優等生タイプのお母さんほど虐待まがいのことをしてしまう
子育てのストレスが高いのは、なんと言っても専業主婦のお母さんです。
小さいお子さんを抱えている専業主婦のお母さんは、ひたすら「2人きりの密室状態」になってしまいがちです。専業主婦のお母さんはお子さんによって、完全に「自由」が奪われてしまいます。これが、何よりもストレスの原因になります。
最近、私が受ける子育て相談で最も多いものの1つが、「先生……もしかすると私がやっていることは、虐待なのではないでしょうか?」という相談です。
小さいお子さんは、親御さんの思う通りにならないのが当たり前です。けれど、あまりに思い通りにならないと、ついイライラしてしまって「いったい、何度言ったらわかるのよ!」と、つい手が出てしまいがちです。
こうしたお母さんには責任感の強い方が多く、「ちゃんとした子にしつけなくては」という気持ちがあります。
けれども、「しつけをきちんとしなくては」という気持ちが強すぎるがために、つい、虐待まがいのことをしてしまう。手が出てしまう……。そんな悩みを抱えている方が特に、「優等生タイプのお母さん」に多いのです。
「きちんと子育てしなくていい」のです
多くのお母さんは「きちんと子育てをしなくては」と、すごいプレッシャーを感じています。しかし、それがお子さんに悪影響を与えるのです。
メディアで活躍するタレントママの言葉を聞いていると、「私もちゃんとしつけなくては」「負けてられないわ」と自分で自分にプレッシャーをかけているように感じることがよくあります。その結果、「過剰なしつけ」をしてしまい、お子さんの心を追いつめてしまうのです。
特に、お母様自身がお子さんの頃からずっと「優等生」できた方、親御さんから 「お前は、いい子だ」とほめられて育てられて大人になった方が、「母親」としても 「優等生でありたい」「いい母親でありたい」という思いから、「過剰なしつけ」でお子さんの心を追い込んでしまいやすい傾向があります。
たとえば、あなたが今、35歳で5歳の子の子育てをしているとしましょう。35歳になっても、まだ「いい子育てができている娘。として、自分の母親に認められたい」 という気持ちが強いのです。
自分の母親に「あなた、ちゃんと子育てをしているわね。 ちゃんとしつけができているわね」と言われたい――そんな思いから、「過剰なしつけ」をおこない、お子さんを追い込んでしまっているお母様が少なくないのです。
いっしょに気持ちを分かち合う
大切なのは、「いい親でありたい」と思い込んで大人と子どもを隔てるのではなく、家族として、子どもといっしょにいろいろな気持ちを分かち合うことです。
人生には、つらいこと、悲しいことがたくさんあります。大人でも子どもでも、それは変わりません。たとえば、ご自分の親御さんが亡くなった。急に病気になった。そういうショックなときに、その気持ちを大人同士、ご夫婦で、親子で分かち合いましょう。
お子さんのつらい気持ち、悲しい気持ちも同じです。お子さんと親御さんとでたくさん話をして、分かち合いましょう。たくさん話を聴いてあげるのです。
「頑張ろう」「頑張ろう」と日本人は考えすぎます。
悲しいこと、つらいことがあっても、そういう気持ちは押し殺して、頑張らなきゃいけない。悲しいことがあっても、悲しんではいけない。つらいことがあっても、つらいと思っちゃいけない。そういう気持ちは全部自分の中に押し込んで、がまんしなくてはいけないのだと考えすぎるところが、日本人にはあります。
もっとつらい気持ち、悲しい気持ちや苦しい気持ちをお互いに語りあい、聴きあい、分かちあっていきましょう。
たとえば災害関連のニュースをテレビを見ていて、
母「なんだかつらい気持ちになっちゃうね。本当に悲しいね」
娘「そうだね、私も悲しい……」
こんな会話を親子でいつもしていれば、お子さんは「あぁ、悲しいときは悲しんでいいんだ」と思えます。 「悲しいときは悲しんでいいんだよ。苦しいときには、苦しんでいいんだよ。つらいときには、つらいって言っていいんだよ」
このことを、ぜひ、お子さんに伝えていきましょう。言葉だけでなく、実際につらい気持ちを語りあうことで、それを伝えていきましょう。
「弱音を吐いてもいいんだよ」
そう伝えてほしいのです。
明治大学文学部教授。臨床心理士。上級教育カウンセラー。教育学博士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。児童相談所、大学付属の教育相談センター、千葉県のスクールカウンセラー等、子どものことで悩む親のカウンセリングを30年近く行ってきた。 『子どもよりも親が怖い』(小社刊)『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の子育て』『ひとり親の子育て』(WAVE出版)『子育ての教科書』(幻冬舎)など著書多数。

- 作者:諸富 祥彦
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