できるリーダーは「I」より「We」を使う―マッキンゼーのチーム術

マッキンゼー流っチームマネジメント

ビジネスに求められるスキルはいろいろあるが、そのベースとなる最も大切なものが「感情コントロール」の技術だ。マッキンゼーでは問題解決のスキルをそのまま感情コントロールに応用し、メンタルの安定に大きく貢献している。マッキンゼーをはじめとした外資系コンサルティングファームで活躍した大嶋祥誉氏に、そのエッセンスを解説してもらった。

チームを変える最強のスキル「感情コントロール」

個人の感情コントロールと共に、組織として、チームとしての感情コントロールの技術も必要になります。そこで組織のモチベーションを上げ、前向きでありながら冷静で、感情的にならない組織の感情コントロールの技術のポイントを見ていきたいと思います。

まずチームで仕事を進める際に発生するのが、上司から部下へのデリゲーション(委任)です。仕事の頼み方一つで仕事の成果も、部下やスタッフの感情コントロールの成否も決まってしまいます。

仕事を依頼する際に不可欠なのが依頼する理由、依頼する仕事のゴール(完成形)や具体的な成果物、期限、使えるソース(人的、金銭的、情報的な資源)、進捗状況報告といったルールなどをしっかり伝えることです。

これがあいまいだと部下やメンバーは混乱し、不安に陥ってしまいます。メンバーの感情は乱れ、結果として成果も上がりません。

なかでも、組織の感情を上手にコントロールするために最も大切なのが、仕事のゴールであり、成果物がどのようなものかをメンバーに伝え、共有することです。じつはこのゴールがあいまいなまま仕事を依頼する上司が意外に多いのです。

ゴールイメージが明確でないまま、メンバーに仕事をデリゲーションし、スタッフのアウトプットを見ながらイメージを固めていく人が時々います。

たとえば販促企画を出すようにと頼むのはいいのですが、消費者向けの企画なのか、販売チャネル向けの企画なのかはっきりせずに、「とりあえず10本ほど企画を出してよ」などと大雑把に依頼します。

部下はあいまいなまま、とりあえず消費者向けから販売チャネル向けまで幅広く企画を考える。とにかくたくさん出させておいて、だんだんゴールを絞り込んでいく。

部下としては最初から仕事のゴールをしっかり設定し、絞り込んでもらえれば負担はずっと軽くなります。成果物ができてから「やはりこれじゃなかった」と振り出しに戻す上司がいますが、これは最悪のパターンでしょう。

このようなリーダーのもとでは部下やスタッフは安心して仕事ができません。今やっている仕事も結局無駄になるのではないか? そういう不安の中で仕事に集中できず、感情的にも乱れてしまいます。当然、チームの雰囲気も悪くなっていくでしょう。

ゴールイメージ、成果物のイメージを明確にし、共有すること。その上で期限やソース、ルールをきっちり決めることで、部下やスタッフは感情的に安定して仕事に集中することが可能になります。

組織の感情コントロールで欠かせない「聞き分ける」技術

組織の感情コントロールで次に大事なのが、すでに触れた「傾聴力」です。相手の話を聞くこと。とくに組織においてはリーダーは部下やスタッフの話をよく聞く力が求められます。あの上司は話をよく聞いてくれるという意識が芽生えれば、それだけでチームの雰囲気はよくなるはずです。

部下やスタッフの話をよく聞く上司は部下の信頼を得られるだけでなく、彼らの性格、特性、能力、コンディションをより正確に把握することができます。それは組織マネジメントの有力な情報となり、的確な判断と対応、指示のための材料になるでしょう。

部下の話を聞く際に注意する点として、「事実と意見」「問題と感情」を分けることが重要になります。

「クライアントはA案ではなくB案を望んでいるようです」と部下が報告してきた場合、それが本当にクライアントが望んでいることなのか、それとも部下の見解なのかをしっかり確認する必要があります。

あるいは「先方の営業部のAさんは気難しくて近寄りがたい人ですね」と誰かが言ったとして、Aさんが本当に気難しい人で近寄りがたい人なのか、あるいはそう言っている本人の感情的な問題なのか、しっかり分けて考える必要があります。

スタッフによっては報告の内容を自ら「事実」と「意見」に分けて話す人、つねにそれを混同して話しがちな人がいると思います。その傾向を事前に知っておくことも大事。その意味でもふだんから相手の話をよく聞くことが求められます。

 

「We」を使ってチーム全体で問題を共有化する

組織やチームで新たな課題に取り組むときや、何か問題が起きたとき、どうすればいいかを考える際に大事なのが、「I」ではなく「We」を使うということです。

「私たちとしては、この先どういう方向で仕事を進めるべきだろうか?」

「今回、このようなミスが起きたけれど、私たちのチームとして、どう対処すべきだと思う?」

「私たち」「チームとして」というように主語を「We」にすることで、チームの感情も鼓舞され、チーム全体の問題意識として共有することができます。これはチーム意識を高め、目の前の問題を他人事ではなく、メンバー全員が「自分事」として受け止めるために必要なことでもあります。

同時に「We」を多用することで、先ほどの個人的なミスを、個人の問題ではなくチーム全体の問題として受け止める習慣をつけるのです。この思考が習慣化されれば、他のメンバーに責任を負わせたり、個人攻撃に走ったりする悪習もなくなるでしょう。

失敗やミスは誰かを批判する材料にするのか、あるいはチーム全体の教訓として学びの材料にするのかで、チームの雰囲気も能力も格段に差が開きます。前者は組織としての感情は非常に後ろ向きでネガティブであるのに対し、後者ではメンバー全員が前向きでポジティブ、アグレッシブな気持ちを持つことができるようになります。

 

「I」ではなく「We」を主語にする

 

このようになると、自然に組織の関係の質がより高次なものに変わっていきます。お互いが不信と競争の関係から、共感と信頼感、そして協力関係へと進化していくのです。

チームの関係の質が高くなると、思考の質が変わってきます。「失敗すると非難される」「誰かが成果を上げると自分の立場が危うくなる」というような後ろ向きの思考から、「こうすればより生産性が上がる」「みんなで協力し合って良い結果を出そう」という前向きで生産的な思考に変わっていくのです。

関係の質が変わり、思考の質が変われば当然、行動もアグレッシブなものに変わっていきます。どんどんチャレンジしていくようになるのです。すると成果の質も当然良くなっていく。成果が上がれば、達成感と成功体験から関係性がより良くなります。つまり、チームの感情をうまくコントロールすることが組織としての成功のカギとなるのです。

私はコンサルティングの際、このことをよく植物にたとえてお話しします。植物を育てるときに、目に見える葉の部分ばかりをケアしても、土の中にある根に水をあげなければ、大きく成長しません。優秀な庭師は、根に水を与えることにフォーカスします。チームビルディング(チームづくり)も同じで、目に見えない根の部分をしっかりケアすることがなにより重要。それが、感情コントロールによって関係の質を高めることなのです。

組織の成功循環モデル

「使命感=ミッション」こそチームマネジメントの基本

組織の感情コントロールにおいて、最後に最も大切なポイントを指摘しておきましょう。組織の感情を高め、良いものにするために必要なもの、それはズバリ「使命感」、すなわち「ミッション」です。

組織やチームが仕事をする上で、たんに自分たちの組織の利益を追求するというだけではなく、じつはそれがより高次の役割や使命を担っているという意識が大切です。

「自分たちの仕事によって地域社会に貢献する」とか、「私たちのサービスによって高齢者層の助けになる」とか、「この仕事が多くの人たちの教養を高めるために必要だ」というような社会的な意義づけ、意味づけが大きいのです。

人は社会的な動物であるがゆえに、自分の利益だけを追求しているうちは、決して自信も生まれず、喜びや安らかな感情を抱くことはできません。誰かの役に立っている、使命を帯びていると思えるからこそ仕事が喜びになり、楽しみや満足感、安心感を得ることができるのです。

組織やチームを引っ張っていく立場の人間は、自分たちの使命、ミッションがどういうものかを明確にメンバーに意識させることが必要です。たとえば、それらを書き出してオフィスの壁に貼っておく、毎日会議などでそれを唱えたりして、共通認識にしておく。

使命やミッションが明確でしっかりメンバーに浸透していることが、そのチームの関係の質や思考の質、行動や成果物の質を上げるために、重要なのです。

グーグルがたどり着いた最強のチーム力とは?

関係の質を高めることがチームの生産性を高める。これはグーグルのチームビルディングの実例を見ても明らかです。

実際にグーグルが生産性の高いチームを調べたところ、各分野のスペシャリストや有能な人間ばかりを集めても、必ずしも最強のチームにはならないこと、そして、生産性の高いチームが低いチームと比べて如実に違っていたのが関係の質の高さだった、というのです。

これはたんにチーム内が仲良しだということではありません。一緒に食事をするとか仕事以外の時間を共有するとか、そういうことではないのです。それぞれ個性や主張はバラバラでも、お互いが共通に目指している目標や価値観が一緒であること。そして、お互いがたとえ相性が良くなかったとしても、お互い尊重し、リスペクトし合える関係であること。こういうことが基本になっているのです。

自己肯定感という視点で言うならば、それぞれのメンバーが自己肯定感が高く、そのため自己に対する信頼があると同時に、他者も受け入れ、認めることができる関係と言っていいと思います。深いところでの信頼感で結びついている関係ですね。

そのような関係、組織の最大の特徴は何か? 少し難しい言葉になりますが「心理的安全性」が確保されているということなのです。

この組織では自分を素直に表現しても否定されず、受け入れてもらえる。本音を語っても足を引っ張られたりしない……。そんな安心感があるからこそ、自由に自分の意見を言い、能力を発揮できるのです。

このような関係性が確保できれば当然、精神的にも非常に良好な環境になります。人間関係のゴタゴタや仕事上での抑圧なども少なく、感情が乱れることも少なくなるでしょう。組織のエネルギーを浪費することもないので、当然パフォーマンスが上がり、生産性も上がるのです。

このように、組織の感情コントロールには、組織のマネジメント、チームビルディングが密接に関係していることが分かると思います。良いチームビルディングが個人と組織の感情コントロールを促す。それによって関係の質が上がり、チームがさらにうまくいく。このようなプラスのスパイラルになれば、個人も組織もその力をさらに発揮することができるのです。

 

PROFILE
大嶋祥誉

センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント。米国デューク大学Fuqua School of Business MBA取得。シカゴ大学大学院修了(MA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社や日系シンクタンクなどで経営、人材戦略へのコンサルティングに携わる。2002年に独立し、2000チーム以上のチームビルディング、組織変革コンサルティング、経営者や役員へのエグゼクティブコーチングを行う。また、世界のエグゼクティブが学ぶ「TM瞑想」を20年以上実践、TM瞑想インストラクターの資格も持ち、多くの経営者やビジネスパーソンに瞑想や感情コントロール、休息法を指導、彼らのパフォーマンスアップのサポートをしている。

マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術

マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術

  • 作者:大嶋 祥誉
  • 発売日: 2018/10/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)