虹が上半分しか見えないワケ
雨上がりの空に大きな虹を見つけると、幸せな気分になりますね。「虹の橋のたもとを見たいから、もっとスピードを出そう……」
などと思って、自転車のペダルを思いきりこいでも、どこまでいっても虹に近づけなかった、そんな経験はありませんか。そう、虹はいつも見ている人から離れたまま、真正面の姿しか見せないのです。
なぜでしょう? 虹は太陽光が空気中の雨粒に当たったとき、雨粒がプリズムの役割をはたして、光の色を分けることで起きます。そのため、特に雨上がりに現れるのです。
もともと太陽光というのは赤~黄~緑~紫の波長が混じって透明に見えている光なのですが、雨粒に当たると、赤色は入ってくる光に対して42.18度の角度で反射し、紫は40・36度の角度で反射する、というように色によって雨粒から出て行く角度が微妙に違うのです。
ですから、たくさんの雨粒が浮いているスクリーンに対して、見ている人の背後から映写機の光が射すようなもの。これが虹の正体です。
つまり、観測者は円すいの頂点にいて、円形の底面のふちに相当する場所にある雨粒からの光だけを見ていることになります。こういうわけで、真横から虹を見られず、虹の橋のたもとに行くこともできません。
ではなぜ虹は上半分しか見えないのでしょうか。それは下側が地面の下になってしまうからです。小さくていいのなら、よく晴れた真昼に、ジョウロで目線より下に水をまけば、円形の小さな虹が見られますよ。
電線はなぜ強い風が吹く日にピューピュー鳴るのか?
台風や木枯らしなど強い風が吹いたとき、電線からのピューピューと不気味な音を聞いたことがあると思います。なぜ、こんな音がするのでしょうか。
電線もそうですが、縄跳び、細長い棒を振り回したときにも同じようなピューという音が出ます。
これは、電線や棒、縄跳びそのものの振動が音になっているわけではありません。
そのものの振動が音になっている例として、弦楽器の弦のようなものがありますね。でも、大きい音を出すには共鳴箱が必要です。
また、電線の音は風が強く吹くと、それに応じて音の高さが変わりますが、弦楽器の弦の場合には、強くはじいたからといって、音の高さが変わることはありません。ですから、ピューピューという音は、弦のようなものの振動が音を出しているわけではないのです。
では種明かしをしましょう。強い風が障害物に当たると、空気が二股にちぎられ、障害物のうしろで気流に乱れが生じ、小さな
小さな渦がいくつもできたり消えたりするので、空気の密なところと疎なところができ、音となって聞こえるのです。このような空気の渦を「カルマン
カルマン渦の特徴は、風の速度が速くなるほど、渦の生成と消滅が頻繁に起こることです。だから、強い風が吹くと、空気に頻繁に密と疎ができることになりますから、音の周波数が高くなり、高い音が出てくるのです。
なぜ深海魚は水圧でつぶれないのか?
巨大な頭にアンバランスな小さな尾をもつ魚や、ヒレから変形した「足」で海底にじっと立つ魚などを、深海の映像で一度は見たことがある人もいるでしょう。
深海の環境は、地上にいる私たちからはちょっと想像しにくいですが、その最たるものが圧力です。
水深が10メートル深くなると水圧は1気圧増えます。ですので、水深1000メートルでは約100気圧です。
つまり、足の親指の先に100キログラムのモノが乗っているのと同じ水圧なのです。
以前、世界最深のマリアナ海溝でナマコが目撃されましたが、魚は水深8000メートルぐらいまで住んでいるようです。そう考えると、生物はどうやってその水圧に耐えているのか不思議ですね。
答えは、体内に「空洞」がないからです。
浮き輪に空気を入れて深海にもっていけばつぶれますが、空気ではなく水や油が入っていればつぶれません。要は、体の内側と外側の圧力がつりあえばいいのです。
でも、魚にはウキブクロがありますよね? ウキブクロがあるから、空気の量を調整して浮いたり沈んだりできるはずです。
実は、深海の魚にはウキブクロをもたない種類がいますし、ウキブクロをもっている場合でも、空気ではなくて脂肪が入っているのでつぶれないのです。
確かに水よりも軽いもの、つまり水より比重が軽ければ、空気でなくてもウキブクロの役目は立派にはたすのですから、生物というのはよくできていますね。
社会の未来と関係の深いさまざまな科学について、著作活動等を行う。2005年4月、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗船。著作に『日本の深海』(講談社ブルーバックス)、『地球温暖化後の社会』(文春新書)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク)など。内閣府審議会委員。文部科学省科学技術学術審議会臨時委員。慶應義塾大学大学院非常勤講師。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。