日本に甚大な影響を与えました。

大型の台風、水害、酷暑、冷夏など毎年のように異常気象が叫ばれ、実際に被害の様子を目の当たりにしてもいます。

まだ記憶に新しい「東日本大震災」(2011年)、そこから発生した「放射能・原発問題」。「熊本地震」(2016年)、「北海道胆振東部地震」「西日本豪雨」(2018年)、千葉県を中心に大きな被害をもたらした「令和元年台風」(2019年)など枚挙にいとまがありません。そしてきわめつきは今回の「新型コロナウイルス禍」(2020年)です。

築き上げたものが一瞬にして崩れ去る。社会はまばたきする間に変貌してしまうと感じてもおかしくありません。極論すれば、彼らは長く安定した社会を無条件には信じられなくなっています。

もちろん、中高年の管理職世代にも同じように深刻なダメージを与えた出来事ばかりでしょう。バブル崩壊によって給料は右肩上がり、年功序列や終身雇用制が変容していく体験をしているはずです。リーマン・ショックによる不景気で職を失った人も数多くいました。東日本大震災でボランティアに励んだり、会社をやめて好きな道に進んだりと、人生観を変えた人も知っています。

それでも、子ども時代、多感なティーンエイジャーの時代、就職時に社会が激震する経験をした世代のメンタルへの影響は計り知れません。ただでさえ「失われた20年」の中で低成長が当たり前の時代しか知らずに生きてきた世代です。

だから、中高年の管理職世代が思っている以上に、彼らは先行きに対する「不安心理」をつねに抱えて生きているのです。

多様性の時代に高まる「同調圧力」

2番目は「同調圧力」です。

もともと日本は同調性の強い社会でした。昭和の大人の常識も同調、和を重視することが求められる。仕事のためには、妻の出産や、大事な家族の死に目に立ち会うことすら後回しにすることが美徳とされました。

現在は、会社第一であらゆるプライベートの犠牲を強いる風潮に関しては、働き方改革やハラスメント防止法によって歯止めがかかってきました。

しかし、若い世代を取り巻く状況については、いままで以上に同調圧力が強まっています。インターネットやSNSの発達により、個人の行動すべてが白日のもとにさらされるという時代背景もあるでしょう。

30年前なら、職場や学校など集団で行動する際は周囲に合わせてふるまっていても、ひとりになったら思い切り自分を解放することが可能でした。しかし、いまやネット上にすべてが暴かれてしまいます。良くも悪くも、ひそやかな楽しみや、これぐらいは隠せるはずと思う行動はしにくくなりました。

つねにSNSでつながっている時代では、自分の情報や隠れた世界、プライバシーがない。そうなると他人と違う行動や規範を外れた行動をする人を見つけたら、なぜあいつだけ、と怒りの矛先が向けられてしまいます。

また、彼らが過ごしてきた中学校や高校の生活でも同調圧力が強まっていたようです。

学校生活や行事で過度の連帯感や所属感、団結を求められ、はみ出すことを許さない空気が強まっていることは、文部科学省が懸念を示しているほどです。私が若手社会人の勉強会で行った調査でも、同じような声がたくさん聞かれました。

実際、「個性を活かす」「多様性が大切」などと叫ばれる一方で、他人と違った行動に対して周囲から厳しくチェックされるという二律背反が、社会全体で起きています。

それは今回のコロナ禍の緊急事態宣言下において顕著になりました。一律の行動に従わない相手は、自粛警察が発動して、リアル・ネットにかかわらずバッシングの対象にされたのです。

休業要請を無視して営業する店舗、いや、要請の条件を守って営業する店舗に対しても、嫌がらせの貼り紙や理不尽なクレームが浴びせられたのは記憶に新しいでしょう。行動自粛が呼びかけられる中、駐車場などで目についた県外ナンバーの車が傷つけられたり、悪質なイタズラを受けたりしたこともニュースになりました。

また、SNSの発展によってネットで自由に表現ができる半面、発言が世の流れに沿っているかを気にしなければならない。世の中が沈滞ムードであれば、華やいだ写真や記事を載せるのは控える配慮が必要になります。

知人のアップした記事の内容にかかわらず「いいね!」をつけなければいけない。そんな“SNS疲れ”は誰でも経験のあることでしょう。物心ついたときからPCや携帯電話、インターネットが普及していた若い世代は、ネットリテラシーが高い半面、その負の影響も受けざるをえません。

すべてが明るみに出る社会では、自分の意思にかかわらず、大きな流れの中についていくほうが賢明な判断になります。

「doingからbeing」へ──人生に求めるものの違い

3番目は「doingからbeing」へという価値観の転換です。

これは、私の知人である鈴木秀子先生(国際コミュニオン学会名誉会長)がよく使われている言葉で、doing=「何をするか」よりも、being=「どうあるか」を重視する傾向のことです。

私はそれをもう少し拡大解釈してdoing=「目に見える価値観、数で測れるもの」、being=「目に見えない価値観、存在そのもの」と考えます。

昔はハワイに行ったとか、高級車を買ったとか、大きな家を手にしたという、目に見えるわかりやすいモノや行動、つまり外の世界に価値観を置いていた人が多かった。

しかし、いまの若い世代は外側ではなく、自分の内側に価値を求めています。

海外旅行に行くことをそれほどステータスとは考えていません。高級腕時計は無駄で、スマホがあれば十分と考えている人が多くいます。ブランドものの服や財布、バッグを欲しがる人も減っています。高級車どころか、マイカー自体を欲しがらず、使うならカーシェアで済ませる。

今回のコロナ禍でも、学生は家で楽しむ方法をいくらでも見出していました。動画配信サイトに加入して、海外ドラマや映画を観賞する。自宅にいながらオンラインで飲み会を仲間で開く。無料のソーシャルゲームをプレイする。

決して我慢した結果ではなく、それらの選択に心から満足しているのです。

この欲が見えにくいという点も、中高年世代からの理解を阻害する要因だと思います。

優秀な人ほど「残念な上司」になりやすい時代

大雑把な言い方を許してもらえば、若い世代と中高年の管理職世代との大きな違いは「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」に対する意識の違いでしょう。

何を大事にして毎日を生きているか。この軸を見誤り、自分たちと同じ価値観で生きていると考えるから「いまどきの若者は常識がない」「仕事に対する覇気がない」と判断しがちです。

そんな彼らの行動の背景も、「不安心理」「同調圧力」「doingからbeing」の3つのキーワードで見ていくと理解できます。

若い頃に頑張って成果を上げてきた優秀な上司ほど、こういった繊細な若手社員の心理が理解できず、熱心な指導をしているつもりで、彼らの芽を摘んでいる「残念な上司」になってしまっている傾向があります。

追い詰められた若手社員は、昨日までふつうに働いているように見えたのに、突然、会社を辞めると言い出すことさえ珍しくありません。

彼らの心理傾向を理解することで、残念な上司になることを回避し、部下の潜在力を引き出すマネジメントができます。

 

PROFILE
渡部卓

産業カウンセラー、認定ビジネスコーチ、帝京平成大学現代ライフ学部教授、武漢理工大学客員教授。1979年早稲田大学政経学部卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA を取得。90年日本ペプシコ入社後、AOL 、シスコシステムズ、ネットエイジを経て、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。14年4月 帝京平成大学現代ライフ学部教授に就任、現在に至る。職場のメンタルヘルス・コミュニケーション対策の第一人者として、講演・企業研修・コンサルティング・教育等、多方面で活躍中。主な著書に『折れやすい部下の叱り方』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さない プロフェッショナルの仕事術』『人が集まる職場 人が逃げる職場』(クロスメディア・パブリッシング)ほか著書・監修書多数。