「倍返し」は一番ムダ!? 85歳現役美容家が教える怒りへの対処法

怒っている人

やられたら倍にしてやり返す――。リベンジに燃えるのは原動力になることもありますが、それだけでは人生を前に進めることができません。85歳の現役美容家である小林照子さんに、怒りに支配されず「いい人生」を送る秘訣を教えてもらいました。

「やられたら、やり返す」や「倍返し」みたいなことを考え始めると…

意地悪をされたり、嫌味を言われたりすると、それがこころの中にたまってしまうことがあります。でもそこで「仕返しをしてやろう」と考えることは、私は一番時間の無駄になることだと考えています。なぜならそこで恨みをはらすためにエネルギーを燃やしていても、自分の人生自体は全然前に進まないからです。

「リベンジ(復讐)してやる」という言葉を口にするのは、やめたほうがいいと思います。もちろん仕事などで、ライバル会社に差をつけられたり、後輩に追い抜かれたり……などというときには、こころの中で「リベンジ」と思っていいでしょう。大いに思ってください。必ず見返してやると思ってください。「仕返し」ではなくて、です。

ただそれは、自分の中に秘めておけばいい言葉です。それを口に出して「絶対リベンジしてやる」などと言うのは、ちょっと軽々しい気がします。

年齢と共に、ひとはどうしても感情のコントロールがきかなくなりがちですが、“やられたら、やり返す”とか、“倍返し”みたいなことを考え始めると、日々の暮らしが怒りのエネルギーでいっぱいになってしまいます。

怒りのエネルギーがたまってきたときは、頭頂部のくぼみにある百会ひゃくえのツボを刺激して、こころをしずめることです。東洋医学において、百会のツボはからだ中のエネルギーの流れを調整する場所と言われています。両耳の頂点の延長線と眉間の中心の延長線が頭上で交わるところにありますから、左右どちらかの親指の第一関節を軸にして、真下に向かってグーッと指圧してみましょう。

リラクゼーション効果も高いツボと言われていますから、夜眠る前に指圧するのがいいかもしれませんね。目を閉じて、ゆっくり深呼吸しながら百会のツボを押します。そのとき、怒りのエネルギーがからだの外に押し出されていくのをイメージするといいと思います。

“マイナスな気持ち”は、次の日まで持ち越さないことです。人間ですから落ち込んだり、怒りを感じたりすることは当たり前のことですが、その気持ちをリセットしないで自分の中にためこんでいくと、からだにマイナスのオーラが染みつくだけです。

こころは一日の終わりにゼロにリセット。

毎日、すぐに忘れられるようなことばかりではないけれど、

すぐに割り切れるようなことばかりでもないけれど、

こころの目盛りがマイナスに傾いているまま

眠りにつくことがないようにしましょう。

百会のツボを押しながら、こころの目盛りが「ゼロ」に戻る光景をイメージしてください。そしてきっちり眠ってから、新しい一日を始めましょう。

「やられた!」と思ったときの対処法

ひとからつまらない意地悪をされたとき、こころというものは一番モヤモヤするものです。こちらには何の悪気もないのに、相手は自分を毛嫌いしているらしい。この“目には見えない他人の微妙な気持ち”は、そもそも受け止めようがないのですから。

私は50歳のときに、勤め先で女性初の役員になりました。そして人生初の役員会議の日、とんでもない失敗をしました。会議に大遅刻してしまったのです。言い訳のように聞こえてしまうかもしれませんが、聞かされていた通りの時刻に、いえ、その時刻の20分前に会議の場に入ろうとしていました。しかし私がその場所についたとき、会議はすでに終盤を迎えていました。

昭和60年代のことです。その当時、勤め先の役員会議は毎月都内のホテルで朝8時から始まることになっていました。80代後半の会長、そして社長、専務を中心に役員がそろって全員で朝食をとりながら、仕事の話をしていくというスタイルです。

会場である一室に入ろうとしたとき、中からたくさんの食器の音がしたので不審に思い、私は部屋の入口にいたホテルマンに聞きました。

「こちら、スタートは8時からですよね?」

「はい、本来は8時スタートでございますが、会長はいつも6時台にはお見えになりますので、もう何年も前から通常7時には朝食をお出ししております」

ホテルマンの言葉を聞いて、私は血の気が引きました。部屋のドアを開けた瞬間、

「遅いなあ、新役員」

「あなたのお披露目の場だというのに」

「どうしたの? 遅いからもう始めてましたよ」

と、皆さんからのブーイング。

「やられた」

私はそのとき初めて気がつきました。私は表向きの開始時刻を伝えられていただけで、実際の開始時刻は伝えてもらえなかったのだと。役員になって最初の朝食会で大恥をかくように意地悪をされたのだと。

私に集合時刻を伝えてくれた方は、もし私が役員にならなかったらその方がなっていただろうと言われていた方です。ああ、私の思慮が足りなかった。そして私のリサーチも足りなかった。いくら社長のまわりの仕事をしているひとだとはいえ、たったひとりの言葉をそのまま鵜呑うのみにして出かけていった私のミスです。

ただ、そんなところで大騒ぎをしても始まりません。その場で騒げば騒ぐほど、自分を正当化しようとジタバタしているようにしか見えないでしょうから。

こころの中はショックでした。そして怒り心頭でした。でも私は深々と頭を下げて言いました。

「申し訳ありません。遅くなりました」

その場は何とかうまく収まりました。が、私の中には長い間、釈然としない思いが残りました。

しかしひとの嫉妬や意地悪などというものは、どこの世界にもあるものなのです。60代半ばのとき、映画の仕事で、ある女優さんのメイクを担当したときのことです。主役はその女優さん。そしてその方に脇役の女優さんがやきもちを焼いていらしたのでしょう。主役の女優さんが撮影用の服に着替え、私がその服に合ったメイクを始めていたところ、脇役の女優さんが、

「あなた、衣装を間違えて着ているわよ。今日撮影するシーン用の衣装は、こっち。こっちの衣装に着替えるといいわ」

と、主役の女優さんに言いました。そこでその衣装に着替えたところ、それはウソで、最初に着ていた衣装が正しかったというようなことがありました。

そのときの主役の女優さんの言葉を、私はいまでも忘れることができません。

「気にしなさんな。大丈夫。

こんなことはどこにでもある。

いちいち大騒ぎなどしていられるものか

これを聞いて、私も長年おなかの中にためていた嫌な思い出がスッと消えていくのを感じました。

意地悪はスイッとかわして、取り合わない。

こちらはこちらで誠意のある対応をして、周囲のひとまで巻き込まない。

そして不愉快な思いは、その日のうちに忘れることです。

私は長年美容の世界で生きてきましたから、ひとの顔を見ればそのひとがどんな生き方をしてきたひとなのかもわかります。毎日どんな表情で生きてきたか、ということはやはり顔に出てしまうもの。意地の悪い顔をしながら他人の悪口を言ったり、愚痴ばかり言っているひとというのは「意地悪ジワ」がいつのまにやら顔に刻まれているものです。「意地悪ジワ」はそうそう消えるものではありません。

意地悪は「されても、しないこと」。

そもそも意地悪をしてくるひとというのは、人間が小物だからしてくるのです。自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいになってしまう大人は、やはり第三者から見て“美しくはない”。そういうものだと思います。

 

PROFILE
小林照子

1935年生まれ。美容研究家・メイクアップアーティスト。 化粧品会社コーセーにおいて35年以上にわたり美容について研究、その人らしさを生かした「ナチュラルメイク」を創出。数々のヒット商品を生み出す。また、メイクアップアーティストとしても活躍し、どんな人でもきれいに明るくすることから「魔法の手」を持つ女と評される。 91年、コーセー取締役・総合美容研究所所長を退任後、56歳で会社を創業、美・ファイン研究所を設立する。94年、59歳で、[フロムハンド]小林照子メイクアップアカデミー(現[フロムハンド]メイクアップアカデミー)を開校。2010年、75歳で、青山ビューティ学院高等部を本格スタート。近年は現場力を持った女性リーダーを育成する「アマテラス アカデミア(ATA)」を開講。85歳を迎えたいまなお精力的に活動を続けている。著書多数。

美しく生きるヒント

美しく生きるヒント

  • 作者:小林 照子
  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)