「ササミ最強説」は本当? “肉は最良のタンパク質”という大誤解

ささみ

高タンパク・低カロリーの「鶏ササミ」。健康にいいからと意識して摂っている人も多いかもしれません。しかし、その思い込みが健康を害している可能性も……。30年間、断食について研究をしている山田豊文氏に、その真意を聞きました。

「肉でスタミナ補給」に待った!

「このところ疲れ気味だから、スタミナをつけなきゃ。よし、焼き肉行くか」

こんな言葉を、そこここでよく耳にする。肉こそ最高のスタミナ食、肉は最良のタンパク源、という信仰はまだまだ広くはびこっているようだ。

最初に、そのどちらも「否」であることを知っておいていただきたい。

体にとってタンパク質が不可欠な栄養素であることは間違いない。その語源を辿れば、ギリシャ語のプロティオスに行き着く。これは「第一のもの」という意味で、栄養素のなかでも一番に重要視すべきであることがわかる。

とはいえ、食事で得たタンパク質がそのまま人間用のタンパク質になるわけではない。例えば、動物の肉がそのまま人間の筋肉になるわけではないし、我々の体内に存在するタンパク質は筋肉だけというわけでもない。

動物の肉は、その動物の筋肉組織であり、筋細胞(筋繊維)の集合体である。肉に比較的タンパク質が多いのは、この筋細胞のなかに、筋肉の収縮にかかわるタンパク質(アクチンやミオシン)がぎっしり詰まっているからだ。それでも、こうしたタンパク質以外にもさまざまな成分が組み合わさって1個の筋細胞が成り立っている。そしてその集まりが筋肉組織、すなわち「肉」なのだ。

一方、人間の体内では、酵素やホルモン、栄養素の運搬役や受け取り役、情報伝達役など、目に見えない無数のタンパク質がせっせと働いている。こうしたさまざまな「人間用のタンパク質」をいかに正しくつくり出し、正しく働かせるかが、生命活動の根幹なのだといっても過言ではないのだ。

これは、人間以外のどんな生物でも同じである。タンパク質というのは、動物でも植物でも、どんな生物にも存在していて、人間と同じように、それぞれの生物用のタンパク質として働いている。世間では、肉を食べないとタンパク質が摂取できないかのような〝盲信〟が定着しているが、決してそんなことはない。

人間が何かを食べるということは、こういったそれぞれの生物が生命活動に利用している種々の成分を取り込むということであり、それはタンパク質もしかりだ。要するに、それが植物性であれ動物性であれ、無意識のうちに、さまざまな種類の食べ物からまんべんなくタンパク質を摂取しているのだということを、頭に入れておいてほしい。

肉食に伴うさまざまな問題

肉を食べると、さまざまな理由から健康を害することにつながりかねない。それは主に、次のような「よからぬもの」にまとめることができる。

ひとつは、体内で発生する「よからぬもの」である。

タンパク質をとると、それを体のなかで利用するプロセスで必ず酸性物質が発生する。このため、肉などの高タンパク食品を多く食べると酸性物質も大量に発生し、血液が酸性に傾きやすくなる。すると、私たちの体はアルカリ性のカルシウムを骨から血液中に送り込み、これを中和しようとするのだ。これが「脱灰(だっかい)」だ。

その結果、骨がスカスカになり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などのリスクが高まることになる。また、毒性の強いアンモニアも、必ず発生する物質の代表格である。肝臓で毒性の低い尿素に変えられ、腎臓で濾過(ろか)されて尿として排泄されるのだが、やはり高タンパク食を続けていると大量発生し、肝臓や腎臓に大きな負担をかけてしまう。

また、調理時に発生する「よからぬもの」もある。

肉類といえば、焼いたり揚げたり炒めたりといった高温調理がつきものだ。こうした方法で調理すると、さまざまな「よからぬもの」が発生する。終末糖化産物(AGE)やヘテロサイクリックアミン(HCA)、多環芳香族炭化水素(PAH)などがそれだ。何ともややこしそうな名前の物質ばかりであるが、特に後ろの2つは、牛肉や豚肉、鶏肉といった動物の肉を、フライパンや直火で焼いた場合に多く生成されることが知られているうえに、発がん性が認められたり疑われたりもしている。つまり、ステーキや焼き肉、焼き鳥、オーブン料理、バーベキューなどは、どれも非常に危険だということになる。

揚げ物

さらには、もともと含まれている「よからぬもの」も忘れてはならない。

市販されている食肉の多くは、抗生物質やホルモン剤まみれであり、アメリカやオーストラリアから輸入された牛肉は特に要注意だ。抗生物質は、牛が感染症にかかって牛舎が全滅しないように与えられているわけだが、この牛肉を食べた私たちの体内にも抗生物質が侵入し、腸内細菌に悪影響を及ぼしたり、耐性菌が発生したりとさまざまなリスクを伴う。また、牛の成長を促すために、日本では認可されていないようなホルモン剤(女性ホルモン)も投与されていて、その濃度は国産牛に比べて何と100〜600倍にも及ぶことがわかっている。この肉を食べると、乳がんや子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなど、性ホルモン系のがんのリスクを高めてしまうのだ。

肉はミネラルバランスが悪い食べ物

もともと含まれているということでは、リンの過剰にも言及しておく必要がある。リンは必須ミネラルのひとつであり、細胞の生体膜の構成成分(リン脂質)やエネルギー物質(アデノシン三リン酸/ATP)としての役割のほか、細胞内で数々の生命活動の中核を担う、極めて重要な存在だ。しかし、ほかの必須ミネラルと同様、必要だから多く摂ればよいというものではない。特にカルシウムとの「ミネラルバランス」が大きなカギを握っている。

リンとカルシウムは共通のホルモンによって吸収がコントロールされている。このホルモンは、どちらかといえばリンよりもカルシウムの調節を優先することから、リンとカルシウムの比率が大きく離れたもの(カルシウムに対してリンが多すぎるもの)を食べると、結果としてリンを過剰に吸収してしまうことにつながるわけだ。

血液中にリンがあふれかえると、血管に甚大なダメージをもたらす。その結果、全身の動脈硬化につながったり、毛細血管のデリケートな構造で濾過装置が成り立っている腎臓の機能が、大幅に低下したりしてしまう。

そして、このような問題を招く「カルシウムに対してリンが多すぎるもの」の代表格こそが、まさしく肉類なのだ。ほかの食品に比べても高リン–低カルシウムの度合いが群を抜いており、牛肉や豚肉はもちろんのこと、その最たるものが、実は「鶏ささみ肉」である。 〝低脂肪高タンパクでヘルシー〟という世間の印象から、特にアスリートのあいだで絶大な支持を集めているわけだが、実際にはこんなリスクをはらんでいるというわけだ。

食べるために「食べない」時間をつくる

現代が飽食の時代であることは、誰もが認めるところだろう。

食べることの目的は生命を維持することだ。言葉を換えれば、全身の細胞が生命活動を正しく営めるように、食べ物から必要な栄養を正しく取り入れる。それが食べるという行為の本質である。

しかし、現代人は間違った食生活によって、栄養を吸収・利用できない体になっている。「飽食の時代の栄養失調」と呼ぶほかはない状態に陥っているのだ。いくら食べても細胞に必要な栄養を吸収・利用できないのだから、食べる目的は達成されていないのである。

では、食べる目的を果たせるようになるにはどうすればいいのか? それは、食べないことしかない。食べないこと、つまりは断食で、「飽食の時代の栄養失調」状態から脱し、いったんリセットしたうえで栄養を吸収・利用できる体をつくる以外に、手はないのである。

食べないことは、本来の意味で食べることができる体をつくるための、不可避のプロセスなのだ。

また、体によくない物質がたっぷり使われている食べ物をせっせと食べ続ける「呆食(ほうしょく)」の行き着く先も同じだ。今すぐにでも、「飽食」とも「呆食」とも手を切るべきである。

日本人の寿命は年々延びており、厚生労働省の調査(2018年)によると、100歳以上の「百寿者」は全国で約7万人もいるという。とはいえ、病院のベッドで寝たきりであったり、自宅から一歩も外に出られなかったりする人も、このなかには多く含まれることだろう。どうせなら単なる長生きではなく、最後まで自分の口から食べ、自分の足で歩ける健康長寿を目指したいものだ。

元気な100歳を実現する秘訣──それは「豊食」の実践にあると私は確信している。そして、豊かに食べるために、食べない時間を設けるのだ。

 

PROFILE
山田豊文

杏林予防医学研究所所長。日本幼児脂質栄養学協会(JALNI)会長。あらゆる方面から細胞の環境を整えれば、誰でも健康に生きていけるという「細胞環境デザイン学」を提唱し、本来あるべき予防医学と治療医学の啓蒙や指導を行う。2013年6月に「杏林アカデミー」を開校。細胞環境デザイン学を日本に広めていくための人材教育に力を注いでいる。

脳と体が若くなる断食力 (青春文庫)

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  • 作者:山田 豊文
  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: 文庫