超一流は「相手を気づかう言葉」を自然に使っている
CAが接客するうえで心がけていることの1つに、「クッション言葉」というものがあります。言葉が相手の心に与える衝撃を緩和するクッションのような役割をする言葉のことで、同じことを伝えるのでも、この「クッション言葉」があることで柔らかいニュアンスになり、すんなりと相手の心に届きやすくなります。
例えば、離陸前に座席の背もたれを戻していただきたいときには、「座席の背もたれをお戻しください」と伝えるよりも、「おくつろぎのところ申し訳ないのですが、座席の背もたれをお戻しいただけますか?」と伝えたほうが柔らかい印象になりますよね。
荷物の収納をお願いしたいときも、「毎度のことで恐縮なのですが、お荷物を前のお座席の下にお入れいただけますか?」というように「クッション言葉」を添えることで、「いつも同じことをお願いしてしまい恐縮です」という気持ちを伝えることができます。
ビジネスシーンでよく使用される、「お忙しいところ恐れ入りますが」「お手数をおかけいたしますが」も代表的な「クッション言葉」です。この「クッション言葉」のバリエーションをたくさん持っていると、コミュニケーションがとてもスムーズになるのです。
つまり、「クッション言葉」は相手を気づかう言葉といえます。そして、超一流のお客様は「クッション言葉」を会話のなかで自然に使用されているのです。
超一流の方はその使い方がとても上手で、感動を覚えることも少なくありません。例えば、何かリクエストがある際には必ず「急がないから」「いつでも大丈夫なので」と、こちらを気づかうひとことを添えてくださいます。
このような言葉を添えると、「持ってくるのが遅くなるのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、サービスする側としては、このように言われたからといって、優先度が下がることはありません。むしろ、「少しでも早くお持ちしたい」と思ってしまうのが人間の心理ではないでしょうか。
マイナスをプラスに変える「太陽フレーズ」の魔法
さらに、超一流のお客様はクッション言葉のさらに一歩上をいく「太陽フレーズ」で、相手の心を解きほぐします。「太陽フレーズ」とは私が命名したものですが、相手の不安や緊張を解きほぐす太陽のようなフレーズによって、疑いの念なく素直に言葉を受け取れるようになるものです。
「お食事の選択肢がなくなってしまい、お肉希望だったお客様にお魚をお出しすることになったときのこと。食器を下げる際に再度謝罪したところ『すごく美味しかった からこっちにして正解だったよ』と言ってくださり、とても安心しました」というエピソードがあります。
このとき、もし「大丈夫ですよ」と言っていただけたとしても、CAの心のなかでは、「本心では大丈夫と思っていないのではないか」「ご希望に添えず申し訳なかった」など、不安やモヤモヤが残ってしまっていたはずです。
しかしこのような「太陽フレーズ」を添えてくださったことで、CAは晴れ晴れした心になることができたのです。
同じような例で、お客様にベリーニ(シャンパンベースの桃のカクテル)を頼まれたのに、誤ってミモザ(シャンパンベースのオレンジのカクテル)をお出ししてしまったときのこと。
お客様はその場では何も言わずにお飲みになっていたのですが、CAがあとから間違いに気づき謝罪に行ったところ、「あ、そういえばそうだったね。でもどっちにしようか迷ってたし、とても美味しかったからこっちでよかったよ。ありがとう」と言ってくださったという話もあります。
どれも、もともとは一番希望のものが手に入らなかったというマイナスのシチュエーションでしたが、「太陽フレーズ」によって、まるで魔法のように、結果的にそれでよかったというプラスのシチュエーションに変えています。
CAへの気くばりと同時に、手に入らなかったものに執着せず、常にその状況のいいところに目を向ける、超一流の方のポジティブさも垣間見ることができます。
失敗だらけのCAを救った、想定外のひとこと
「私がファーストクラスの訓練を受けて間もない頃、ファーストクラスにインド人のお客様がお乗りになりました。インドなまりの強い英語でうまく聞き取れないことも多く、終始コミュニケーションが上手にとれずに、頼まれたものを忘れてしまうこともありました」(元外資系エアラインCA)
挙げ句の果てにワイングラスを倒してしまい、「もう、怒られる!」と覚悟しながらこぼれたワインを拭いていたとき、そのお客様は『Relax. It's all right. You are doing great !(落ち着いて、大丈夫! 君はうまくやっているよ!)』という予想外の言葉をかけてくださったといいます。
「私のサービスはそれはもうひどいものだったのに、まさかこんな言葉をかけていただくとは思わず、泣きそうになってしまいましたが、その後はリラックスしてしっかりサービスを行うことができました。私の緊張とあせりを感じ取り、緊張をほぐすような言葉をかけてくださったお客様の心づかいに感謝です」(同)
相手のミスやミールチョイスをお断りされたときの対応として、「大丈夫ですよ」だけでもマナーとしてはまったく問題ありません。
しかし、そこに「太陽フレーズ」という気くばりを添えることで、相手の心のわだかまりをスーッと解きほぐすことができるのです。そしてその経験は、いつまでも相手の心のなかに温かい記憶として残り続けます。
「気くばりのひとこと」は、リモートワークの強い味方
最近では在宅勤務を取り入れている企業も増え、同じ職場内でも対面ではなく電話やメールでやりとりすることも増えてきています。
電話やメールでのやりとりでは、表情や温度感が伝わりにくいため、対面のときと同じ言葉を使っても、きつい印象を与えてしまいがちです。
メールはさらに声もトーンもわからないので注意が必要です。つい必要な用件のみ送ってしまいがちですが、メールこそ「クッション言葉」と「太陽フレーズ」をおおいに活用するよう心がけましょう。
コミュニケーションがスムーズになり、要望も快く受け入れてもらいやすくなるはずです。
CAメディア代表取締役。元日本航空客室乗 務員。国内線を経て、国際線ビジネスクラス・ファーストクラスなどを担当。退職後は、CA 流美容コンサルタントとして独立。百貨店でのセミナー、All About ビューティーガイドとしての活動を通して、数多くのWebメディア、雑誌などでCAの美容法を体系化し紹介する。その後、日本初のキャビンアテンダントが発信する総合情報サイト「CAメディア」を設立。航空会社の枠を超えた1000人以上のCAネットワークから情報を発信している。また、好きなことを仕事にし、弾力性のあるサ スティナブルな働き方、ライフスタイルをクリエイトする現役CA・元CAのコミュニティ「CA Lifestyle Creations(CAライフスタイル クリエーションズ)」を主宰している。