1等宝くじが当たる確率は、数万年に1回だった!?
賞金数億円の宝くじを買ったことはありますか?
宝くじを買わない人の理由で一番多いのは「当たると思わないから」で59.3%。買う人は「賞金目当て」が61.9%。買わない理由と買う理由が、「当たらない」「当たる」という真逆の認識に分かれました。
おもしろいのが、買う理由の2番手が「宝くじには大きな夢があるから」の42.5%だったことです(いずれも2016年4月実施、日本宝くじ協会調査)。「夢を買う」のは「当たる」と思っていて買っているのか、それとも「結局、当たらない」と割り切って買っている、どちらなのでしょうか。
現実として、高額宝くじの1等の当選者はいるはずです。ただその当選する確率がものすごく低い。それを誰もが知っているので「当たらないから買わない」「夢として買う」という、いずれもほぼ「当たらない」を前提にする人が多いのです。
例えば1等7億円の年末ジャンボ宝くじは、当選確率が0.0000005%(1ユニットに1本、1ユニットは2000万枚とした場合)。つまり、500万分の1です。毎年100枚ずつ買うと、20万年に1回当たるという確率です。これでは確かに夢です。
そう考えれば「買わない」のも当然でしょうか。いや、確率が0じゃない、今回が20万年に1回かもしれないから超前向きに「買う」。こう判断する根拠も否定はできません。
サルが文豪になるのも、確率0じゃないから起こりうる?
確率は低いけれど、決してゼロではない。このような、「ない」といえない「ある」事柄をどう考えればいいのでしょうか。そうした思考訓練に取り上げられる次のような仮説があります。
「ランダムに文字列を作り続ければどんな文字列もいつかはできあがる」
この仮説は「サルがタイプライターの鍵盤を無限回、打ち続ければ、いつかはシェイクスピアの作品が完成する」という例で紹介されることが多いので「無限の猿定理」と呼ばれています。
手元にPCがあればキーボードを見てください。キーは全部で100個程度でしょうか。このキーボードを適当に打ち続けて、とりあえず題名の「hamlet(ハムレット)」が出現する確率を考えてみましょう。偶然「h」が打たれる確率は100分の1です。その次に「a」が打たれる確率も100分の1。「hamlet」の6文字が並ぶ確率は次の式のように計算します。
100分の1の6乗、つまり1兆分の1です。かなり小さい数ですが、ゼロではありません。
さあ、題名の次はいよいよ本文です。数万文字ありますが、計算方法は同じです。名作はサルによって、100分の1が数万乗した確率で再現されるのです。確率は限りなく低いけれど、決してゼロではない。つまり「ない」とはいえない「ある」です。
その確率は、ジャンケンのあいこが何回続く確率と同じ?
日常的な判断では、「無限の猿定理」くらい極端に低い確率なら、直感的に「ない」を選ぶ人が大半です。ジャンボ宝くじくらいの確率の低さだと、人によって判断が分かれます。その境目はどこなのか、どの程度の確率をどう判断するのか、その目安となる「ジャンケンであいこが続く確率」を紹介しましょう。
2人でジャンケンをして、あいこになる確率はおよそ33%です。そして2回目以降もあいこが連続する確率は次の通りです。
1回:33% 2回:11% 3回:3.6% 4回:1.2% 5回:0.4%
2回連続はほとんどの人が経験したことがあると思いますが、5回連続はどうでしょうか。0.4%ということは、1000回に4回という確率です。
確率についてはこう考えます。
「降水確率10%」のとき、あなたは傘を持って外出しますか? あいこが2回続くくらいの確率です。それなら実際に経験したことが「なくはない」ですね。または、「1%」といわれたら連続4回程度。そうなると「なくはないけど、ない」とあきらめられそうです。このように、確率の数字を自分の経験に置きかえて考えるとちょっと違った見え方ができるようになります。
ところで、あなたは自動車と接触する交通事故に遭ったことはありますか? 僕は内閣府の「交通安全白書」にある年間の道路交通事故の発生件数に着目しました。
交通事故発生件数 47万2165件 負傷者数 58万850人
これは警察庁が把握した「交通事故」の数です(2017年中の発生)。これは自分にとって人生のリスクとなり得るのでしょうか。
僕の計算では、人生80年とした場合、日本で自動車事故に遭う確率は27.4%となりました。つまり「あいこが2回続く(11%)」より高いのです。さて、あなた自身はこの後の人生で、どこまで交通事故をリスクと考えますか? ちなみに、僕はこれまでの人生で、すでに3回の交通事故に遭っています。
math channel代表、日本お笑い数学協会副会長。2012年、早稲田大学大学院修士課程単位取得(理学修士)。数学応用数理専攻。大学在学中から、数学の楽しさを世の中に伝えるために「数学のお兄さん」として活動を開始し、これまでに全国約200か所以上で講演やイベントを実施。2017年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催のサイエンスアゴラにおいてサイエンスアゴラ賞を受賞。著書に『笑う数学』(KADOKAWA)、『算数脳をつくる かずそろえ計算カードパズル』(幻冬舎)などがある。

- 作者:横山 明日希
- 発売日: 2020/09/12
- メディア: 新書