「昔ながらの指導」はもうNG。繊細な部下への正しいダメ出し法

いま、職場ではストレスに極端に弱い「繊細な部下」が増えつつあります。心が折れやすい彼らを立派なビジネスパーソンに成長させるには、愛情を持って叱らなければならない場面もあるのです。「昔ながらのやり方」が通用しない時代の指導方法を、職場の改善対策の専門コンサルタントである渡部卓氏に聞きました。

「もっとよく考えろよ」という感情が噴き出してきたら…

昔は部下に対して、頭ごなしに注意したり、叱っても問題にならない時代もありました。でも、いまはそんなやり方は許されません。部下から提出された書類や提案などに、きちんとした理由や改善策も伝えず何度もダメ出しするのは御法度です。

また、かつては信じられないスパルタ教育がまかり通ったこともありました。私の知人に新聞社の編集委員が数名います。彼(彼女)らから聞いた話ですが、昔の新聞社は、部下が最初に書いてきた原稿や記事にはほとんど目を通さず、クシャッと丸めてゴミ箱に捨てるのが通例だったそうです。書き直しを命じて、第3稿ぐらいの段階でようやく読み始めるのだとか。いまそれをやったら完全にアウトです。

もちろん、本当にダメな原稿はあるでしょう。学生のレポートでもよくあります。正直に言えば、管理職時代の私も部下の提案に対して「もっとよく考えろよ」という感情が噴き出てしまった経験があり、学生にもそう言いたくなることもあります。

現在では、知人の編集委員はそんなときでも気持ちをグッとこらえて、本当は5まで言いたいところを2か3にまで落として優しく指摘しているそうです。そうして辛抱強く理由を説明して原稿のレベルを引き上げていく。

それでも、何回かやりとりしていると、途中で修正原稿が上がってこなくなる部下もいたと言います。新聞社を辞めるまではいかないけれど、何日か上司と没交渉を決め込む若手もいたそうです。

私は新聞社のデスク、テレビ局のプロデューサーなどの管理職に向けた、部下への指導法に関する研修も行っています。その際、若手記者に模範例、サンプルを示すことの大事さを伝えています。

理由も言わずに書き直してこいとか、自分の身に置き換えてよく考えて書けなどという抽象的な指示は、昔なら通じたかもしれませんが、いまは使えません。

実際、私も学生のレポートの指導にはすごく気を使います。たとえば、就活時のエントリーシートの相談に乗る際。彼らは自分が書いたエントリーシートを持ってきて、私にアドバイスを求めてきます。

ひと目で「これは企業に見せるのは恥ずかしいなあ」と思っても、それは表情には出しません。彼らは私の表情を鋭く見抜きます。とにかく笑顔で「なかなかいいね。でも、この箇所だけ、こう置き換えるともっといいかもしれないよね」などと言い方に気をつけるようにしています。

もし最初から「ダメだよ、これでは」などと一刀両断するような言い方をすると、学生は大きなショックを受けてしまいます。自己否定されたと受け取って、ずっと引きずってしまうのです。

具体的に私がよく示す改善案は、3つ褒めるポイントを見つけて、3つの改善点を指摘する形です。できるだけ細かく指示しないと学生は戸惑います。

模範例も丁寧に示します。こことここのウェブサイトにいい例が載っているから、参考にするといいよ、などと具体的にサイト名を示しながら指導します。

「自分の就活なんだから自分で探してごらん」などと突き放すとどうしていいかわからなくなり、「たくさんあってわかりません。先生のオススメを教えてください」と再度、研究室にやってくることになります。

いずれにしても、若手社員の成果物に修正を求めるのなら、模範例、見本になるサンプルを示す必要があるということです。

実際、どういう場面で上司や仕事のプレッシャーを感じるかという質問に、多くの若手は「具体的な説明が足りない場合」と答えるそうです。

若手に対して絶対必要な作業は「傾聴」

何より大事なことは、たとえあなたの結論はNOであったとしても、部下の意見にはあますことなく耳を傾けることです。浅はかな考えだなと思っているとしても、しっかり「傾聴」するようにしましょう。

意見を差し挟まず、最後まで丁寧に聴きます。そして相手が意見を言い切ったと認めてから、初めて意見を伝えてください。ちゃんと自分の提案を聴いてもらえたなと思えば、答えがNOであっても納得しやすくなるからです。

彼らにしても、自分たちの意見がすべて認められるとは思っていません。それでも、言われ方、受け止められ方で、上司に対する気持ちは雲泥の差になるのです。

この、相手の意見に最後まで耳を傾けるという当たり前のことができない上司が、じつはとても多いのです。

どうせ結論は同じだからとか、自分は忙しいんだ、などの理由で、途中で話をさえぎって彼らの意見を退けてしまうと、部下は心を開いてくれなくなります。それは部下のやる気を失わせ、成長を遅らせることになり、結果的に管理者である上司にツケが回ってくることになるのです。

繊細くんには遅刻をどう注意する?

さらに、実際に否定的な意見を言う場面でも、言い方はとても大切です。ポジティブなことでネガティブな情報を挟む言い方がお勧めです。

たとえば、遅刻が多い部下がいたとすれば、まずは彼がなぜ時間を守れないのか、その言い分を徹底的に聞くことです。そして彼が言い終えたところで、まずはポジティブな意見を伝えてください。

「ふだんのキミの仕事への取り組み方はとても一生懸命で、私も見習いたいぐらいなんだ」

そして、「でも、始業時間にみんなで一斉にスタートするというルールは守ってもらいたい」と伝える。

最後は「なぜなら、キミの姿を後輩も参考にしているから、ぜひ、いいお手本を見せてほしいんだ」で締める。

つまり、「遅刻を注意する」というネガティブなことの前後に、ポジティブな要素を入れるのです。これなら部下も納得して自分の問題点を受け入れやすくなるはずです。

いまの時代、若手部下を指導し育てていくのはすごく難しい。言葉の加減を間違えると、即座に両者の関係はギクシャクします。下手をすると離職に至るケースもあるでしょう。若手社員を傷つけずに彼らを動かす、上手なものの言い方を心がけましょう。

 

PROFILE
渡部卓

産業カウンセラー、認定ビジネスコーチ、帝京平成大学現代ライフ学部教授、武漢理工大学客員教授。1979年早稲田大学政経学部卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA を取得。90年日本ペプシコ入社後、AOL 、シスコシステムズ、ネットエイジを経て、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。14年4月 帝京平成大学現代ライフ学部教授に就任、現在に至る。職場のメンタルヘルス・コミュニケーション対策の第一人者として、講演・企業研修・コンサルティング・教育等、多方面で活躍中。主な著書に『折れやすい部下の叱り方』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さない プロフェッショナルの仕事術』『人が集まる職場 人が逃げる職場』(クロスメディア・パブリッシング)ほか著書・監修書多数。