孤独を楽しめる人ほど人生が豊かになる―弘兼憲史の“やめる”生き方

孤独という言葉をどうとらえるか? 「一人寂しいつまらない時間」と考える人がいる一方、「自分のやりたいことができる、実りある時間」と考える人もいます。60歳以降の時間を充実させるには、やはり孤独を前向きにとらえることが、実りある老後にするための秘訣のようです。漫画家の弘兼憲史さんに、「孤立」を避けて「孤独」を楽しむための考え方をうかがいました。

島耕作が徒党を組まない理由

島耕作は有能な組織人ではありますが、徒党を組みません。

「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という言葉を絵にしたようなこのキャラクターも、僕が群れるのを嫌ったことから生まれています。

これも学生時代に形成された精神構造と言えます。

僕が早稲田大学に入学したのは1966年の4月。この年に成田で三里塚闘争が始まり、6月末から7月にかけてビートルズが来日しました。

この頃の様子は『学生 島耕作』に描きましたけども、党派や学部を超えた連合体である全共闘運動が広まるのは68年、今でもテレビで、学生運動の象徴的場面として映像が使われる東大安田講堂事件が69年1月です。

2020年に公開されたドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』が録画されたのは5月ですから、まさに大学闘争の真っただ中という時代だったのです。

今の時代からは考えられない大規模な紛争の映像を見て、当時の大学生のほとんどが学生運動をしていたように思っている人も多いのですが、そんなことはなくて、実際に派手な運動をしていたのはわずかでした。

しかし、思想的には8割くらいの学生が心情左翼で、若者の間では左翼がカッコイイとされていた時代だったのです。

何度か誘われて学生運動の集会に参加してみると、あり余るエネルギーを持て余して甘えている若者たちが、群れることを楽しんでいるように僕には見えました。学生に革命なんかできるわけがないし、そもそも革命する必要がどこにあるのかわからなかった。

こんなことをして、みんなで何かやるという安っぽい連帯感に浸っているよりも、ほとんどの学生は親が学費を出しているのだから、授業を受けるべきじゃないか、と思ったのです。

それ以来、学生運動には参加しませんでしたし、群れるような人間にはなりたくないと思い始めたのです。

松下電器に就職してからも、けっして孤立していたわけではありませんが、一匹狼的な生き方を信条としていました。

組織の一員として働く以上、連帯感を持つことは大事ですけど、そこに依存したくないし、されたくもない。漫画家という、ひとりでやる仕事を選んだのはそんな基盤があったからかもしれません。

今でこそアシスタントとの共同作業になっていますけども、基本的にはストーリーやキャタクターを創造するところから描き上げるところまで、ひとりで完結する仕事です。

僕の一日の半分は「孤独を楽しむ」時間

アシスタントとの共同作業をするようになってからも、「個」を大事に思う気持ちに変わりはなく、あえて孤独を求めているようなところがあります。

だいたい夜中の2時くらいに仕事場から帰って、ちょっとした肴を用意してひとりで好きな酒を飲みながら昔の映画を観るのが日課なのですが、1本まるごと観ることはまずなくて、冒頭のきっかけ作りやラストのまとめ込みなんかを断片的にいくつか観ることが多い。

冒頭を観て設定が面白いと思ったら、もうその映画を観るのはやめて自分でストーリーを組み立てていくんです。逆にラストシーンを観てそれまでのストーリーを考えることもあります。

それから眠ります。普通の人からしたらちょっと遅めに起きて、シャワーを浴びて、一日のいろいろなことを計画しながら脳のウォーミングアップをして家を出ます。ファミレスや喫茶店に寄って、前の晩に浮かんだアイデアなどを練りながらランチをとり、仕事場に着くのは午後1時くらいですから、一日の半分、言ってみれば一年の半分はひとりでいることになります。

「孤立」は避けて、「孤独」を楽しめる大人になる

ここ数年、高齢者の「孤独」を前向きにとらえる本が何冊もヒットしました。ひとり暮らしや孤独でいることを堂々と楽しもうという趣旨の本がほとんどです。

高齢化社会となって「孤独死」や「独居老人」といった言葉が社会問題としてクローズアップされ、高齢者のひとり暮らしは心配だという風潮が強くなりました。そんな流れの中、同居人に気を使うことなく、ひとりで自由に人生を楽しみたいという高齢者たちも一定数いて、そういう人たちが支持したのだと思います。

今、女性は男性より6歳くらい平均寿命が長いので、70代、80代は女性が圧倒的に多いのですが、夫に先立たれてひとりになった女性が、自由気ままなひとり暮らしを楽しんで人生を謳歌するケースが増えたんですね。

もちろん長年連れ添った夫が亡くなった時にはショックを受けて落ち込むのでしょうけども、気持ちが落ち着けば、解放された喜びと24時間自由にしていられる安堵感が湧いて、家族に一緒に住もうと言われてもひとり暮らしを望む女性も多いわけです。

高齢者のひとり暮らしでは孤独死が怖いと言われますが、それは発見が遅れることに問題があるのですから、毎日1回連絡をとる人がいれば、ひとり暮らしでいい。スマートフォン一つあれば、顔色だって確認し合える時代です。

一方、男性はひとりになると弱くなるケースが多いんですね。70代、80代で妻に先立たれた男性は、3年以内に7割が亡くなるといいます。

「孤独」と「孤立」は違うもの

家族や地域社会、組織などで孤立してしまうことは、人生をつまらないものにするので絶対に避けなければいけませんが、60代以降の人生ではいつひとりになるかわからないのですから、孤独に慣れておいたほうがいい。

孤独というと、寂しいイメージがつきまといますが、そんなことはありません。どんなことでもひとりで楽しめる人の人生は豊かです。僕はそれを「孤独力」と呼んでいます。孤独は楽しめるのです。

やっぱり人間、生まれる時も死ぬ時もひとりなのですから、孤独を楽しめる人のほうが幸せだと思います。

 

PROFILE
弘兼憲史

1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業。松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。『島耕作』シリーズや『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』など数々の話題作を世に出す。『人間交差点』で小学館漫画賞(84年)、『課長 島耕作』で講談社漫画賞(91年)、講談社漫画賞特別賞(2019年)、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞(00年)、日本漫画家協会賞大賞(03年)を受賞。07年には紫綬褒章を受章。人生や生き方に関するエッセイも多く手がけ、『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(海竜社)、『弘兼流 60歳からの楽々男メシ』(マガジンハウス)、『一人暮らしパラダイス』(大和書房)などの著書がある。

弘兼流 やめる!生き方

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  • 作者:弘兼 憲史
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