多くの人が「発達障害といえばアスペルガー」と誤解している理由

「人間関係に問題がある人=アスペルガー症候群」ではない

発達障害の専門外来にやってくる人は、多くが自分のことをアスペルガー症候群と考えています。「対人関係がうまくいかないので、自分はアスペルガーではないのか」と自己診断している人や、「他の病院やクリニックでアスペルガー症候群と診断された」という人が大半です。

しかし、ここには大きな誤解があります。それは、「発達障害=アスペルガー症候群」、という誤解です。実は、総人口に占める有病率は、同じ発達障害でも圧倒的に注意欠如多動性障害(ADHD)が多いのです。外来を受診する人の中では、本来はうつやADHDであるのにもかかわらず、自らアスペルガー症候群と確信していたり、そのように診断されていたりすることがよくみられます。

さらに、アスペルガー症候群とADHDは症状が類似していることがあるため、誤って診断されることがよくあります。自分でアスペルガーを疑って病院にやってきた人も、他の病院でアスペルガーと診断された人も、かなりの部分が「誤診」なのです。残念ながら、発達障害の専門医でも、誤診は珍しくありません。

このような誤解が生じている原因の1つには、アスペルガー症候群という言葉が、まるで流行のようにして世の中に広まってしまったという背景があります。ここ数年、「発達障害」という言葉が非常にポピュラーになりました。

なかでも「アスペルガー症候群」は広く浸透しました。しかし「新型うつ病」と同様に、その浸透が急速だったせいで、正しい理解が追いつかず、「発達障害といえばアスペルガー」という、間違った情報が信じられているのです。これは一般の人だけでなく、医療関係者にも同様のことがみられています。

このように、マスコミなどが流布した「人間関係に問題を抱えている=アスペルガー症候群」のイメージが、一般の人に誤解を与えている面が大きいと思います。

「思ったことを言いたい」という気持ちを抑えられない

先ほどのアスペルガー症候群などASD(自閉症スペクトラム症候群)の人に共通する「空気が読めない」は何が原因なのでしょうか。

一般的に、対人恐怖が原因で自閉的な症状や「空気の読めなさ」が生じる場合もありますが、それは発達障害とは異なるものです。これは、「対人恐怖症」と診断されることもあれば、「社会不安障害」、「社交不安障害」いう病名がつくこともあります。

一方、自閉症の症状は、対人恐怖とは異なり、むしろ「他人に関心がない」「人との関わりをあまり好まない」ことに基づいています。その結果、「他人の気持ちを理解しない」、「場の空気を読めない」といった特徴につながり、周囲からの孤立を招くことになります。

また、ASDの人が一見、他者との関わりに積極的であるようでも、実際には働きかけが一方的で、適切な関係を構築できていないケースもよく見られます。以前、次のような研究をしたことがあります。

ASDの人が、他人と会話をするときの視線を、アイトラッカーという機器を用いて計測しました。普通の人は、会話をしながら相手の顔や目を見ることが多いのですが、ASDの人は、相手の顔や目ではなく、体や背景を見る頻度が高率でした。

つまり、ASDの人は、「人嫌い」というほど他人を積極的に嫌っているのでもないし、他人に不安や恐怖を感じているわけでもありません。むしろ、他人を気にしないし、視界に入っても特別な存在と認知しないのです。アイトラッカーの研究は、この点を実証したものとなっています。

また、ASDの人は、自分が思ったことや本当のことを言いたい、という気持ちを抑えることができません。それが「相手の都合も顧みず、自分が思ったことを話し続ける」「唐突な発言をする」など、周囲に対する配慮の欠如として表れます。

発達障害の概念図

一方でADHDにも、衝動性の表れとして「思いついたことを言わずにいられない」傾向がありますが、ASDの人は「自分が話していい状況なのかを認識できていない」ことが原因で、同様な行動がみられるのです。

その結果として、周囲から浮いてしまうことになりがちです。さらに、「空気が読めない」「わがままで身勝手」な人間として扱われることになりかねません。本人も、自分が「変わった」人間であると見られていることに気がつき、自分から距離を取り引きこもっていくケースもあります。

 

 

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PROFILE
岩波明

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『他人を非難してばかりいる人たち』(幻冬舎新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)等がある。

うつと発達障害 (青春新書インテリジェンス)

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  • 作者:岩波明
  • 発売日: 2019/07/02
  • メディア: 新書