なぜマッキンゼーでは「怒り」のコントロールが重要視されるのか

マッキンゼーで「怒り」コントロールが重視されるワケ

ビジネスに求められるスキルはいろいろあるが、そのベースとなる最も大切なものが「感情コントロール」の技術だ。マッキンゼーでは問題解決のスキルをそのまま感情コントロールに応用し、メンタルの安定に大きく貢献している。マッキンゼーをはじめとした外資系コンサルティングファームで活躍した大嶋祥誉氏に、そのエッセンスを解説してもらった。

「怒り」の裏には意外な感情が潜んでいる

人間関係に直接支障をきたす感情は、「怒り」「悲しみ」「憎しみ」や「恨み」といったネガティブな感情です。これらのネガティブな感情を、どうコントロールするかで、その人の対人関係も仕事も大きく変わってきます。

とくに「怒り」は、最も激しく相手を攻撃する感情です。よって、あらゆる感情の中で「怒り」をコントロールすることが一番重要です。怒りをコントロールできれば、他のたいていの感情のコントロールもできるからです。

同じ出来事に遭遇しても、それに対して怒りを覚える人と覚えない人がいます。たとえば、上司から「いつも遅くまで頑張っているね」と、声をかけられたとき、日頃から「この人は私を応援してくれている。私の味方だ」という思い込みを持っている場合、素直に「ありがとうございます」と言えます。

ところが相手に対して不信感を持っている場合、「残業ばかりして本当は仕事のできないやつと思っているに違いない」と素直に受け取ることができなかったりします。

人は、それぞれ置かれた状況や出来事に対して、自分特有の思い込みで認知するのです。つまり、人によって、同じ状況でも認知の仕方が異なってくるということです。ある人は褒められて喜ぶのに、ある人は嫌みを言われたと不快に感じる。これは思考の偏りであり、一種のバイアスからくるものです。

バイアスとは何かと言うと、簡単な例を挙げるなら、「これが裁判官の山田さんです」と写真を見せられたとします。写真には若い女性と貫禄のある中年男性が映っている。すると、ほとんどの人が、とっさに中年男性を山田さんだと考えます。

そこには、裁判官は貫禄のある男性だ、という先入観があるのです。じつは、裁判官の山田さんは若い女性かもしれません。このような先入観や偏見を、私たちは知らないうちにたくさん身にまとっているのです。

自分の怒りなどの感情が、このような先入観によって引き起こされているとしたら? 逆に言えば、先入観を正して、まっさらに受け止めることができれば、感情を乱すことは少なくなるはずです。

自分だけの〝ビリーフシステム〟が怒りを倍増させていた

バイアスで示したように、客観的に世の中を見ているようでも、ほとんどは自分の色眼鏡、主観的な思い込みや偏見の中で判断していることが多いものです。

バイアスと似ているものに、その人が幼い頃から身につけてきた「考え方」や「価値基準」があります。その中でも、とくにその人が頑なにこだわっているものを、「ビリーフシステム」と呼びます。このビリーフシステムによって、物事の善し悪しを判断し、それによって喜んだり、怒ったりという感情が生じてくるのです。

たとえば、子どもの頃、親に「嘘をついちゃいけません」「怠けたらいけません」と繰り返し言われて育った人がいるとします。

すると、その価値観に反した行動を取る人や出来事に対して怒りを覚え、拒絶したり、攻撃したりするようになります。

自分は親からさんざん注意され、それに応えるために、自分を抑えて必死で頑張ってきた。そういう真面目な人物ほど、「自分はこれだけやってきているのに、なぜ、あいつは……」と、他人に対して厳しくなるのです。

この他にも、たとえば「人間にとって大切なのは優しさである」とか、「お金のことをうるさく言うのは格好悪いことだ」とか、「男性が彼女とのデートで割り勘にするのは恥ずかしい」とか、人それぞれにビリーフシステムがあります。

親からの教育も含めて、それぞれの人が自分のこれまでの人生の中で、身につけてきた価値基準であり、考え方なのです。

ビリーフシステムは、一種の思考の偏りとも考えられます。そう考えると、ビリーフシステムはバイアスの一種であり、その一部であると言っていいかもしれません。

 

バイアスとビリーフシステム

感情の乱れの根源「バイアス」と「ビリーフシステム」

自分の中のビリーフシステムがどういうものなのか? できる限り認識しておくことが、感情コントロールの上で重要になります。自分のビリーフシステムを明らかにするには、自分のこだわりがどこにあるかを見極めることがポイントです。

すでにお話ししたように、ビリーフシステムは、親の教育や刷り込みによって形成されるケースが多いのです。ですから、あなたが親にどんな教育を受けたか? 親がとくに口を酸っぱくして教えていたことは何かを思い出すのもヒントになります。

よく、物事はかくあるべきだという〝べき〟思考をする人がいます。「社会人はこうあるべき」「男はかくあるべき」とか、「リーダーはこうでなければならない」……etc.

これもビリーフシステムの典型です。

自分の生き方の指針として、信条やこだわりを持つことは必要なことです。ただし、あまりにもその縛りがきつすぎて、自分の行動だけでなく、他者に対しても厳しくなってしまうのは、人間関係を狭めてしまうことになりかねません。

自分の心の中にある偏見、すなわちバイアスと、頑なに形成された「ビリーフシステム」を、認識することが大切です。

自分の「トリガーポイント」を知っておく

自分の心の偏りを知るためには、どんなことにこだわっているか? どんな言葉に反応するか? いわゆる「トリガーポイント」を知ることが、手っ取り早いでしょう。トリガーとは「引き金」という意味です。

たとえばある人は「約束を破ること」に対して、強い嫌悪感を感じるとしましょう。その背景には、幼い頃に両親に「約束を破ってはいけません」と、強く教育されてきたということがあるかもしれません。

こういう人は、自分が約束を破らないことを信条にしている分、他者が約束を破ると怒りや嫌悪といったネガティブな感情を抱きがちです。この人にとって「約束を破る」ということが、感情を沸き立たせる「トリガーポイント」ということになるのです。

チェックテストでトリガーポイントを知る

もうお気づきの方もいると思いますが、トリガーポイントとはビリーフシステムの裏返しなのです。自分がこれまで身につけてきた思考パターンや価値基準などが、そのままトリガーポイントになります。

もし、自分があらかじめその傾向を知っていたら、感情に走ってしまうことを未然に防ぐことができます。

下のビリーフシステム判別シートで、あらためて自分のトリガーポイント、心の偏りを調べてみましょう。シートの中のアンダーラインの部分に、自分が素直に感じていること、考えていることを書いてみてください。

すべて書き入れた上で、自分でもう一度その内容を読んでみましょう。「人間関係で大切なのは~~だ」「一番やってはいけないのは~~である」「一番恥ずかしいことは~~することだ」など、自分の信条や考え方が自ずと見えてくると思います。

自分のこだわり、気がつかなかった思考のクセも含めて、客観的に把握していることは、とても大事なことです。仕事でもプライベートでも、相手に対して何かしら感情が湧き起こったとき、「あ、なるほど、いま感じている感情は、自分のトリガーポイントに引っかかったからだな」と冷静に判断することができるようになります。それを知るだけでも、相手の言動に対して、感情的になることがグンと少なくなります。

自分自身を知ることが、感情コントロールのために必要不可欠だということが、これまでの話からお分かりいただけたと思います。

ビリーフシステム&トリガーポイント判別シート

 

PROFILE
大嶋祥誉

センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント。米国デューク大学Fuqua School of Business MBA取得。シカゴ大学大学院修了(MA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社や日系シンクタンクなどで経営、人材戦略へのコンサルティングに携わる。2002年に独立し、2000チーム以上のチームビルディング、組織変革コンサルティング、経営者や役員へのエグゼクティブコーチングを行う。また、世界のエグゼクティブが学ぶ「TM瞑想」を20年以上実践、TM瞑想インストラクターの資格も持ち、多くの経営者やビジネスパーソンに瞑想や感情コントロール、休息法を指導、彼らのパフォーマンスアップのサポートをしている。

マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術

マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術

  • 作者:大嶋 祥誉
  • 発売日: 2018/10/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)