100℃のサウナに入ってもやけどしないのはなぜ?
サウナで汗をかくとすっきりしますね。サウナにはいろいろな種類がありますが、大ざっぱにはドライとウェットがあります。ウェット(湿式)サウナは40℃~50℃ぐらいですが、ドライ(乾式)サウナは90℃~110℃にもなります。
考えてみると、100℃のお湯が体にかかったらすぐにやけどをしてしまうのに、ドライサウナではやけどをするどころかスッキリするのはなぜでしょうか。
理由は2つあります。1つは、体全体に汗をかいて、水分が皮膚をおおっているので、直接水蒸気が皮膚に触れないためです。
やかんの口からシュウシュウと蒸気が出ているとき、乾いた手を近づければやけどを負いますが、濡れた手なら、あまり熱さを感じません。
もう1つの理由は、体の表面から出る汗が蒸発するときに、気化熱が奪われるからです。ドライサウナの中は、実はとても乾燥していて、湿度が5パーセントほどしかありません。ですから、汗がどんどん蒸発して体が冷やされるのです。
そのためにも、ドライサウナに入るときには、あらかじめたくさん水分をとって、体が汗をかける状態にしておかなくてはいけませんし、著しく湿度を上げてはいけません。
有名なフィンランドサウナは、空気が乾きすぎないよう少しずつ湿度を上げながら入るサウナです。一方、ウェットサウナは温度が低いかわりに、湿度はほぼ100%です。ちょうど湯船につかっているような状態になり、これはこれで快適なのです。
夜になると電車の音がよく聞こえるのはなぜ?
電車の音に限りませんが、夜になると、遠くの音がよく聞こえてくることがあります。これにはいろいろな要因がありますが、主に4つが考えられます。
まず明らかなのは、夜は昼に比べて騒音が少ないので、まわりが静かなぶんだけ遠くからの音が聞こえやすいということです。
2番目に風向きです。音は空気の振動ですので、風上から風下に向かって伝播しやすい性質があります。例えば海に近い地域の場合、「海陸風」という風が吹きます。昼間は海から陸に向かって風が吹いていたのが、夜になって陸から海に風が吹くため、海に比べて音の発生源の多い、陸で発生した音が聞こえやすくなるのです。
3番目に大気に「逆転層」という空気の層ができているときです。通常、地表から1100メートルぐらいまで(対流圏)は、約6.5℃/㎞の割合で温度が低下しますが、冬の冷え込む夜や早朝などに、放射冷却によって地表面付近の空気が過度に冷えて、地面からある高さまでは上空に行くほど気温が高くなってしまうことがあります。
このようなとき、地上から上空に向かって発せられた音が地上に戻ってきます。これは、光の蜃気楼の原理に似ています。温度が低いほど音速が遅いため、波面が曲がる現象です。いいかえると、音の経路が温度の低いほうに低いほうにカーブするのです。
4番目は空気の湿度です。夏の蒸し暑い夜や、昼間でも雨が降りそうなときに、遠くの音がよく聞こえることがあります。
これは、湿度が高く空気中の水蒸気が多いと浮遊する水分子の密度が高くなっているため、音の周波数によっては振幅が減衰しにくくなり、遠くまで音が到達すると考えられます。
タイヤから抜ける空気が冷たいのはどうして?
真夏でも高い山に登ると、低地の暑さがうそのように涼しいですね。当たり前すぎて「なぜ?」とは考えませんが、物理で説明ができます。
登山で、標高の低い土地から、高い山(1000メートル以上など)に移動すると、もっていたお菓子の袋はパンパンになるし、おなかが何となく張ってウエストがきつくなってきます。これは、袋や腸の中の空気がふくらんだ証拠です。
標高が高いところほど空気が薄く、大気の圧力が低いのです。このとき、空気の温度は標高が100メートル上がるごとに、約0.65℃の割合で下がります。
タイヤから抜ける空気が冷たいのも、気体の圧力が低いと温度が低いのと同じ理由です。なぜでしょうか。
タイヤのバルブを開けると、高い圧力で入れてあった空気が外に出てきます。気圧が高いところから低いところに出てきた空気は、まわりの空気と同じ薄さになるために膨張せざるを得ません。
しかし、気体が膨張するにはエネルギーが必要です。そこで、自分のもっている熱エネルギーを使って膨張します。このため気体の温度が下がるのです。
測ることはできませんが、このときタイヤの中の空気も薄くなっているため、温度が下がっているはずです。
これを「断熱膨張」といいます。
同じような現象に、スプレーをしばらく噴射していると、次第に缶が冷たくなってくるという現象があります。
社会の未来と関係の深いさまざまな科学について、著作活動等を行う。2005年4月、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗船。著作に『日本の深海』(講談社ブルーバックス)、『地球温暖化後の社会』(文春新書)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク)など。内閣府審議会委員。文部科学省科学技術学術審議会臨時委員。慶應義塾大学大学院非常勤講師。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。