「正解」を求めすぎると動けなくなる―感性に任せることの重要性

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たいていのことは手元のスマホひとつで調べられるようになった昨今、「答え」や「正解」がないと行動に移せない、デメリットばかりを探して行動しないという人が増えています。それによって何が失われ、私たちはどんなことに注意して行動するべきなのか? 自分らしく自由に生きることにこだわり、実践してきた本田直之さんに教えてもらいます。

動き出す前に「正解」が見つかるわけがない

何かを得るためには、動き出さなければ始まりません。誰もが聞いたことのあるアドバイスだと思います。わたしはこれまで多くの「目標を達成した人」と「できなかった人」を見てきました。そして、経験上、改めてこう思います。

動き出す前に「正解」を探している人は、動き出せない。

海外で働きたいという目標を語った学生が10年後、それを実現しているかどうか。その差は本気で英語に取り組み、海外へ飛び出してしまったかどうかでしかありません。できた人は確かな答えなどわからないまま動き出し、できなかった人は「正解」を探して足踏みしているうち、タイミングを逃してしまいます。

例えば、シェフの世界では、動き出した若い人たちが経験を積み、「もし、日本人シェフが全員いなくなったら、ヨーロッパのレストラン業界は成り立たない」と言われるほど、大きな成果を出しています。

なぜ、それほどまでに評価されるのか。それは日本人のオリジナリティがあるからです。仕事への情熱があり、何事にも真面目に取り組む姿勢を持っていること。電車は時間どおりに来るし、街のいたるところには24時間営業のコンビニがあって、治安もいいという環境で育ったこと。誰もが当たり前だと思っていることかもしれませんが、海外の人から見ると、かなり特異なことなのです。

ですから、海外に出ることで日本人は一定のオリジナリティを発揮できると言えるでしょう。実際、多くのシェフやソムリエが言っていたのは、海外に行ったほうが勝負がしやすいということでした。日本はレストランの数も多いし競争も激しい、それに比べればよっぽど、活躍できる可能性は高いというのです。

そして、海外の経営者は能力があれば年齢をさほど気にしません。日本では20代だというだけで、シェフは任せられない。まだ早いと判断しがちです。しかし、海外ではできると思えば、「おまえやってみろ」と任され、そこで結果を出せば、店のナンバー3、ナンバー2のポジションが与えられ、トップのシェフから多くのことを学びながら実力を磨くことができます。

当然、技術の伸びも早くなり、名実ともに一流のシェフへと育っていくのです。

「できない理由」を探すのは、マイナスの複利をふやすこと

また、料理の世界においてもITによる変化が起きています。かつて、「技術は盗む」ものでした。「秘伝の◯◯」といったように、とっておきの技術やレシピは、隠して表に出さないのが当たり前。しかし、今は確かな舌と知識があれば、インターネット上から技術と秘伝を学ぶことができるようになっています。

その結果、かつての悪しき伝統は今、だいぶ変わりつつあるようです。例えば、ミシュランガイドで5年連続三つ星を獲得している日本料理店「龍吟」の山本征治シェフは「盗んで覚えろとか、教えないのは怠慢だ」とまで言っているほど。自分の技術はどんどん伝えるべきだというシェフも増えています。

教える側の考え方も変わり、教わる側はネットをはじめ多くの情報に触れられるので、修業の期間も短くなってきました。自分から動き出せば、若き料理人が力をつけるための方法や土壌はかなり整ってきているのです。

そして、これはすべての業界で起きている変化でもあります。

そんな時代に「彼に比べて時間がないから」「彼女よりも忙しいから」「お金がないから」「会社員だから」「景気が悪いから」などなど、できない理由を考えることは言い訳を探しているだけです。

人生は○×クイズではありませんから、100%の正解などありません。正解がないから、自分がいいと思う方向へ踏み出してみるしかないのです。そこで、「正解が見つかったら動きます」と言っていたら、永遠に何も変わりません。

とりあえず動いてみればいい。違ったら変えればいい。踏み出す前に「大変なリスクだ」と思っていたことのほとんどは、通りすぎてしまえばどうということもありません。

失敗したと感じたら、その時点で修正すればいい。人生は壮大な実験です。

特に今のような変化の激しい時代には、10年前に不正解だったことも正解に変わります。できない理由を考える前に、できる理由を探し、工夫しながら試し続けることです。

他人の価値観や流行に合わせず、自分のやっていることを信じていくこと。言い訳を繰り返し、マイナスの複利を増やしていくくらいなら、正解ではなく「できる理由」を考えるプラスの思考の癖をつけていきましょう。

「ネット環境のない場所」へ足を運ぶ意味

同じようなことは旅についても言えます。わたしは旅で訪れる街のこと、興味を持った店のこと、食事をしようと考えているレストランなどを必ず事前に調べるようにしていました。ネット環境の進化で、ほぼ一瞬で事前に世界中のあらゆる情報を集めることができます。

事前に調べることを習慣化していると、旅でも仕事でも面倒な出来事が起きる可能性が低くなり、快適に過ごすことができるのです。

ところが、初めてキューバを旅したときのことです。キューバ共和国はキューバ革命後の1961年以来、アメリカと国交を断絶(2015年、54年ぶりに国交を回復)。国際社会の中で独自の路線を歩み、国内にはクラシックカーが現役で走っていて、ネットの普及も大手のホテルなど、特定の地区に限られていました。

今もクラッシックカーが走るキューバの町並み

今もクラッシックカーが走るキューバの町並み

では、それが不自由かというと、そのゆるやかさは逆に新鮮で、強い独自性を感じる国です。実際、旅の間ネットにつながったのは2回。時間にして1時間程度でした。

そこで、改めて感じたのはネットのなかった頃の感覚です。キューバでは外でネットが使えませんでした。店の情報を調べることもできなければ、メールの確認もできません。当初はやはり、不便さを感じていました。

ところが、同行していたキューバ来訪歴の豊富な仲間は気にもしていません。聞いてみると、普段から「インターネットをほとんど使わない」という人でした。彼は地元の店にも詳しく、あちこち案内してくれたのですが、「さっきの店の名前はなんですか?」と聞くと、「あ、店の名前? 知らないな」と。

飛び込みで店に入り、気に入ると何度も通い、店主とつながりを作っていく。そんなふうに広げたネットワークが彼の基本になっているので、人の顔と名前は知っていても店名は記憶していないというわけです。

その話を聞いて、わたしは少し反省しました。訪れる街や店のことなどを事前に調べることで、昔は持っていた勘や場の雰囲気を読み取る感性を退化させてしまっていたのではないか。

ネットがあることによって、わたしたちは感性でその場に飛び込むより先に、「ググれば出てくる」とばかりに、何もかも調べてしまっていたのではないか。

わたしはネットにつながらないiPhoneを片手にキューバのすばらしい街並みを眺めて歩きながら、そんなふうに「すべてを事前に調べられることのデメリット」について考えていました。

一番怖いのは、失われているものがあるという自覚がないまま、勘や感性をすり減らしていくこと。そして、ある日、あなたの勘や感性が求められる場面に出くわした時、自分で判断できなくなっている状態に気づくことです。

大切なのは「便利さの一方で、失っているものがある」と知ることです。その認識があれば、ネット環境がない場所を楽しめるようになります。

年1回、自分からあえてネット環境のない場所へ出向いてみましょう。

 

seishun.jp

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PROFILE
本田直之

レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役。シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQ上場に導く。現在は、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行う。ハワイ、東京に拠点を構え、年の5ヶ月をハワイ、3ヶ月を東京、2ヶ月を日本の地域、2ヶ月をヨーロッパを中心にオセアニア・アジア等の国々を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ。アカデミー・デュ・ヴァン講師。明治大学・上智大学非常勤講師。