コロナ太りは当然の現象!? 東日本大震災後との驚くべき共通点

コロナ太り

自粛生活によって「コロナ太り」をしたという人も多いでしょう。じつは同じような現象が東日本大震災以降も起こりました。東日本大震災以降、福島で追跡調査を続ける医師の大平哲也先生が、「ウィズコロナ時代」に心も体も健康に過ごすためのヒントを教えてくれました。

東日本大震災から10年。追跡調査でわかった心と体への影響

「病は気から」とよくいわれます。実際にそのようなことがありそうだと思っている方は多いと思いますが、強いストレスがかかると心身に不調があらわれ、それが病気につながっていくということを、医師である私は目の当たりにしてきました。

それを特に強く感じたのが、2011年3月11日に発生した、東日本大震災です。

福島県立医科大学では、福島県から委託された「県民健康調査」を行っており、もうすぐ10年目を迎えます。

調査しているのは、福島第一原子力発電所の事故による放射線の直接的な影響ももちろんですが、心と体への影響も見ています。原発の影響というと、どうしても甲状腺検査などのほうが注目されがちですが、心やそれに伴う体への影響もまた重要なのです。

実際、この県民調査の結果から、うつなどの心の病気や、肥満や高血圧、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病全般が増えていることがわかりました。そしてそれは10年経った今でも続いています。

今なお続く、“震災ストレス”による健康被害

東日本大震災は宮城県、岩手県、福島県が大きな被災地域です。宮城県で震災で亡くなった方は1万人近くいらっしゃいます。岩手県が約5800人、福島県は約1600人となっています。

ところがその後、震災関連死が起こっています。

震災関連死とは、震災のストレスや、避難などによる生活環境の変化で持病が悪化するなどして亡くなる方たちのことをいいますが、この人数が、福島県は2304人いらっしゃいます。これは、宮城県の928人、岩手県の469人を大きく上回っています(2020年3月現在)。

なぜ、福島県の震災関連死が多いのか、宮城県と岩手県に対して、福島県の違いは何か――それは原発の事故による影響が考えられます。

福島県の住民、特に避難区域住民は、原発事故によって強制的に避難させられたということと、その原発の放射線に対する不安が強いという2つの面があります。それが体にも心にも影響を及ぼしたのです。

実際、震災後の住民の体の変化について、以下のようなものがありました。

【体の変化】

・肥満の増加

・高血圧の増加

・糖尿病の増加

・脂質異常症の増加

・肝機能異常の増加

福島県はもともと脳卒中が多く、塩分摂取量も多い県でしたが、私たちは震災前の健診と、震災後の健診のデータを比較してみました。

特に目立ったのが肥満の増加でした。避難者では平均で1.2㎏増え、どの年代でも体重が増えていました。また、女性よりも男性のほうに体重増加が多い傾向がありました。

肥満の割合はもともと32%と高めでしたが、震災後は7ポイント増えて39%になり、男性の場合、避難者では42.6%まで増えました。

肥満の推移

都道府県で見ていくと、福島県は女性は全国1位、男性は全国2位の肥満県になってしまいました。

肥満増加に伴って、生活習慣病も増加しています。

実は全国的には、肥満の割合はここ10年であまり変化がありません。ところが福島県では肥満が増え、それにつれて高血圧、糖尿病、脂質異常症、肝機能異常も増えているのです。

メタボリックシンドローム(腹囲が男性85㎝以上、女性90㎝以上に加え、高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上をあわせ持った状態のこと)の割合も、2009年は全国で15位でしたが、震災以後に増えていき、2015年にはワースト3位と増加してしまいました。

メタボリックシンドロームの割合

出典:特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚生労働省)

しかも注目すべきは、今現在も同じ状態が続いているということです。

新型コロナウイルスと東日本大震災の共通点

現在、世界的に大流行している新型コロナウイルス感染症の拡大。この状況は、東日本大震災と多くの共通点があります。

私たちが原発の影響を調査したところ、多くの人が不安を抱いていることがわかりました。その結果、うつなどの心の病気、肥満や高血圧、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が増加しています。

そして実は、私は今後同じことが今回の新型コロナウイルスの影響で起こってくるのではないかと危惧しています。

新型コロナウイルスで心配なのは、感染そのものによる影響ももちろんありますが、不安による心や体への影響や見えないストレスがあることです。

今後、福島と同様に、不安を伴う「感情」の影響で、うつや生活習慣病などの病気が増えていく可能性は否定できません。

また、新型コロナウイルスの影響により、運動不足になり、体重が増加した〝コロナ太り〟の人が増えたといわれています。これから先、肥満が増えれば、当然生活習慣病になる人も増えていくでしょう。

肥満の意外な原因は「野菜ジュース」

肥満は運動不足と食べすぎが関係しています。

福島県でも肥満者は圧倒的に男性のほうが多いのですが、なぜ女性は抑えられているかというと、家事をしているからです。家事で動き回ることで、普段の運動量はかなり保たれています。

一方、男性の場合は仕事を失うなど、ずっと家に閉じこもりがちになります。それがいちばんの肥満の要因でしょう。

今回の新型コロナウイルスでも同じ状況が見られます。感染予防のために、在宅ワークが増えて通勤が減ったり、買い物に出かける回数が減ったりしています。

男性の場合は仕事が運動量に直結しています。特に通勤がなくなることで、肥満につながりやすくなります。

では、福島県で肥満が増えたのには、運動不足以外の理由はあるのでしょうか。

もちろんストレスが高かったことなども理由の1つとしてありますが、なかでも福島県でよく見られたのが、市販の「野菜ジュース」「果物ジュース」を飲む人が増えたことでした。

同時に、震災後に避難をしている方が、生野菜をとらなくなったことが大きいと考えられます。

なぜかというと、通常、福島県の避難区域のように自宅でも野菜がとれるような地域では、生野菜はつくるものか、もらうことが多いものだからです。

でも、避難したらつくれませんし、もらうこともできません。では、スーパーに行って野菜を買うかというと、そのような習慣がほとんどありません。野菜はつくったりもらったりするものだから、わざわざお金を払って買うものではないという認識の方も多いのです。

では、お金を出して何を買うかというと、お惣菜を買うのです。

お惣菜は調理されて手間暇かけている分、お金を払う価値があるものになります。もちろん、健康を気にして野菜不足を補おうとする方もいらっしゃいます。そのため、野菜ジュースや果物ジュースを買う方はむしろ増えたということです。すると、どうしても体重が増える方向に行ってしまうのです。

さらに、私たちの調査では、ジュース類を飲む傾向が強い人ほど、震災後数年間で脂質異常になる割合が増えたことがわかりました。逆に、野菜類、大豆製品をとる傾向が強い人ほど、体重が減少し、脂質異常者の割合は低下していました。

また、今までは買い物にしろ、食事に出かけるにしろ、それほど便利な場所ではないところに住んでいた方が、避難してそれまでよりも便利なところに住むようになりました。 そうなると外食も増えてきます。

さらにいうと、仮設住宅など避難生活をしている場所は台所が狭いので、それまでよりは料理をする機会が減ってしまうこともあります。

こんな些細なことが関係するのかと思われるかもしれませんが、さまざまなことが積み重なって食生活が変化し、それが体にも影響を与えているのです。

「コロナ太り」を防ぐ2つのポイント

新型コロナウイルスの外出自粛生活では、「コロナ太り」という言葉も生まれました。 このような外に出ない生活は、震災時ととてもよく似ています。

先の県民健康調査で、福島県のメタボリックシンドロームの割合が増えたことを紹介しました。メタボになっている人は、避難をしている人だけなのかと思いきや、実は避難をしている以外の人も影響を受けています。

これを今回の新型コロナウイルスの自粛生活に当てはめると、よくわかります。

震災で避難をしている人=新型コロナウイルスの感染者の濃厚接触者と想定してみてください。濃厚接触者は、2週間の待機を命じられましたね。つまり「あなたは感染の可能性があるので、2週間、絶対に家から出ないでください」といわれた人は、避難した人に当てはまります。

一方、避難していない人は何かというと、それ以外の多くの人たち。つまり、新型コロナウイルスの濃厚接触者ではないけれども、感染しないように外に出ないように気をつけている人たちが当てはまります。

福島の原発事故後も同じ状況が起こりました。

では、ストレス肥満を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。ポイントは、

・感情を抑えつけるのではなく、行動を変えること

・運動量を増やすこと

の2つです。

当たり前のようですが、いちばん取り組みやすく、続きやすいのは、食べた分は運動で解消するということに尽きます。

食欲は本能なので、気持ちで抑えるのはなかなか難しいでしょう。

生活スタイルにもよりますが、改めて運動量を増やすのはなかなかハードルが高いので、日常生活で体を動かすようにしましょう。

通勤時や職場ではエレベーターを使わず階段を利用する、買い物に行くときは歩くか自転車で行く、掃除などの家事をこまめにおこなうなど、日常生活のなかでいかに身体活動量を増やすチャンスを組み込むかが重要です。

私のオフィスは7階にあるので、どこか出かけるときは必ず階段を使うようにしました。これで職場での歩数が1日7000歩くらいに増えました。加えて車をオフィスから離れた駐車場にとめること、ランチの際に歩くことを意識することを加えて、1日平均1万歩は達成できるようになりました。

これから在宅ワークが増えて通勤がなくなると、ますます運動量は減っていきます。通勤しない日は、代わりに「30分歩いて(散歩して)自分の自宅に出勤する」くらいのことをやらないと、難しいでしょう。

ジムに通ったり、複雑な運動をわざわざしたりするのではなく、生活習慣として活動量を増やすことが大切です。

おそらくコロナ太りは一時的なものではなく、しばらく続く可能性があります。

福島県のデータが示すように、一度肥満になってしまうと、その状態がほぼ定着してしまう可能性さえあります。大事なのはもちろん、放射線に被ばくしないことや新型コロナウイルスに感染しないことですが、そのなかでも食事や睡眠、運動といった心と体に影響する生活習慣については乱れないようにしないと、もとに戻れなくなってしまいます。

PROFILE
大平哲也

福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。同放射線医学県民健康管理センター健康調査支援部門長。大阪大学大学院医学系研究科招へい教授。日本笑い学会理事。 福島県いわき市生まれ。福島県立医科大学卒業。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員、大阪大学医学系研究科准教授などを経て現職。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。 循環器疾患をはじめとする生活習慣病、認知症などの身体・心理的リスクファクターの研究および心理的健康と生活習慣との関連について研究。運動や笑いなどを使ったストレス解消法の研究でも知られており、テレビや雑誌などでも活躍している。