アメリカ人がほめ上手なワケ
アメリカで暮らしたことがある方たちが、日本とアメリカのほめる文化の違いについて話される時によく例に出てくるのが、
「アメリカはナイストライ!(Nice Try!)の発想なんです。“いいチャレンジだ!”と挑戦したことをほめられる。だから何かうまくいかなかった時にもほめられる」
特に、子育てやスポーツなどではナイストライ! の発想を大切にするといいます。相手の挑戦やがんばりを讃えてあげる。プラスにフォーカスする。まさに加点法の発想です。それに比べて日本はというと、
「日本では同じシーンでドンマイ!(Don't Mind!)ですよね。“気にするな!”と言う。それって、失敗した! と決めてしまっている感じがする」
もちろん、これも応援する言葉ではあるものの、「気になるだろうけど気にするな」という言葉ですから、やはりマイナスにフォーカスしている。減点法の発想ですよね。
稲作の共同体文化の日本では誰もが足並み揃えて協力することを重視してきました。もちろん、その素晴らしさがある半面、できないこと、足りないことを減点法で見てしまうダメ出しの文化、さらには恥の文化も強くなってしまいました。それが悪いほうに働くと、
「失敗して恥ずかしい思いをするなら、そもそもやらないほうがいい」
そんなふうに、消極的な姿勢も生み出してしまいます。
日本人がほめられ下手なのも、「人並みがいい」「ほめられるほどみんなより突出してしまい、目立つのが恥ずかしい」という感覚があることや、そもそも自己肯定感が低いところへ、ほめられて上に引き上げられるのは居心地が悪いということもあるのです。
挑戦を素直にほめられて、また自分もほめ言葉を受け入れられるようになりたいですね。
少し視点の違う話ですが、欧米のほめる文化は、多民族国家だからだとも聞きました。 「私はあなたの敵ではない!」と証明するためにも、あいさつの時からほめる。
ニューヨークで働く私の仲間が、「Nice Tie!(いいネクタイだね!)」なんてほめ方はその部類だと言っておりました。とりあえずほめて、関係を作る。なので、
「Nice Tie! は、話半分で聞くとしても、Nice Try! は、いい文化だと思うよ」 やはり見た目より中身。さすがニューヨーカー。韻(いん)を踏みながら解説してくれました。
相手も自分も納得できる究極の叱り方
「今どきの若い人は打たれ弱い」なんてことを言います。確かに昭和や平成の初め頃までの世代に比べると、心の耐性は強くないかもしれません。昔は子どもの頃から頭ごなしに怒られたり、それこそ体罰があったり、我慢を強いられることもたくさんありましたから、心の耐性が今より強かったとは言えるでしょう。
でも、「今の若い世代は打たれ弱い」などと私たち上の世代が嘆いたり批判したりしても仕方がありません。若い世代を育ててきたのも、育てていくのも、私たち上の世代の大切な役割です。
以前、私の部下で、二人の「打たれ弱い」部下がいました。一人は「一所懸命やるけれど指示した通りにできずに、私に注意されて思いっきりへこむ女性社員」。もう一人は「ものすごく天然で、指示したことを勘違いして、とんでもない方向に走り、突如へこむ女性社員」。
その頃はまだ私もほめ達になりきっておらず、相手が女性社員ということもあり、注意した後にこちらがうろたえることが何度かありました。
また、「上司の当たり前」は「部下の当たり前」ではありません。「当たり前だろ」「普通、そうだろ」的に上司が何気なく言ったひと言が、それが「当たり前」でも「普通」でもない部下たちの心には、上から降ってきた鉄の矢のごとく心に突き刺さってしまいます。
そこで私はまず、上下の位置関係を少しずらして、斜め上から横くらいの位置関係で話をするようにしました。そして、「それ、違うだろ!」というような、部下が指示と違うことをした時も、いったんそれを受け止めてみることにしました。
「わ! そっち行った?」「おお、そこからきたね?(笑)」
この位置関係と言葉選び、なかなか効果絶大でした。相手の方向性の違いは指摘しつつも、相手を大切にしている。相手としても自分のしたことが望まれることではなかったと知りながら、自分が否定されているわけでないと思える。
ほめ達では、これを「そうくるか!」としてまとめています。
「違うだろう!」でなく、「そうくるか!」「そうきたか!」「そっちか!」と言うことで、ただ一方的に叱りつけるのではなく、相手の行動や考えや気持ちも大切にすることができます。また、注意をする側も、怒りの感情のガスを抜きつつ、冷静な注意や指示のしなおしができます。「そうくるか!」で、相手も自分も大切に。
‟ナンバーワン”より嬉しい‟オンリーワン”のほめ方
私が以前勤めていた会社には、とても素敵なスタッフがたくさんいました。それぞれ役職や役割は違っても、それぞれの仕事でそれぞれに工夫しながら、お客さまやチームや会社のためにがんばっています。
がんばっている人には、目指している自分の姿があります。がんばっている人ほど、その目指す姿は高かったりします。ですから、ほめても額面通り受け取ってもらえない場合もあります。
ある営業マネージャーの仕事ぶりを見て、私が素直に「さっすが、仕事できるねえ!」とほめたことがありました。するとそのマネージャーは「いやいや、松本さん、よく言いますよ。ボクなんかぜんぜんですよ」と少し斜め下を向いて言われました。
きっと目指している自分と今の自分にギャップを感じられているのかもしれません。また、日本人はほめられるのが不得意な方もいることは事実です。自分ではまだまだだと思っているのに、自分で思う自分のレベル感より高いレベルに引き上げられると、居心地の悪さを感じてしまいます。
そんな時には、やはり「仕事できるね!」というような「人と比べたほめ方」ではなく、その人自体の素晴らしさ、その人の存在自体の素晴らしさを伝えるのが効果的。まさに、ナンバーワンより、オンリーワンのほめ方です。
その時も私はそのマネージャーにこう言いました。
「いやいや、この支店に欠かせない人ですってば!」
するとそのマネージャー、顔を上げて私を見ながら、ちょっぴり笑顔になってくれました。
私が思う「できる大人」とは、単に仕事ができるスキルがある、ではなく、「居てほしい存在」「なくてはならない存在」「欠かせない存在」です。相手も自分も、「居てほしい」「欠かせない」存在でいたいですね。
一般社団法人日本ほめる達人協会専務理事。国学院大学を卒業後、歌手さだまさし氏のマネージャーを経て、家業のガソリンスタンドを再建。45歳で外資最大手のAIU保険の代理店研修生に。そのコミュニケーション力で数々の成果をあげ、トップ営業、本社経営企画部のマネージャーとして社長賞を受賞するなど、まわりにムーブメントを起こす感動エピソードを生み出し続けた。組織を動かし、家庭まで元気にする達人として活躍中。

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