「ペットが病気なので休みたい」という“今どき部下”にどう答えるか

想定外のことを言ってきた若手部下をうまくコントロールしてこそ「できる上司」。しかし、多様化している価値観の中で、どうリーダーシップをとっていけばいいのか悩んでいる人も多いでしょう。職場の改善対策の専門コンサルタントとして300を超える企業や官庁などで研修を行ってきた渡部卓氏が、「繊細な若手部下」にどう対応していけばいいのか教えてくれました。

半沢直樹が人気のワケは○○のスキルにあった!

かつての上司・部下の関係であれば、ある程度は上司がイニシアチブを握って、一方的な指示で部下を動かす形も可能でした。権限を多く委譲されている外資系では、いわゆる「ポジションパワー」の使い方が業績を左右すると言われてきました。

正直な話、私も大企業での本部長時代には、パワハラギリギリとも思えるポジションパワーを利用したこともあります。これは実力が伴わない、肩書をテコにしただけの借りもののパワーであり、いま振り返ると赤面モノです。MBAを取得した若い管理職などを見ていても、こうしたミスを犯す印象があります。

しかし、いまの若手社員に対しては、一方的に上から指示するだけでは底力を引き出せません。

そこで求められるのは、「傾聴」のスキルです。

アメリカのトップ・ビジネススクールで教えるリーダーシップ論では、まさにこの傾聴の重要性を説いています。とくに「ネガティブなことを言ったり、NOを突き付けたりするときは、とことん相手の意見を傾聴せよ」と強調しています。

日本の上司は忙しく、部下の意見を傾聴しない人が多く見られます。それどころか、最近の忙しい上司は「俺の立場やストレスもわかってくれよ」と上司側の立場や言い訳を押し付けようとさえします。

これでは部下は反発するだけです。また、だからこそ、部下の意見を聞く半沢直樹や島耕作がこれほど人気になっているのでしょう。

彼らの力を引き出したいなら、まず彼らの話に耳を傾け、彼らの思いや現状をありのままに理解し、共感しようと取り組むことが早道です。叱ったり虚勢を張ったりするより、よほど限りある自らのエネルギーの有効活用になります。

誰でもできる傾聴の基本、3つのポイントを紹介します。

1.共感を示す

2.質問をする

3.気持ちを伝える

それぞれを詳しく解説していきましょう。

傾聴の基本1 共感を示す

傾聴は自分が知りたいことを聞き出すテクニックではありません。相手が話したいこと をとことん話してもらうためのテクニックです。

あくまで主体は相手にあります。彼らが心の中で表現したいことを言葉にして伝えてもらうのです。ですから、否定や反論は控えてください。

かりに話が要領を得なかったとしても、最後まで辛抱強く聴くようにしましょう。部下の目を見て、うなずいたり、相づちを打ったりと同意を示すのです。

そうしながら相手の立場で考え、相手の言葉を自分も繰り返し、その場の気持ちを感じてみようと心がけてください。

部下が仕事の負担がつらいと訴えているなら、甘いなどと頭から否定せずに「そんなに負担を感じていたのか」と、まずは共感のアンテナを高くすることです。

傾聴の基本2 質問をする

共感を示して、部下が心を開いてきたと感じたら、次の段階に移ります。専門的な言い方をすると「非指示的なアプローチ」をします。要は、相手に質問をするのです。

「どうすれば部下にこういう行動を取らせられるか」という視点で“指示的”に誘導するのではなく、「どうすれば部下がそうしたくなるか」という観点から質問をするのです。

部下に自ら「現状を改善して、より良い方向に進もう」と考えてもらうわけです。

そのために有効な質問は「キミならどんな対策が有効だと思うか」です。決して「こんな対策をしてみろ」と指示するのではなく、誘導もせず、本人に考えてもらう。そうすると、部下は対等な関係と認めてもらえていると感じます。

傾聴では、部下の自尊心を満たすことも効果的です。

傾聴の基本3 気持ちを伝える

1と2のプロセスを踏まえると、部下は自分の問題点に気づき、改善策へと意識が向いていくはずです。

そこで、部下に対して、上司としての気持ちを伝えましょう。それは決して上から目線の意見や、部下の考えに対する評価ではなく、自分の感情を表現するだけにとどめてください。

「キミと率直な意見交換ができて心から嬉しい」

上司が感じたことを素直に表現すれば、部下との距離はより縮まります。しかも、この人は自分の意見をストレートに受け止めてくれる上司だと、部下からの信頼感が増すはずです。

 

以上が傾聴の基本のポイントです。

「若手の話にそこまで配慮しなければならないのか」

「忙しいのに、そこまで若手に付き合わなければいけないのか」

と感じた人もいるでしょう。

しかし、尊重されたい、認められたいという彼らの気持ちをまず満たすことで、上司の意見にも耳を傾けてもらえるようになる。それが管理職・マネージャーとしてのあなたの手腕を磨くことになり、結果的に、自分も部下も成長し、チーム全体の成果を上げることにつながるのです。

傾聴は意識して実践しないと身につきません。興味のある人には、産業カウンセラーの資格を取ることをお勧めします。私も仕事をしながら毎週講座に通いましたが、大変有意義で、いまの仕事に大いに役立っています。

先日、こんなことがありました。

ある学生が「病気のペットの面倒を見たい」という理由で授業を休みたいと申告してきました。私が即座に「ペットは家族と同じだから、しっかり看病してあげてね」と答えると、安心して休んだのです。

もし、「そんな理由で欠席は認められない。動物と勉強と、どっちが大事なんだ」と叱っていたら、その学生と私の関係は切れていたかもしれません。

あなたは部下が「ペットが病気なので会社を休みたい」と言ってきたらどうしますか?

どう判断するかは上司の認識と判断に関わってきますが、少なくとも部下の優しさだけは受け止めなければならない時代だと思います。

 

PROFILE
渡部卓

産業カウンセラー、認定ビジネスコーチ、帝京平成大学現代ライフ学部教授、武漢理工大学客員教授。1979年早稲田大学政経学部卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA を取得。90年日本ペプシコ入社後、AOL 、シスコシステムズ、ネットエイジを経て、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。14年4月 帝京平成大学現代ライフ学部教授に就任、現在に至る。職場のメンタルヘルス・コミュニケーション対策の第一人者として、講演・企業研修・コンサルティング・教育等、多方面で活躍中。主な著書に『折れやすい部下の叱り方』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さない プロフェッショナルの仕事術』『人が集まる職場 人が逃げる職場』(クロスメディア・パブリッシング)ほか著書・監修書多数。