これから来る「コロナ大恐慌」を生き抜く方策は歴史が教えてくれる

コロナで傾く世界

「コロナ禍」で低迷する世界経済。様々な業界が打撃を受け、経済危機も現実のものとなり始めています。しかし、かつて世界は何度も危機に直面し、切り抜けてきた歴史があります。5つのキーワードをもとにコロナ大恐慌を乗り越えるヒントを探っていきます。

経済危機の引き金の要因「5つのキーワード」

人類は過去に何度も経済危機を経験してきた。

経済危機の要因は大きく5つに分けることができる。「天災」「戦争」「税制」「通貨」「金融」の5つで、現実には単独ではなく、複合的要因に拠ることが多い。

古代中国では「天災」を人間の行いに対する懲罰あるいは警告とする考え方が儒学者により理論化までされたが、同様の考え方は大なり小なり世界中に存在した。

両者の因果関係はともかく、冷害や干ばつ、長雨、洪水、火山の噴火、虫害など自然災害は飢饉につながり、近代以前の社会では経済危機に直結する深刻な問題だった。

「フランス革命」や「ロシア革命」がそうであったように、食糧不足はふだん従順な人びとをも行動に駆り立てる。農村では食糧の緊急援助や免税などの救済措置が取られなければ、借金をするしかなく、それさえもできなくなれば、これまた実力行使に出るほかない。どちらにしても、行政が対応を誤れば、政権や国家が転覆する事態になりかねなかった。

感染症の流行は少し展開が異なり、感染防止のために地域封鎖を行えば、経済活動が止まって財政的に行き詰まる。流行が終息しても、労働人口が減少していれば生産性の低下が避けられず、農村人口が激減した地域では貧富の差がさらに広がるところもあれば、逆に待遇が改善されるところもあった。農民一人あたりの税負担を増やしすぎれば反乱を誘発しかねず、国家としても領主としても匙加減の難しいところだった。

次に「戦争」は勝敗に関係なく経済危機を招きかねない。長期戦になれば戦費も膨らみ、厭戦気分も漂い始める。負ければもちろんだが、痛み分けで終わったとしても士気の低下は避けられず、次の戦いに尾を引くこととなる。

逆に勝利で終え、領土の拡大に成功していたとしても、昨日までの敵が統治に当たるのだから、相当な敵意と反発を覚悟しておかねばならず、やたら暴力に頼るようでは敵愾心をあおるばかりで、統治に何のメリットもない。新たな占領地ほどデリケートな場所はなく、征服者が寛容と忍耐をもって接しなければ、戦闘での勝利は水の泡となり、経済破綻を免れないだろう。

「税制」「通貨」「金融」は相互に関係する。

税制は国家経済を支える柱で、国家の規模が大きくなればなるほど、中央集権を進めれば進めるほど支出が増えるために、単純な直接税だけでは足りなくなる。急な出費であれば臨時税で解決できるが、恒久的な増税を固定化させるのであれば、間接税を設けるのが無難だった。

それでも、度を越した増税は〝やぶへび〟で、負担に耐えかねた農民たちが蜂起すれば税収そのものが吹っ飛ぶため、かえって財政の負担を増やしてしまう。悪政を布いているとなれば、国家の権威にも傷がつくから、納税者に負担可能なのはどのあたりまでか、人の上に立つ者はそのことを常に把握しておく必要があった。

税制改定のときとは限らないが、徴税官の不正に絶えず目を光らせておくことも必要だった。法外な上乗せをする者が多かったからで、反乱が起きて初めて知るのでは遅すぎる。国庫の負担を軽減させる意味からも、反乱を誘発させかねない不正は事前に防止するのが一番だった。いざ軍を動かせば反乱の平定は容易でも、戦闘で田畑が荒らされれば、翌年の収穫に影響する。できれば軍を動かすことなく、解決させるのが一番だった。

どうしても増税が必要となっても、直接税の増額や数年先まで前払いさせるやり方は愚策中の愚策である。限度のない吊り上げ姿勢を見せれば、納税者の側も腹をくくり、死を覚悟の抵抗、つまり反乱に踏み切る恐れが出てくる。ひとたび反乱が起きれば、仮に迅速な対応で鎮圧できたとしても、違法な徴税をやめさせないことには問題の解決とはならず、反乱の再発は必至となろう。

納税は物納に始まり、やがてそれに代わるものとして通貨が生まれた。しかし、偽造を防止するには摩耗したものを定期的に回収して、鋳直さなければならず、それには充分な原料が必要とされた。

銅貨の不足を補うには金や銀の流通量を増やす必要があるが、こちらは銅貨以上に偽物が多く出回る可能性がある。信用を維持するにはいつでも兌換可能な体制を作っておかねばならず、それを怠れば、通貨の価値が下落して、経済危機を招く恐れが生じる。

紙幣もこれと同じで、乱発が過ぎれば紙幣価値が低落して、下手をすれば紙屑同然になりかねないので、経済政策には必ずお金に明るい人を登用しなければならない。金銭欲が強いだけの者は百害あって一利無し、経済官僚にしてはいけない。

世界を経済危機に陥れた「四大危機」

人類が経験してきた地球規模の経済危機は、少なくとも4つある。「17世紀の全般的危機」「1873年恐慌」「世界恐慌」「リーマン・ショック」がそれで、「17世紀の全般的危機」は洋の東西で多発した自然災害や戦争、革命などの総称である。

「17世紀の全般的危機」が顕著だったのは中国、ドイツ、フランス、イギリスの各地で、中国では自然災害が相次ぎ、反乱も頻発するなか、明王朝が反乱軍により滅ぼされ、北方の満州族が多民族を束ねる大帝国を築きあげた。

ドイツでは「三十年戦争」という長きにわたる戦火で人口が約3分の1に減少。寒い世紀だったため作物のできも悪く、これに感染症の流行が重なったことから、絶望的な状況下で集団ヒステリーが生じ、「魔女狩り」や「ユダヤ人狩り」が荒れ狂うこととなった。

フランスでも宗教戦争の余韻が残るなか、貴族らによる「フロンドの乱」が起こり、「太陽王」と称されたルイ14世は国庫を一切気に掛けることなく周辺諸国にしきりと戦争をしかけ、1685年にはプロテスタントの弾圧に乗り出す。それが天を怒らせたわけではなかろうが、1693年とその翌年、フランスは空前の大飢饉と大量死に見舞われた。

1873年のウィーンに始まる大不況は西ヨーロッパ全体に波及し、自由貿易への流れを一時的に止めてしまった。

不況から国民の目をそらすためか、列強各国は植民地獲得競争を再開させ、フランスは東南アジアと北アフリカの植民地化を露骨に進める。アフリカの争奪戦が激しくなると予想されたので、ドイツの宰相ビスマルクはベルリンで会議を主催し、戦火がヨーロッパに及ばぬよう、話し合いにより、あらかじめ各国の勢力範囲を決めてしまった。

1929年のアメリカ・ニューヨークの株価大暴落に始まる「世界恐慌」は第二次世界大戦の序曲となった。世界経済の破綻が極右の台頭を招き、失業と貧困に喘ぐ群衆が極右を支持。経済危機が狂気を招いた典型例である。

2008年に生じた「リーマン・ショック」はアメリカの低所得者向け住宅ローンの不良債権化に端を発し、世界経済を一気に減速させた。新興国BRICsも中国を除けば減速を免れず、社会主義国である中国が世界経済を支える不思議な現象がしばらく続いたが、その中国も不動産バブルが弾けた途端、低成長に陥り、世界経済は強力な牽引役不在の状況と化した。

新型コロナの流行と相まって、どの国が大きく抜け出すことになるか。アメリカか中国か、それとも伏兵がいるのか。結果がわかるまで10年、20年、あるいはそれ以上かかるであろうが、我々は歴史的に大きな転機に立ち会っているのかもしれない。

経済危機を乗り越える「4つの視点」

危機に対して、打つ手はないのか。

相手が経済なら「流通」「労働人口・生産性」「人材」「産業」が、乗り越える視点になる。

当たり前かもしれないが、経済危機を救うには「流通」を止めてはならない。物を大切にすることも大事だが、消費をしないことには税収は増えず、経済もまわらなくなるので、自給自足に憧れる人も、消費を控えるのは生活の一部に留め、浮いたお金は貯金するのではなく、何かに使ったほうがよい。お金が上手くまわれば、経済全体が活性化する。使い道がなければ、国際的な慈善団体などに寄付すればよかろう。

経済成長著しい国に共通するのは、中国やインドを見ればわかるように「労働人口」が多いこと。若年労働者の多いピラミッド型の年代構成が理想だが、人工的にそのような社会を築くには時間がかかるので、中高年層の厚い社会では「生産性」を高める工夫をしなければならない。

生産性の向上は「人材」を適材適所に配置するだけでも計ることができる。そのためには、年功序列の撤廃と労働時間・労働形態の柔軟化も必要で、会社全体、さらには日本社会全体の意識改革も求められる。必要な人材が内部におらず、育てることもできないのであれば、外部から招けばよく、そのために人員整理が必要となれば、私情を廃して不要な人間を切ればよいだけのこと。会社が営利団体ということを忘れてはならない。

ヘゲモニー国家となった国は必ず柱となる産業を有していた。ヘゲモニー国家とは、単なる覇権国家とは異なり、国際的な経済活動で主導権を握る国を指す。

例えば、オランダは海運、イギリスは多角貿易で栄え、アメリカはITや宇宙産業で立ち直った。主力産業があれば、それに従事する者もおのずと増え、経済もまわる。利益を増やしながら雇用機会も増やせるのは理想的な展開である。

世界が経験してきた「四大危機」のなかで、現在のコロナ禍にもっとも近いのは、1873年発の大不況だろうか。「17世紀の全般的危機」とは質も量も異なり、経済的な損失は「リーマン・ショック」を超えるが、「世界恐慌」のときほどではないと考える。広範囲の経済を数年から十数年の範囲で減速させたという点で、現在のコロナ禍と共通するのではないか。

経済危機の乗り越え方に絶対の正解はないが、危機の時代であればこそ、我々は大きな儲け話や政治的な扇動に乗せられることなく、自分の頭で冷静に考える習慣を根付かせなければならない。

 

PROFILE
島崎晋

1963年、東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務を経て、出版社で歴史雑誌の編集に携わる。現在は作家として、歴史・神話・宗教など、幅広い分野で活躍している。主な著書に『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』『ホモ・サピエンスが日本人になるまでの5つの選択』(青春出版社)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる──争奪と興亡の2000年史』(ウェッジ)などがある。

世界は「経済危機」をどう乗り越えたか (青春文庫)

世界は「経済危機」をどう乗り越えたか (青春文庫)

  • 作者:島崎 晋
  • 発売日: 2020/10/10
  • メディア: 文庫