認知症と間違えやられやすい「老人性うつ病」に要注意!

高齢者うつ

「心の老化」でとくに気をつけたいのが「うつ病」であり、「心の老い支度」をもっと大切にしてほしいと、長年、高齢者を診てきた精神科医の和田秀樹氏は言います。一見、認知症と見間違うような高齢者のうつ病は、見落としやすく、予防と早期対策が重要です。どんな点に注意していけばいいのか、さっそくみていきましょう。

ボケたように見える「老人性うつ病」の特徴

高齢で発症するうつ病は、精神的なストレスというより、内因性精神病として起こることが多いようです。やはり、年とともに神経伝達物質がある一定レベルより少なくなるためで、そうすると本人の自覚や原因なしに発症することがあるのです。

ある時期から「記憶力が悪くなった、これまではよく買い物をしたり、外出もしていたのにしなくなった、化粧もしなくなった、着替えさえしなくなった」というと、家族はまず認知症を疑います。

ところが、これが高齢者のうつ病の症状だったということがよくあります。高齢だと「もの忘れ」は当然増えます。すると、認知症と思われがちですが、うつ病によることが往々にしてあるわけです。

うつ病で記憶力が落ちる場合、新しくいわれたことなどを覚えていないので、これも認知症と非常に似ています。

統計上は、70代半ばまでは認知症よりうつ病のほうが多いのです。だれかにいわれたことを覚えていない、という症状をよく聞きますが、それは、その年代であれば認知症であるより、うつ病によって注意力・集中力が落ちていることが多いというわけです。

いわば、何かほかのことに気を取られているかのように「気もそぞろ」という状態で、ボケたように見えるのです。

高齢者のうつ病は一般的なうつ病とは症状が違います。それでも、うつ病になると「ものぐさ」になるという症状はよく出ますから、着替えをしない、外出をしない、風呂にも入らなくなるといった、はっきりとした変化が出るのです。

うつ病についてのグラフ

厚労省の患者調査では40代がピークにあるが、地域住民調査ではうつ病はむしろ高齢者に多いので、医者にかからないうつ病の高齢者が多いことがわかる

「ある日、ある時期、突然、認知症になる」ということはありません。逆にいうと、急に起こった場合は、うつ病のことが多く、「うつ病ならよくなる可能性がある」ということを意味します。

認知症になることを心配する人が多いのですが、50代で認知症になる確率は、1万人に8人で0.08%、60代でも2%弱でしかありません。一方、うつ病は高齢者の5%と推定されています。

60代までは、認知症になっている確率より、うつ病になっている確率のほうがはるかに高いのです。このことを知っていて「予防と対策」を考えるのと、そうでないのとでは、いざというときの対処、対応がまったく違ってきます。

毎日実践したい! うつ病の3大予防法

うつ病には、さまざまな治療法がありますが、ならないに越したことはありません。うつ病になってしまうと、抑うつ気分になって、貴重な人生の一時期を無駄にしかねません。 うつ病は突然、発症することが多いですし、本人が気づく前に深刻な症状になっていることもありますから、予防が大切です。

うつ病を予防する方法には、3つの方法をお勧めしています。これらは認知療法、薬物療法、光療法などのうつ病の治療法から応用した、シンプルな方法です。

1.考え方のパターンを変える(思考を変える)

2.食事のバランスを考える(食生活を変える)

3.外出して光に当たる(太陽光を浴びる)

1.考え方のパターンを変える

だれにでも、思考のパターンというものがあります。

うつ病の人が陥りがちな、「悪循環を生む考え方のパターン」もあります。

よくあるのが「成功か失敗か」の「2項対立」でのものの考え方だと、「失敗したら、すべてが終わり」という結論にたどり着きやすいものです。

ここで、「失敗したら、またチャレンジすればいい」と考える思考パターンができれば、何ごとも楽になります。

また、「失敗してもいい」という考えだと、「何でもやってみよう」という姿勢になります。そこから積極性が生まれます。「ダメでもともと、やってみなければ何ごともわからない」と気楽になり、しかも積極的になれば、うつ病にはなりにくいでしょう。

とはいっても、「思考のパターンを変える」ということは、高校生や大学生ならいざ知らず、50〜70代のおとなが、おいそれとできるものではありません。

でも、だからこそ、「思考パターンを変える」。そんなチャレンジを楽しんでみてほしいと思います。

2.食事のバランスを考える

そもそも、なぜ人はうつ病になるのかという研究では、今のところ脳内のセロトニンという神経伝達物質が年齢とともに、または環境、状況によって不足するから起こるのだろう、という説が有力です。

つまり、「不足している物質をたっぷり与えれば、うつ病になりにくい」可能性が高いのです。

セロトニンは、トリプトファンという物質からつくられます。

トリプトファンはアミノ酸の一種で、人に必要とされる「必須アミノ酸」9種類のうちの一つです。

このトリプトファンが含まれた食品をたっぷりバランスよく摂っていれば、セロトニンは不足せず、うつ病にもなりにくいと考えられます。

トリプトファンは、肉類をはじめとして、納豆などの大豆製品、チーズなどの乳製品、牛乳などにたくさん含まれています。

肉を毎食食べるというわけにはいかないかもしれませんが、大豆製品は比較的安価で身近です。大豆製品には、納豆以外にも、豆腐、みそ、きな粉、煮豆、油揚げ、おからなどいろいろあるので、好みのものがあるのではないでしょうか。

トリプトファンは、セロトニンのほかに脳内で分泌され、睡眠に関係しているホルモン・メラトニンの原料でもあります。トリプトファンをたくさん摂ることは、良質な睡眠にもつながります。

健康診断などで「コレステロール値が高いですね」といわれると、ついついコレステロールのもとになる肉食を控える人が多いのですが、コレステロールもセロトニンの働きに欠かせません。

多少コレステロール値が高くても、日本人の場合はかえって死亡率が低く、むしろコレステロール値が低い人のほうがうつ病になりやすい、という研究データもあるのです。

とくに高齢者にとって、コレステロールが十分でないことは、体の健康全体のことを考えるとリスクになると思います。

もちろん、魚にもトリプトファンは含まれているので、肉とともに魚もバランスよく摂るといいでしょう。

加えてトリプトファンは、炭水化物と一緒に摂ると吸収率がアップするといわれます。つまり、肉・魚・大豆製品などのたんぱく質とともに、ご飯やイモ類などの炭水化物もしっかり摂るといいのです。

さらにトリプトファンからセロトニンやメラトニンを生成して脳神経を正常に働かせたりするためにはビタミン類やミネラル類が必要です。結局のところ、肉も含めたバランスが取れた食事がうつ病予防にも、またトータルの老化予防にもいちばんいい、という結論になるようです。

3.外出して光に当たる

太陽の光を浴びることは、健康の基本です。

冬季うつ病という季節性のうつ病がありますが、秋から冬にかけて日照時間が短くなることが、その発症の原因の一つと考えられています。

また、欧米で冬季うつ病が多い理由の一つに、一般に住居の室内があまり明るくないことがあるのではないかとも私は考えています。

日本では南向きの部屋に太陽光がさんさんと入ることが好まれるのですが、欧米では、南向きで日の光が入る部屋は敬遠される傾向があるからです。

光があまり差し込まないところに長時間いると、セロトニンの分泌が不十分になるので、状況によっては気分が次第に落ち込んでしまうものです。

冬季うつ病は、光療法で強い光を浴びることで治療する方法があります。睡眠障害の場合にも、光療法は有効な場合があります。

光を浴びるためにもっとも簡単にできることが昼間、外出することです。太陽が出ている時間に外出すればよいのです。

外出は適度な運動にもなり、気分転換にもなります。太陽光に当たることは、睡眠と関わりがあるホルモン・メラトニンの分泌にも影響があるので、睡眠の質の向上にも寄与すると考えられています。

また、日光を浴びることで、体の中でビタミンDがつくられ、骨粗鬆症の予防などさまざまな効果があります。

まずは数分、数十分でもいいので、外出することをお勧めしています。

もし外出できないときでも、カーテンを開けて外光を室内に採り入れるだけでもかなり違います。朝、目覚めたら、カーテンを開けて、お日様の光を部屋に入れ、多少まぶしくても光をたっぷり浴びる。これがもっとも自然な治療法で、「心と体の健康」にいちばんいいと私は信じています。

 

PROFILE
和田秀樹

1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー等を経て、現在、国際医療福祉大学心理学科教授、川崎幸病院精神科顧問、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年精神科医として、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『引きずらないコツ』(小社刊)、『自分が高齢になるということ』(新講社)、『「人生100年」老年格差』(詩想社)などがある。