「他人を気にして、言いたいことが言えない」という悩みの正体

人間関係をうまくやっていくためには多少の気づかいも大切。けれど、気を使いすぎて自分の気持ちを押し殺すようになってしまったら、本当の自分の気持ちすらわからなくなってしまうかもしれません。「本来の自分」を生きていくためにはどうしたらいいのでしょうか? 心的外傷治療を行っている心の専門家である大嶋信頼さんが、より自由に楽しく自己主張するヒントを教えてくれました。

人間関係のしがらみのなかで

私たちは日々、「相手に気を使う」ということを、自然におこなっています。

他人の気持ちを推し量ることを意味する「忖度」という言葉が流行ったことからもわかるように、私たちは他人からどう見られるか、どう思われるか、もし何か言ったりしたらどういう反応があるかを、過剰なほど気にしてしまっているのです。

うまく気を使えないでいると、周りから「あいつ、KYだよね(空気が読めない)」と言われそうな気がして、余計に気を使います。そのせいで自分の本音に反し、「言いたいことが言えない」と悩む人は多いようです。

実際、私も周りの方から「仕事で言いたいことが言えない」という相談をされることは多いです。

ある男性は、会社で上司と部下の板ばさみになっていました。

ある日、上司から「部下を地方のヘルプに出してくれ」と言われ、「えー? うちの部署は人手不足なのに」と思いながらも、「あ、はい……」と答えてしまいます。

心のなかでは「なんで部の状況を把握していないんだ!」とか「会社の都合で振り回していると、部下がみんな辞めちゃうぞ!」と考えている。もし上司にはっきり意見したら、部下から「自分たちのために戦ってくれた」と賞賛されるだろう。

でも、上司を怒らせたらめんどうなことになるのもわかる。だから「この人に何を言っても無駄か」と思ってしまいます。

そして、部下たちにも「誰かが地方のヘルプに行かないといけなくなった」と言えなくなる。もし伝えたら、部下から「今は人手が足りません。なんで断ってくれなかったんですか?」と言われそうだから。

自分がどんなに大変な立場かを部下は理解してくれず、「言うべきことをはっきり言えない人」と思われるだろう。説明するのも、批判されたり冷たい目で見られたりするのも怖くて、部下に「言えない」となります。

そして、上司から「あの件はどうしたんだ?」と聞かれ、「あ、はい……」と曖昧な答え方をして、「おい! まだなのか!」と怒られてしまう。「こっちだって、普段の仕事が山積みになったうえに、反抗的な部下を抱えて大変なんだぞ!」と言いたい。

けれど、もし言ったら上司から「お前にはその役職は向いていない」と言われるのがわかる。だから、ますます「言えない」となってしまいます。

そして、上司から「おい! 今夜の食事会のセッティングは大丈夫だよな?」と聞かれ、「あ、しまった!」と顔が青ざめてくる。

食事会はそつなくセッティングできていたが、パートナーに「今日は飲みに行ってくる」と伝えていなかった。もし言ったら、パートナーが不機嫌になって「なんでそんなにいつも飲みに行く必要があるの?」とか「家族と飲み会、どっちが大切なの?」と責められることがわかっているから。

食事会は1か月前に決まっていたのに当日伝えることになり、パートナーから電話口で「なんでもっと早く言わないの!」と怒鳴りまくられる。

心のなかでは「これが嫌だから言えなかったんだ」と思っているけれど、もし言ったら、さらに怒りが収まらなくなる。電話を切れず「ごめん」を繰り返すことしかできなくなる。自分は本当に言いたいことがその場で言えなくて、ダメだな」と苦しくなってしまうんです。

上司の気持ち、会社の事情、部下たちの思いがわかるから、言えない。このままだと状況がどんどん悪化するのもわかる。でも、八方美人だから、いつまでたっても言えない。周りの反応が最悪なものになると予測できるから、ますます言えない。こうして悪夢が現実になってしまいます。

こういう方が、インターネットのSNSやLINEなどでコミュニケーションをとると、周りの反応を気にしてしまい「相手の気分を害したくないから、本音が言えない」となります。会社や家庭内で起こったことが、ネットワーク上でも再現されてしまうのです。

相手の気持ちを考え、望みどおりの返事をしてしまうと、どんどん人生のつじつまが合わなくなる。結局、期待を裏切るようなことをして嫌われてしまう。挽回したくて、さらに余計な気を使ったりすると、今度は別の人との関係でつじつまが合わなくなる。

……という感じで、大変なことになってしまいます。

「言いたいことが言えない」と悩んでいる方は、他人にばかり気を使って、自分の人生が生きられなくなっていると、なんとなく自分でわかっています。

言いたいことを言える人は美味しい人生を歩んでいるのに、自分はちっとも思いどおりに生きられない。いつも流されるまま。余計な気を使って、自分の能力も活かせず、周りの人に搾取されているような感覚で、惨めな生き方になってしまう人もいます。

さらに、いろんな人に気を使うことで、本当に大切な相手への気遣いができなくなり、いつのまにか孤独になってしまうこともあるんです。

「言いたいことが言えない」という悩みの正体

自分の言いたいことが言えないのは、どうしてでしょう?

多くの人は、自己分析をして「自分が優柔不断なせいだ」とか「八方美人だから」などの理由をつけます。

「相手を傷つけたり、嫌われたりするのが怖いから」、さらには「自分は偽善者だから」という解釈までしている人もいるかもしれません。また、「自分は気が弱くて相手に怒られると、ものすごく怖いから」という人もいます。

とにかく、自分の弱さ、愚かさ、未熟さ、お人好しゆえに、本音が言えず「自分はちっとも成長していない」という感覚があるのかもしれません。

でも、本当に、そうなのでしょうか?

「言いたいことが言えない」と悩んでいるとき、自分の予測とは別のところに“実際の本音”が隠れているケースだってあるんです。

たとえば、「上司や部下に言いたいことが言えない」という中堅社員さん。この方は、「横暴な上司が嫌いだ」というのが自分の本音だと思っています。もし、正直に「横暴だ」「嫌いだ」などと発言したら、上司を軽蔑しているとバレてしまう。だから「言えない」と思っているわけです。

ところが、実際は、ちょっと違っています。

「横暴だ」「嫌いだ」というのは、部下から上司の悪口を聞かされて「(部下たちが上司を)嫌っている」のを、いつのまにか「(自分が上司を)嫌っている」と思い込んでしまっただけ。

中堅社員さんは、「どうでもいい」というのが“実際の本音”で、上司のことなんて好きでも嫌いでもなく、当初はまったく興味がなかった。だから「この部署の現状を伝えてあげよう、部下に好かれる上司にしてあげよう」などと思わない。そのせいで「言わない」だけだった―― 。という現実が隠れていたんです。

それを知ったご本人は「たしかに、部下の話を聞いているうちに巻き込まれただけで、自分はなんとも思っていなかった!」と自覚したようでした。

では、部下たちに「地方へのヘルプの知らせ」を伝えられなかったのは、どうしてでしょう? ご本人は「部下の反応が怖いから言えなかった」と信じて疑っていません。だって、いつも部下たちは上司の文句を言っているわけですから。

でも、探っていくうちに「部下だけで対処してほしいから」という理由が見えてきました。「え? そんなことを自分は考えていたんだ!」とびっくりします。

「いい人に見られたい。だから怖くて、部下を守れなかったことを伝えられない」と思い込んでいたのに、意外なところから〝実際の本音〟が出てきて「なるほど!」となるわけです。

自分がいつも上司と部下の間に入っていたら、状況が変わらない。だから、部下たちに「自分たちで勝手に対処したら?」という意図で「言わない」ということをしていた 。これが“実際の本音”でした。

だったら、パートナーに飲み会のことを事前に伝えなかったのはどうして?

ここに隠れている“実際の本音”も知りたくなります。ご本人は「ただ、パートナーに伝えたらキレられる。それが怖いから言わない」と自分のビビり(臆病者であること)が原因だ、ほかに理由はない、と思い込んでいます。

でも、探ってみると「パートナーと適切な距離をあけたい。だから言わない」という“実際の本音”が出てきました。想定外のことだったので驚きます。

仮に、パートナーの思いどおりになるとしたら、どんどん距離が近づきすぎて、お互いの関係が苦しくなる。一方、「思いどおりにならない」とパートナーに怒ってもらえたら、適度な距離があけられる。そして、ふたりの関係が長く続いていく。

自分はいつもパートナーに気を使っていて、自分の時間がない。それを「(飲み会の予定を事前に)言わない」ことで解消していた―― 。そういう意外な現実が見えてきました。

ご本人は「たしかに、以前はパートナーとの関係に息苦しさを感じていた。でも今は、適度な距離感で、自由に自分の時間を使えている気がする」と言いました。

“実際の本音”というのが面白くなってきます。

ご本人が「これこそが自分の本音だ」と思っていることって、意外と「世間の常識」とか「他人の意見」に影響されていることがあります。

周りから「横暴な上司は嫌い」「部下から嫌われるのが怖い」などと聞いていると、「自分もそうなのかもしれない」と思ってしまう、というのがそれです。

そして「パートナーを不快にさせてはいけない」「大切な人を怒らせてはいけない」という「世間の常識」によって“実際の本音”が歪められてしまいます。

“実際の本音”はもっと深いところにあるのに、他人の意見や常識によって、別の自分が勝手に作り上げられて「自分は本音が言えないダメな人間」となってしまう。

言いたいことが言えないのは「精神的に成熟していないから」ではなく、「〝実際の本音〟が歪められ、見えなくなっているから」という可能性があるんです。

だからこそ「自分の思っている(だろう)ことが言葉に出てこない」という可能性だってあるんです。

 

PROFILE
大嶋信頼

心理カウンセラー。株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。周愛利田クリニック、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室室長、株式会社アイエフエフ代表取締役を経て、心的外傷治療に新たな可能性を感じ、インサイト・カウンセリングを立ち上げる。カウンセリング歴26年、臨床経験のべ9万件以上。『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)ほか著書多数、累計50万部超。最新刊『本当の私よ こんにちは』では、大嶋メソッドの真髄といえるFAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)のおもな技法と実例を、一般書としては初めて公開した。