新宿溝口クリニック院長
ビタミンCが免疫細胞の攻撃力を高める!
前回の記事で紹介した通り、私たちの体に備わる免疫力は、お城の警備にたとえることができます。「お城(=人体)」を薬やワクチンとは異なる方法で守り、敵を攻撃する免疫の働きを助けるのが、「栄養」です。
お城のたとえで説明した通り、敵がお堀を渡ってお城の近くにたどり着いても、簡単に城壁(=粘膜)を登れないようにするためには、頑丈な城壁をつくる必要があります。
では、具体的にどんな栄養素がかかわっているのでしょうか。
免疫細胞の攻撃力を高めるためにも、栄養素は欠かせません。
ウイルスや細菌が体内に侵入してきたとき、好中球や樹状細胞、マクロファージ、T細胞などのリンパ球、そしてNK細胞などは、それぞれの役割に応じて感染部位に集結します。感染を防ぐためにはスピードが勝負です。
ここで必要になるのが「ビタミンC」です。ビタミンCが足りないと、免疫細胞たちが感染部位に集結するのが遅れてしまいます。
また自然免疫においては、ビタミンCが好中球、マクロファージ、リンパ球を刺激して、現場に駆けつけるスピードをアップさせるだけでなく、攻撃力を増す働きもあります。
例えば、喉や鼻にウイルスがついたら、そこに一気に好中球やマクロファージ、リンパ球が集まって戦い、体内に侵入したり、全身に広まったりするのを防いでくれるのです。
さらに好中球やマクロファージは、積極的に病原菌を自分のなかに取り込んでしまいます。好中球やマクロファージが、自分の細胞膜を犠牲にして、まるで風船のように敵を取り込んで閉じ込めるようなイメージです。この細胞が異物を食べる作業のことを、エンドサイトーシスといいます。
そのとき、取り込んだ風船のなかにさまざまな抗菌たんぱくが分泌されますが、抗菌たんぱくだけでは殺せないため、非常に活性の強いヒドロキシラジカルという強力な活性酸素を出します。ちなみに、活性酸素を出すのには鉄が必要です。
ここで、取り込んだ細菌やウイルスの量にぴったりのヒドロキシラジカルを出せればいいのですが、たいていはうまくいかず、ヒドロキシラジカルを出しすぎてしまいます。
そのつくりすぎたヒドロキシラジカルを消すのも、ビタミンCの役割です。つまり、ビタミンCは免疫の暴走も止めてくれるのです。
冬場の風邪は「日照時間」が関係していた!?
もう1つ、感染症予防に欠かせない栄養素が「ビタミンD」です。
ビタミンDと免疫力の関係はさまざまなところで語られるようになってきました。
前項で病原菌を殺すために風船のなかに抗菌たんぱくを出すという話をしましたが、抗菌たんぱくを出すために必要なのがビタミンDなのです。
ビタミンDが足りないと、せっかく取り込んだウイルスや細菌を殺しきることができません。ということは、感染が成立してしまうということです。
近年では、冬場に風邪をひくことが多いのは、寒さや乾燥のほかに、ビタミンD不足も一因だといわれるようになりました。ビタミンDは紫外線によって皮膚でつくられます。冬場は日照時間が減るために、ビタミンDの量が減り、風邪をひきやすくなるのです。
実際に海外の報告で、ビタミンDの血中濃度の変化を月ごとに調べたものがあります。それによると、7、8、9、10月はビタミンDの血中濃度が高く、12、1、2、3月は低かったのです。ビタミンDの血中濃度が低ければ、それだけ抗菌たんぱくもつくられにくくなり、感染症にかかりやすくなるというわけです。
新型コロナウイルスでも、国によって感染率や死亡率が大きく違いましたが、それには日光浴の習慣や、ビタミンDのサプリメントを摂取する習慣がどれくらいあるかが関係しているのだと考える研究者もいます。
ビタミンDは血中濃度で全身のビタミンDの量の過不足がわかる、珍しい栄養素なのですが、先日発表された論文では、新型コロナウイルスが重症化して亡くなっていく人たちは、ビタミンDの血中濃度が低いことがわかったそうです。
一方で重症化しない人たちは、ビタミンDの血中濃度が保たれていました。
今後、もっと研究が進めば、ビタミンDの過不足と新型コロナウイルスの関係もさらに明らかになるかもしれません。
インフルエンザを防ぐビタミンDの可能性
「インフルエンザとビタミンDの関係を調べた、長期にわたる実験もあります。
閉経後のアフリカ系アメリカ人女性208名を対象に、2つのグループに分け、一方はビタミンDの錠剤を毎日800IU(1IU=0・025マイクログラム)ずつ服用し、もう一方はそっくりな形のプラセボ薬(糖分などでつくられた効き目のない偽薬)を服用しました。
その結果、プラセボのグループは、相変わらず季節性の風邪をひきましたが、ビタミンDを投与したグループは、風邪の諸症状を訴える人が3分の1に減少し、風邪をひいても季節性の変動が見られなくなりました。
2年間の実験のうち、最後の1年間はビタミンDを投与する量を2000IUに増やしたところ、ついには誰1人、風邪の諸症状を訴える人がいなくなったそうです。
これはおそらく、季節を問わず1年中体内で抗菌たんぱくがつくられるようになったからではないかと思われます。
また東京慈恵会医科大学教授・分子疫学研究室室長の浦島充佳(みつよし)氏の研究では、ビタミンDにインフルエンザの予防効果があることが立証されています。
ビタミンDのサプリメントを4カ月内服した小中学生たちは、内服していない小中学生に比べてインフルエンザの発症率が半分程度まで抑えられるという研究結果でした。
ビタミンDは抗ウイルス作用を持つインターフェロンの分泌を促進し、ウイルスの消失率を高めること、抗菌たんぱく(抗菌ペプチド)の分泌を促進し、結核の排菌期間を短縮したことなども発表されました。
なお、ビタミンDを活性化させるためには、鉄も不可欠であることがわかっています。ビタミンDは、活性していない形で血液中に存在しています。それが細胞内に入ると、ビタミンDレセプターという受容体にくっつきます。
そしてある反応を受けて、活性型のビタミンDに変わります。その反応にかかわっているのが、チトクローム酵素という鉄を含んだ酵素なのです。
私たちが感染症に感染したとき、獲得免疫を得ることはできるでしょう。しかし、何回感染しても、生まれながらに持つ自然免疫の力を上げることはできません。
自然免疫力を上げるには、ビタミンCやビタミンD、鉄をとるなど、栄養素を味方につけることです。オーソモレキュラー栄養療法がウイルスに強い理由は、そこにあります。
抗菌作用が期待できる話題の栄養素
あらゆる栄養素を使っても、なかなか敵の攻撃を防ぎきれず、つらい症状が出てしまうことがあります。そんなときには、「特殊な武器」として、抗菌作用のあるものを取り入れるのも1つの方法です。いくつか紹介しましょう。
【オリーブ葉エキス(オーレユーロペン)】
抗菌作用のある成分として、最近注目を浴びているのがオリーブ葉エキス(オーレユーロペン)です。
地中海沿岸でのオリーブ葉の歴史は古く、オリーブ葉エキスやお茶を風邪や膀胱(ぼうこう)炎、発熱のときなどに使ったり、オリーブの葉を直接、発疹(ほっしん)やイボなどに湿布したりしてきました。
1808年、スペインとフランスの戦争のなかで、両国ともに高熱の疫病が流行しました。そのとき、軍医がオリーブ葉エキスを用いることでスペイン兵が改善し、フランス軍に勝利したのです。
これを機にフランスで研究がおこなわれるようになり、オリーブ葉の苦味成分に何らかの作用があるとわかりました。
その後の研究で、その有効成分がオリーブ葉に含まれるポリフェノールの一種、オーレユーロペンであることもわかったのです。
オーレユーロペンは、ウイルスを不活化させる作用があります。また、水虫も治すことから、抗真菌作用も強いことがわかっています。
私たちが病院で処方される抗菌薬は、強い薬であるだけに副作用も気になるところです。ところがオーレユーロペンには副作用がなく、人の細胞にはダメージを与えない安全な植物性の抗生物質なのです。ですから、妊娠中の女性や高齢者、子どもにも安心して使用できます。
また、ヨーグルトをつくる過程でオリーブ葉エキスを混ぜた実験では、問題なくヨーグルトが生成されたことから、乳酸菌を殺さない、つまり腸内の善玉菌には影響がない可能性が高いといわれています。
インフルエンザにも効果があることがわかっていて、私のクリニックではインフルエンザの季節になると、オリーブ葉エキスのサプリメントをよく処方しています。
ちなみにハンガリーでは、オリーブ葉エキスは感染症に対する標準的治療として国の健保プログラムのなかに採用されているほど、広く使われているそうです。
【エキナセア】
エキナセアも、オリーブ葉エキスと同様、伝統的に風邪やインフルエンザの治療に使用されてきました。抗インフルエンザ薬「タミフル」と同等の効果を有するとした臨床研究結果も発表されています。
北米原産の多年草で、古くからアメリカの先住民が万能薬として用いていました。現在では、ヨーロッパなどでも広く感染症の予防や治療で用いられています。
【オレガノ】
イタリア料理などでハーブとして使われているので、知っている人も多いでしょう。オレガノから抽出されたオレガノオイルに強い抗菌、抗ウイルス、抗真菌作用があります。
クリニックでもカンジダ(真菌が原因)や、先述したSIBOなどのお腹のトラブル、過敏性腸症候群などにもサプリメントとして処方することがあります。
【カテキン(緑茶)】
経口摂取することで高い効果を期待できるのがカテキンです。緑茶に多く含まれるポリフェノールで、お茶の苦味成分でもあり、抗ウイルス作用や強い抗酸化作用があることがわかっています。
例えば抗菌薬は、細菌の細胞のなかの核まで殺してしまいます。これで殺菌されて一件落着、としたいところですが、生き残った細菌は、「今度はもっと強い子孫を残してやろう」と学習して、耐性菌をつくってしまうのです。
一方でカテキンは、細菌の細胞膜を壊していきます。ですから細菌のほうは、「殺された!」というよりも「死ぬ時期が来たんだな」と察知して、より強い子孫を残さないで穏やかに滅んでいきます。これをアポトーシス(自然死)といいます。
ここでのポイントは、カテキンの摂取によって耐性菌がつくられないということです。
ウイルスにも同じように作用します。カテキンは、どの形のウイルスであってもその(突起物などの)特徴を壊して細胞内に入れさせません。ウイルスは細胞内に入ることで増殖しますから、ウイルスは増殖することができなくなり、感染症を発症させない、という特徴があります。
そこで、日本における人口10万人当たりの新型コロナウイルスの患者数と、緑茶の消費量との関係を調べてみました。
2018年の緑茶の消費量の第1位は静岡県、第2位は三重県、第3位は鹿児島県でした。そして2020年4月17日時点での、人口10万人当たりの新型コロナウイルスの都道府県別の感染数を見ると、静岡県が41位、三重県が37位、鹿児島県が45位と、とても少なかったのです。
とくに静岡県は、初期に患者数が増えた愛知県と患者数が多かった神奈川県に挟まれ、都市人口も多いため、感染リスクが高い県といえます。それでも静岡県の人口10万人当たりの新型コロナウイルスの患者数が、4月の時点で47都道府県中41位であったことは、カテキンが関係している可能性が高いといえるのではないでしょうか。
このように、さまざまな栄養素が働くことで、私たちの体は守られています。栄養を味方につけて、免疫力を高めていきましょう。
1964年神奈川県生まれ。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニックを開設。オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)療法に基づくアプローチで、精神疾患のほか多くの疾患の治療にあたるとともに、患者や医師向けの講演会もおこなっている。