「眠りすぎ」も逆効果―がんを遠ざける理想の睡眠時間とは

日本では、年間100万人以上が新たにがんにかかると報告されています。「日本人の2人に1人が一生のうちにがんにかかる時代」だそうですが、もちろん当事者になるのは避けたいもの。今回は「睡眠」の観点から、がんにならない方法を佐藤典宏医師に伺いました。

寝不足だとメラトニンの抗がん作用が弱くなる

適切な睡眠時間は健康を維持し、病気を予防する上でとても重要であるという研究結果があります。もちろんこれは、がんにもあてはまります。

それによると、睡眠不足だけでなく、睡眠時間が長すぎてもがんのリスクを高めることがわかっています。

ある海外の研究では、平均的な睡眠時間(6〜9時間)の人と比べ、睡眠不足(6時間未満)の人は大腸がんのリスクが2・1倍となり、また睡眠時間が長い(9時間以上)人は3・8倍になるという結果でした。

また、女性を対象とした研究では、平均的な睡眠時間(7〜9時間)の人に比べ、睡眠時間が長い人は女性ホルモンと関連するがん(乳がん、子宮体がん、卵巣がん)の発症リスクが22%も増加していました。

肥満は乳がんのリスクを上げることはすでに述べましたが、肥満で、かつ睡眠時間が短い女性、あるいは、睡眠時間が長い女性は、ともに乳がんのリスクが高くなっていました。

そして睡眠が不規則な人も、がん、とくに乳がんなどの性ホルモン関連がんの発生リスクが高くなることがわかっています。実際に、夜勤者・交代制勤務者など、夜起きて仕事をしている人は、乳がんの罹患率が高まることが報告されています。

日本国内でも同様の研究結果が報告されています。

日本人女性を対象とした追跡研究では、睡眠時間6時間以下のグループは、7時間のグループに比べて、乳がんの発生リスクがおよそ60%高くなっていました。

なぜ睡眠時間の差によってがんのリスクが変わるのでしょうか?

はっきりとした理由はわかっていませんが、眠っている間に分泌されるメラトニンというホルモンが関わっている可能性があります。

メラトニンには抗がん作用があり、乳がんなどの「性ホルモン関連がん」の原因となる性ホルモンの分泌を抑制するといわれています。睡眠時間が足りないと、このメラトニンの分泌時間が短くなり、性ホルモン関連がんのリスクが高くなると考えられています。

一方で、長時間の睡眠は血液中の炎症性サイトカインと呼ばれる物質(インターロイキン1や腫瘍壊え死し因子など)が増える原因となり、これらの物質ががんの成長をうながす可能性が指摘されています。

さらに、長時間の睡眠はコルチゾールと呼ばれるホルモンの分泌量を高め、肥満のリスクを上昇させると考えられています。肥満は乳がんや大腸がんなど、複数のがんのリスクを高めることはお話したとおりです。

いずれにしても、睡眠不足および長時間の睡眠は、ともにがんのリスクを高める可能性があるのです。

では、どのくらいの睡眠時間が理想的なのでしょうか? がんに限らず、すべての死因による死亡率は、睡眠時間が約7時間(6・5〜7・4時間)の人が最も低いという研究結果があります(およそ10万人の日本人を15年近く追跡した研究より)。

人によって適切な睡眠時間は違いますが、7〜8時間を目安にしっかりと睡眠時間を確保することが重要です。

睡眠時無呼吸ががんのリスクを高める

また、「睡眠時無呼吸」ががんのリスクを高めることもわかっています。

睡眠時無呼吸症候群とは、無呼吸(10秒以上の気流停止)が1晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上ある状態のことです。

海外からの報告によると、睡眠時無呼吸がある人は、がん全体のリスクが26%高くなること、また臓器別では腎臓がん(2・24倍)、メラノーマ〈悪性黒色腫・皮膚がん〉(1・71倍)、乳がん(1・43倍)、および子宮体がん(2・80倍)のリスクが高くなることが示されています[81]。

実際には寝ている間の無呼吸状態に自分ではなかなか気づくことができないため、専門の検査を受けないとわかりません。

ただ、大きないびきをかく人、パートナーや家族に「睡眠中に呼吸が止まっていた」と指摘されたことがある人、昼間に急に眠くなることがある人(たとえば居眠り運転をしそうになったり、大事な会議中にうとうとしてしまう)、睡眠時間を十分にとっているはずなのに疲れが残っていると感じる人は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。

専門の医療機関(呼吸器内科)を受診して検査・治療を受けましょう。

 

 

seishun.jp

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PROFILE
佐藤典宏

医師・医学博士(産業医科大学第1外科講師、在宅サポートながさきクリニック非常勤医師)。1968年、福岡県生まれ。93年、九州大学医学部卒業。外科医として研修後、九州大 学大学院へ入学。2001年から米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部にてがんの分子生物学を研究。2006年より九州大学腫瘍制御学助手、12年より産業医科大学助教を経て現在にいたる。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会、日本消化器外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。16年に「がんをあきらめない人の情報ブログ」(https://satonorihiro.xyz/)を開設し、がんについての情報を発信。著書に『ガンとわかったら読む本』(マキノ出版)、『がんが治る人治らない人』(あさ出版)等がある。

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