大人気カウンセラーが駆け出し時代に気づいた「心の傷」の存在

もしいま、あなたが生きづらさを感じているのなら、それは過去の「心の傷」が大きく影響しているからかもしれません。人が過去に縛られてしまうのはなぜなのか? 大人気カウンセラーが「心の傷」と「生き方」の関係に気づいたきっかけを教えてくれました。

どんな人にも「心の傷」はある

私はカウンセラーとして独立するまでの8年間ほど、精神科医のもとで依存症や家族病理の問題に関わってきました。

そして、治療に関わるうちに、それらの問題の背景に心の傷が大きく影響していることに気づき、心の傷の治療法を研究してきました。心の傷とは、(心的)トラウマとか心的外傷ともよばれるものです。

私が駆け出しの頃、先生の診察を見学したときに、若くてきれいな女性が「危ない男性と付き合ってしまって、別れてもまたもとに戻ってしまうんです」と相談していました。 まあ、「きれいな女性は危険な男性に惹かれる」ということがあるから、この方の悩みもそんな感じなのかな? と思っていました。

すると、先生が「では、彼氏を呼んできなさい」と女性に伝えました。女性は彼氏から逃げていたところだったので、「私とやり直したかったら、先生に会ってください」と言い、彼氏が精神科医のもとへ乗り込んでくる形になりました。

その彼氏との面接も、私は見学というか、先生のボディーガードのつもりで入っていたのですが「うわー! これは無理だわ!」と、面接室から逃げ出したくなります。

ヤクザ映画に出てくる登場人物がかわいく見えるレベルの、怖い風貌。手の拳がきれいにつぶれていて、先生が「武道とかやっているの?」と質問したら、「これまで武道は一切やったことはない!」というので「あー! 喧嘩をたくさんして拳がつぶれちゃったのね!」とわかる。

「彼女と会わせろ!」と食ってかかる、その男性の殺気は本物で、「うわ〜! この男性が本気になったら、私が止めることは無理だわ」と悟り、どのように先生の逃げ道を確保するか、それだけを考えはじめました。

先生が「どうして彼女があなたから逃げたか、心当たりがありますか?」と優しく男性に質問したら、「お前たちが余計なことを吹き込んだからだろ!」とドスのきいた声で答えます。

先生は「彼女が出て行く前に、あなたとの関係で何か問題を話したことはないの?」と質問します。すると、男性は「俺が彼女を守っているんだから、何が悪い!」とちょっと的外れな答え方をしました。

そこで先生が「何から彼女を守らなきゃいけないの?」と質問すると、男性は「ハッ!」として、何かに気づいたみたい。どうやら男性は「彼女を傷つける奴から俺は彼女を守る! 彼女のために喧嘩をしているんだ」と言いたかったらしいのですが、「彼女が怯えているのは俺に対してで、俺が彼女を傷つけているんだ」とわかってしまいました。

男性は「だったら、どうしたらいいんだ!」と、行き場のない怒りを先生に向けます。先生が「あなたは彼女を何から守ろうとしていたの?」と優しく質問すると、男性は「彼女を傷つける奴から守りたい」と言った。「誰が彼女を傷つけるの?」と聞くと、「生意気な態度を取るレストランの店員とか」とボソッと言った。レストランで彼が暴れたと彼女から聞いていましたが、暴れた理由は彼が彼女を守りたかったからだというのです。

先生が「では、暴力を使って、彼女を守らなければならないような状況だったの?」と質問すると、男性は「わからない!」と両手で髪をぐしゃぐしゃにする。そして「わからないんだよ!」と怒鳴って、部屋から出て行ってしまいました。

私は、彼がまた戻ってくるんじゃないか? と不安になりながら「先生、あれはなんだったんですか?」と聞いたら「心の傷だよ!」と教えてくださいました。

男性の父親は、その地域で有名な酒乱で、酒を飲んでは暴れる人だった。そして、彼と母親は、父親から常に暴力を振るわれ、苦しんできた。でも、その記憶が彼のなかから抜けてしまっている。なぜなら、母親が突然、幼かった彼を残して家から出て行ってしまったから。

その過去が心の傷になったことで、彼は「母親を守れなかったから、捨てられてしまった」と思い、「今度こそ彼女を守らなきゃ」と暴れてしまう。そして、そんな暴力的な言動に怯える彼女に対しても、「なんで俺の気持ちがわからないんだ!」と怒ってしまっていた。

さらに、父親からの暴力も、記憶はないが心の傷になっているから、「横暴な男性はみんな父親に見える!」となってしまい、相手を叩きのめすことを繰り返していた。

そしてこのケースでは、じつは彼女のほうにも心の傷がありました。彼と同じく「父親がアルコールを飲んで怖い人になり、ひどい目にあわされた」という過去があった。でもそれが記憶から抜けてしまっているから、「父親と同じような人と付き合ってしまう」ことを繰り返していた(トラウマの再上演といいます)。知らないうちに「彼とうまく立ち回れたら、心の傷が消えるはず」と、がんばってしまう。

そのとき私は、「おー! あんなきれいな人にも心の傷があるんだ」とびっくり。そして、「怖いもの知らずのような彼氏にも心の傷が影響しているんだ」と、その深さを学びます。心の傷がなかったら、彼女はあんなに怖い男性と付き合っていなかったし、男性も常に喧嘩ばかりする危ない人にはならなかったはずです。

それ以来、私は「心の傷は、人生をものすごく変えてしまうんだな」と注目するようになり、心の傷が治療されたら、人はどんなふうに変わるのだろう? と興味を持つようになりました。

 

PROFILE
大嶋信頼

心理カウンセラー。株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。周愛利田クリニック、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室室長、株式会社アイエフエフ代表取締役を経て、心的外傷治療に新たな可能性を感じ、インサイト・カウンセリングを立ち上げる。カウンセリング歴26年、臨床経験のべ9万件以上。『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)ほか著書多数、累計50万部超。 今回は、大嶋メソッドの真髄といえるFAP療法(Free from Anxiety Program 不安からの解放プログラム)のおもな技法と実例を、一般書としては初めて公開した。