子育てには「3つのステージ」がある
私は子育てを3段階で考えています。
①0歳~6歳の「心の土台づくり期」
②6歳~10歳の「しつけ期」
③11歳~28歳の「自分づくり期」
①の「心の土台づくり期」(0歳~6歳)は、とにかく、親御さんがひたすら愛情を注ぐことが大切な時期です。そのため「ラブラブ期」とも呼ばれています。
②の「しつけ期」(6歳~10歳)は、社会的なルールやマナーを学ばせる時期です。そして、③の「自分づくり期」(11歳~28歳)になると、親御さんは一歩下がって「見守る」時期です。お子さんが親御さんによってつくられた「古い自分」を一度壊して、「新しい自分」と自分自身でつくり直していく。それを親御さんが「見守っていく」時期です。
大切なことの1つは、子育ての「ギアチェンジ」を間違えないことです。
ありがちなのが、13歳、14歳になって「自分づくり期」に入っているのに、「しつけ期」と同じようにガミガミガミガミ叱り続けてしまうことです。
これでは、お子さんは「自分づくり」という発達課題に取りくみたくても取りくめないため、どんどん追い込まれてしまいます。「なんで気持ちをわかってくれないんだ!」となってしまうのです。大きな反抗に出てしまうこともあります。
高校生ぐらいのお子さんが親御さんを刃物で刺した、という事件をニュースで目にすることがあります。そういった事例のほとんどがこの「子育てのギアチェンジ」をしなかったがために起きてしまったものです。
中学生、高校生になってるのに小学生のときと同じように、上から目線でものを言い続けられると、お子さんは「この親といっしょにいるとおれはダメになってしまう」という危機感に襲われ、そういった過激な行動に出てしまうのです。
③の「自分づくり期」に親と子で言い合いになったときに大切なのは、「カーッとなったら、ひと呼吸おく。そして、親のほうから一歩引くこと」。たとえば、
子ども「クソババア!」
母親「なに、このクソガキ!」
とやりあってしまうと、どんどんヒートアップしていきます。これでは、子どものほうとしても「引くに引けない状態」になってしまいます。 中学生くらいの「反抗期」はこうやって激しくなっていくのです。
こんなとき、たとえば親はカーッとなったらトイレに入って5分ほど気持ちを落ちつける。数を数えながら深呼吸する。そして気持ちが落ちついたら、子どもに語りかけるようにするのです。これだけで、だいぶ反抗期はおさまっていくはずです。
6歳まではしつけ以上に大切なことがある
もう1つ、忘れてはいけないのは、6歳までは「自分の心の土台をつくる時期」であるということです。
この時期は、しつけ以上に、とにかく愛情を注ぎ続けることが重要です。つまりこの時期は、ある意味、しつけは2番目でいいのです。
もちろん人間として最低限のルールは身につけさせるべきです。しかし、それ以上に大切なのは「私は愛されている。私はこの世界に歓迎されている」とお子さんが感じられる子育てをすることです。
6歳までの子育ての最重要ポイントは、とにかく愛情を注ぐことです。特に重要なのは、タッチング(身体同士を触れあわせること)です。
ペタペタペタペタ、ギュッ♥ チュッ♥
ペタペタペタペタ、ギュッ♥ チュッ♥
6歳までの子育てでいちばん大切なことはペタペタ触って、ギュッと抱きしめて、チュッ(キス)すること。
そしてそれに言葉を添えて、「愛してるよ~♥」「世界でいちばん大事だよ~♥」とあたたかい包むような声でささやいてあげることです。
とにかく愛情を注ぐのがいちばん。「私はこの世界で歓迎されているんだ」「私は愛されるに値する人間なんだ」という肯定的な自己イメージを心に育んでいくのです。
6歳までの子育てで、いちばんやってしまいがちな失敗は、「過剰なしつけ」です。
電車などで「もういったい何してんの! みんなの前で恥ずかしいでしょ!」と、 すごく大きな声で叱りとばしている親御さんの姿を目にすることがあります。先日は、公園でお母さんが「いったい何してんの! いいかげんにしなさい!」と言いながら、 つまさきでお子さんの顎(あご)を蹴り上げているシーンを目にしました。
こういうことがくり返されると、親御さんは「しつけ」をしているつもりでも、お子さんは「僕(私)は愛されていないんだ」「僕(私)は、いてもいなくてもいい、価値のない存在なんだ」と感じて、自己否定的になり、「心の折れやすい人間」になってしまいます。
この「生きることに対する肯定的感覚」が後の人生で「何かつらいこと」「大変なこと」に直面したときに、「でも大丈夫」「もうちょっと、がんばろう」と思える「心の回復力=立ち直り力」(レジリエンス)になっていくのです。
いわゆる「折れない心」の種は、6歳までに「自分や人生への肯定的感覚」をどれほど味わえるかにかかっているのです。
逆に、この時期に「人生への肯定的感覚」が育っていないと、大人になって仕事の失敗や家族とのもめごとなど、何か困難なことに直面した時、心がポキンと折れて、「もうダメ」となってしまいやすいのです。
そして小学生になり、②の「しつけ期」に入ると今度は、子どもの「社会性」を身につけさせる段階です。
この段階では、「約束を守る」「相手の身になる」など「人間関係のルールを学ばせる」ことや「集団やチームの一員として役に立つことの喜び」を学ばせることが大切になります。「チーム」や「集団」にどんどん参加させて、「自分もこのチームの役に立っているんだな」と「達成感」や「貢献感」を味わえる機会をつくっていきましょう。「社会性」が育っていくのが、この段階の最も重要な課題です。
③の「自分づくり期」である小5から高1の時期に、お子さんの心はいちばん不安定になります。働いているお母さんならば、できれば仕事をはやめに切り上げて、お子さんが帰宅する頃に、家にいてあげてほしいです。
できればお子さんが学校から帰ってきたときに、お母さんがそばにいてあげられるといいですね。
明治大学文学部教授。臨床心理士。上級教育カウンセラー。教育学博士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。児童相談所、大学付属の教育相談センター、千葉県のスクールカウンセラー等、子どものことで悩む親のカウンセリングを30年近く行ってきた。 『子どもよりも親が怖い』(小社刊)『男の子の育て方』『女の子の育て方』『一人っ子の子育て』『ひとり親の子育て』(WAVE出版)『子育ての教科書』(幻冬舎)など著書多数。

- 作者:諸富 祥彦
- 発売日: 2015/02/25
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