「ダメ営業」を「トップ営業」に変えた口ぐせ
45歳で転職して、損害保険の新人営業となった頃のことです。
最初の半年はかなり苦労してご契約をいただいておりました。苦労してお客さまと関係を作り契約に至るのですが、実は契約後のお客さまとの関係がうまくいかないことがたくさんありました。
もちろん、新人だからということもあるとはいえ、お客さまに怒られる、場合によっては怒鳴られる、クレームが起こる、本当に慎重にやっているのに大失敗する、何よりもお客さまが満足しているふうではない。だから当然、自分も楽しく仕事をしていない。
優秀な先輩たちはどうかと言えば、お客さまといい関係を作り、契約もたくさん上げて、いつも楽しそうに仕事をしています。知識や経験の量ももちろん違うのでしょうけれど、何か自分に足りないものはないのだろうか? そんなことを考えていた時のことです。
同じオフィスに自分と同じように「楽しくない状態で」仕事をしている同僚がいました。ある日、その彼がお客さまに電話をするのを何気なく聞いていて、思わず私はドキリとしました。彼の電話には私と共通するところがあるのです。
それは、ある言葉の連呼でした。
「すみません」「あ、すみません」
口癖のように言う「すみません」。
それが自分に思い当たってドキドキしました。
私が30代の頃にいた会社の上司から言われたことを思い出しました。
「すみません、すみませんって、意味なく連呼するな!」
すっかり忘れていました。謙虚な営業と見られたいがために、きっと私はその言葉を選んでいたのだと思います。
けれど、「すみません」という言葉の響きには、きっと「すみません」なシチュエーションが生まれます。「すみません」と言う言葉を習慣にすると、きっと「すみません」な人になってしまうのではないか? と考えました。じゃあ、どうしたらいいのでしょう?
ならば「優秀な先輩の口癖は?」と注意して先輩たちの電話に耳を傾けていた時に、ある大変な言葉を発見しました。今にしてみれば、自分にとっては世紀の大発見だったかもしれません。
「ありがとうございます」
「あ、そうなんですね、ありがとうございます」
優秀な先輩たちの口癖は「ありがとう」だったのでした。
その日から私も「すみません」を「ありがとう」に変えてみました。いきなりすべてを変えることは難しいものの、少しずつ、少しずつ変えていきました。すると不思議なことが起こり始めたのです。
目の前に現れるお客さま、出会うお客さまが変わったのです。
いや、いま振り返って正確に言うと、目の前の人、出会う人の、表情や態度が変わったということかもしれません。お客さまの笑顔が増え、クレームが減り、私の失敗も減り、何よりお客さまが満足そう。だから当然、私も仕事が楽しくなりはじめる。そんな好循環が起こりはじめました。
「すみません」には「すみません」なシチュエーションがあるように、「ありがとう」には「ありがとう」なシチュエーションが生まれます。
そして、「ありがとう」はすなわち「感謝」です。「感謝」のシチュエーションが生まれるのです。
さらにもう一つ「ありがとう」にもれなく付いてくる素敵なものがあります。
それは「笑顔」ですよね。「すみません」では暗い表情、「ありがとう」には温かな、安心感のある「笑顔」が付いてくる。
ですから、「ありがとう」の量を増やすと、まず自分の笑顔の量が増えます。お客さまから見て安心感も生まれます。そして「人間関係は鏡」です。「笑顔」には「笑顔」が集まります。
また、こうも思いました。今まで私が「すみません」ばかり言っていた時には、ひょっとしたらお客さまに感謝すべきことを見逃していたのかもしれない。「ありがとう」と言うべきことを、気づかず過ごしていたのかもしれない。
だからお客さまも嬉しくない。だからいい関係ができなかった。
なぜならいま、「ありがとう」と思えることが、こんなにたくさんあるのですから。私が「ありがとう」を増やす以前から、「ありがとう」と言うべきことがたくさんあったはずなのです。
「すみません」を「ありがとう」に言いかえる。実はたったそれだけで、私たちの人生には大変革が起こってしまうものなのです。
「失敗」なんて言葉は使わなくていい!
私は毎日、反省するような出来事ばかりです。
「なんであんなこと言ってしまったんだろう?」
「なんであの時、うまくできなかったんだろう?」
「なんであのひと言が言えなかったんだろう?」
そんな毎日の繰り返しです。失敗ばかりと言いますか、失態ばかりと言いますか、そんな人生を歩んできました。
かわいらしいものでは、少し前にフェイスブックのメッセンジャーで、
「土曜日だけど何食べる? 食べたいものある?」
と男友だちに送ったつもりが、まったく違う女性に送ってしまって慌てたことがありました。そんなのはごくごくささやかな話です。ずいぶんいろんなことをしでかしてきました。
とりわけ真剣に取り組んだことほど、うまくいかないことがたくさんあります。そりゃそうですね。自分でハードルを上げて取り組んでいるのですから、ハードルを蹴倒したり転んだりすることも多くなるはずです。
ただ、「失敗した!」「またダメだった!」と頭の中でつぶやいていると、だんだん自分が「できない子」になってしまいます。「何をやっても失敗する子」になってしまいます。これもまた自信がなくなりますから、よろしくない口癖です。
ですので、「失敗した!」を「成長した!」に言いかえるようにしました。
考えてみれば、私たちは失敗したり、ピンチにあったりするたびに、必ず成長してきています。もう二度とそんなことを起こさないようにするとか、もっとうまくできるようになるとか、慎重に取り組めるようになるとか。
もちろん、同じ失敗を二度、三度してしまうことだってありますが、それも含めて「成長」です。
すべての失敗はチャレンジの証し。たった一度の人生です。すべての失敗は自分の成長ですよね。だから実は「失敗」なんて言葉は使わなくていいはずです。
「ああ、また成長してしまった!」な毎日を。
その「疲れた~」が疲れを連れてくる!
私が会社員として働いていた時代で、一番しんどかった時代は? といえば、やはり三十代、四十代の頃だったように思います。
二十代の頃は若さと勢いまかせでなんとかなっていましたが、三十代となると責任も増える、部下ができる。それ自体、未体験なことです。お客さまの幅が広がればこれまた未体験なタイプのお客さまとの接点がたくさん生まれます。役職として経営側とも近くなるにつれて、期待されることも増えてくる。おまけに結婚などしてしまえば、これまた家族に対しての責任も生まれる。まさに未体験なことづくし。
それでも何ごともうまくいっていればいいのですが、小さなつまずきから調子が狂い、青息吐息な毎日になることもたくさんありました。
「うわあ、疲れたなあ」「もうぐったり…」
そんなセリフを何度も口にしていたように思います。そしてさらに、そんなセリフを多く口にするようになっている時に限って、大失敗、もしくは大失態、を起こしてしまいます。
「まじかよ…」
そして負のスパイラル、もしくは抜けるに抜けられないアリ地獄に足を踏み入れてしまいます。
「ア〜レ〜!」。ジタバタするほどに沈みゆく我が身。
こんな時にとても効果的な対処法を、のちに、ほめ達!(日本ほめる達人協会)でお世話になっている大手焼き鳥チェーン店のスタッフ総会でお聞きしました。これもまさに「言いかえ」です。
飲食業は今まさに、人手不足で大変なお仕事。それでも、この仕事を好きでやっているのであれば、大変な中にも、喜びや自分の成長を見つけたいもの。
「一日働いて、疲れた! と言葉にするのか、充実していた! と言葉にするのか。それによって感情が変わります。過去の事実は変えられませんが、過去の意味は変えられるのです!」
充実していた!
がんばった!
確かに今日一日に、どんな言葉を与えるかで、その一日の意味がまるっきり変わってしまいますね。
これは一日ばかりの話ではないですね。
「今までずっとつらい人生だった…」のか、「ずっとがんばり続けた人生だった!」のか。「努力したけれど報われなかった…」のか、「少なくとも努力した分、自分は成長した!」のか。
「過去と他人は変えられない」とは言いますが、過去の出来事で変えられないのはその事実だけ。
それがどんな意味を持つのか、どんな価値を持つのかは、実は、今の自分が決めることができるのですよね。
「疲れた…」「しんどかった…」と心のガスを抜くのも悪くはありませんが、「充実していた!」「がんばった!」「まーた成長しちゃった!」と言いかえた途端に、自分も自分の人生のヒーローやヒロインになれてしまいます。
自分のがんばりは、自分がその時々に精いっぱいになしえたこと。誰かと比べる必要もありません。
明日はきっと、もっと「がんばった!」自分がいるのでしょうから。
一般社団法人日本ほめる達人協会専務理事。国学院大学を卒業後、歌手さだまさし氏のマネージャーを経て、家業のガソリンスタンドを再建。45歳で外資最大手のAIU保険の代理店研修生に。そのコミュニケーション力で数々の成果をあげ、トップ営業、本社経営企画部のマネージャーとして社長賞を受賞するなど、まわりにムーブメントを起こす感動エピソードを生み出し続けた。組織を動かし、家庭まで元気にする達人として活躍中。

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