放置するとキケン! 認知症の初期段階で表れる“ある兆候”とは

認知症予備軍

認知症というと、物忘れが多くなったり、記憶できなくなることが増える状況を想像する人が多いかもしれません。しかし、前兆はそれだけではないのです。認知症予防&治療の第一人者である朝田隆先生に、じわじわ進行していく認知症を、回復の見込みがある「グレーゾーン」のうちに気づく方法について聞きました。

人の名前が出てこない、会話中「あれ」が多くなった……

最近、どうも人の名前や物の名前がすっと出てこないなぁ。そう感じている50代、60代の方は多いのではないでしょうか。

もしかしたら、ご夫婦で会話をしているとき、次のような場面が増えているかもしれません。

本人「そういえば、前に新宿で会ったあの人、海外に転勤になったらしいよ」

奥さん「誰のことです?」

本人「ほら、新宿のデパートで会った、あの人だよ、お前もよく知っているあの人!」

奥さん「あの人って言われてもわかりませんよ」

本人としては、それが誰かわかっていて、頭の中ではちゃんと顔も浮かんでいます。その人には子どもが二人いて、ネコを飼っていることもわかっている。でも、どうしても名前だけが出てこない。

このような、いわゆる「ど忘れ」は50代、60代にもなれば、誰でも起こってくるものです。頭の中に記憶は残っているものの、どうしても名前をうまく引き出せない、もどかしい、といった感じでしょうか。

同じように、物の名前も出てこなくなりがちです。それでついつい、人の名前も、物の名前も全部、「あれ」とか「これ」で済ませてしまうようになるのです。

その症状、認知症グレーゾーンかもしれない

人や物の名前だけではありません。時系列、つまり出来事の順番を間違えたり、混乱したりする場面も増えてきてはいないでしょうか。

たとえば、自分の子どもが結婚した順番や、孫の生まれた順番を間違えるケースがよくあります。子どもは必ずしも年の順に結婚するわけではないですし、結婚した順に孫が生まれるわけでもありません。孫の年齢が近かったりすると、どこの孫が最初に生まれて、2番目、3番目は誰で、といった時系列が混乱しがちです。

それでも、子どもの結婚や孫の誕生というのは、人生において一大イベントです。覚えていて当然なのに、最近どうもあやしくなってきた。

「なんか、ど忘れが増えてきたなぁ。まさか、これって認知症じゃないよな」

そんな不安を感じている人も少なくないのではないでしょうか。

ですが、このレベルのもの忘れであれば、まだ認知症ではありません。認知症になると、子どもが結婚したことや孫が生まれたこと、そのエピソード自体を丸ごと忘れてしまうからです。

「なんだ、じゃあ自分のど忘れは単なる年のせいか」

ただし、こんなふうに安心するのもちょっと待ってください。もしかしたら、そのど忘れは認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)=認知症グレーゾーンの初期症状かもしれないからです。

MCIというのは認知症につながるプロセスの期間で、言うなればグレーゾーンの段階です。その初期症状が出てきたということは、認知症に向かってカウントダウンが始まったと言っていいでしょう。

MCIが始まってから本格的な認知症に移行するまで、平均7年と言われています。とはいえ、進行の度合いには個人差があり、1年後に12%、4年後には約50%が認知症を発症するとも言われています。その一方で、この段階で気づき、適切な対応がなされれば、健常な状態に戻ることもできるのです。

認知症とグレーゾーンの境界

認知症は治らない。グレーゾーンなら回復できる

「めんどうくさい」が増えてきたら危険な兆候

認知症グレーゾーンの人には、固有名詞が出てこない、時系列が混乱するといったこと以外に、もう一つ特徴的な変化が見られます。それは気力の減退です。

今まで当たり前のようにきちんとやっていたことが、なんでも「めんどうくさい」と感じるようになり、「次でいいか」と考えてサボったり、先送りしたりするようになる。もともとそういう性格の人は別として、50代、60代で急に「めんどうくさい」「今度でいいか」が増えてくることは、実はとても危険な兆候です。

認知症は記憶が失われてしまう病気ですが、その入り口は〝やる気〟が失われることから始まります。この時期がまさに認知症グレーゾーンの初期段階で、そのまま放っておけば、認知症に向かって一直線に進んでしまいます。

もちろん、40〜50代になると、体力的にも精神的にも衰えてきます。一方で仕事は忙しく、子どもの進路や親の介護の問題なども出てくる時期ですから、めんどうくさい気持ちは起こりやすくなります。

しかし、通常は疲れやストレスの原因が一段落したり、休養を十分に取ったりすると、気力・体力は回復します。

一方、認知症グレーゾーンの特徴として見られる無気力は、もっと病的なものです。

たとえば、長年続けていた趣味を、急にやらなくなった、というのは要注意です。あくまで、長年というところが肝心で、去年から始めたとか、定年後に人からすすめられて渋々始めたものをやめたのであれば、さほど心配はいりません。

一方、20年も続けて師範にもなっていた生け花をあっさりやめてしまったり、日曜日になると毎回早起きをして出かけていた釣りに、ぱったり行かなくなったり、長年大切に育ててきた庭のバラがすっかり枯れてしまっても、水をやろうともしない。そんな変化が見られたら、認知症グレーゾーンの疑いが濃厚です。

認知症の兆候というと、人の名前が出てこないといったもの忘ればかりが注目されますが、「めんどうくさい」に由来する行動上の変化は、記憶力の低下と同じくらい重要なキーワード。もの忘れは周囲が気づきやすいのに対し、「めんどうくさい」はわかりにくい。わかっても認知症と結び付けて考える人はほとんどいません。ふつうに暮らしているあなたや、あなたの家族の中にも、認知症グレーゾーンが潜んでいる可能性が十分にあるということです。

大好きだった連続テレビドラマがつまらなくなる

認知症グレーゾーンの時期に見られる「めんどうくさい」は、日常生活のさまざまな場面で表れてきます。

たとえば、私が診ている患者さんの中には、「以前はNHKの朝ドラや大河ドラマを欠かさず観ていたのに、最近はつまらなくなって観るのをやめました。でも、歌番組や大相撲は楽しく観ています」と話す方がいらっしゃいます。

連続もののドラマは、3カ月、半年といった一定期間、ストーリーをずっと記憶して追い続けるところに醍醐味があります。毎回ドラマの最後で流れる次回のあらすじを観て、「来週はどんなふうに展開するのだろう」とワクワクし、次の放送時には前回の内容の記憶がぱっと蘇よみがえり、新しい展開にのめり込んでいく。

ところが、認知症グレーゾーンになると、先週までのストーリーや、登場人物の役どころや名前をしっかり覚えられなくなったり、覚えておくことが億劫になったりします。つまり、連続ドラマが面白くなくなるのは、ストーリーがつまらないからではなく、記憶力や気力の低下によって、興味を保ち続けことができなくなることが原因である可能性があるわけです。

他方、歌番組なら、自分の記憶に残っている昔の歌が流れてきたら、「わあ、懐かしい」「これ、知っている」ということで楽しめます。スポーツは、その場の勝ち負けでシンプルに楽しめます。とくに、わずか数分で勝負がつく相撲は、認知症の高齢者の間でも人気があります。私の患者さんの中にも相撲ファンはたくさんいます。

テレビ番組の好みが変わったのは、こうしたことが原因かもしれないのです。

自覚しにくい認知症グレーゾーンにいち早く気づく

認知症グレーゾーンの段階で気づくことができるのは、やはり身近にいる家族です。

どこか様子がおかしいと感じて、「お父さん、最近もの忘れが多くない?」と尋ねても、本人は自覚がないので、たいてい「年のせいだよ」と受け流します。怒りんぼうの男性であれば「俺がボケてると言うのか!」と怒りだすこともあるでしょう。

家族の側も、自分の親が認知症になっているとは思いたくないので、本人がそう言うなら、まあ大丈夫なんだろうと、あまり深追いしない場合が多く見られます。

しかし、認知症グレーゾーンの人は、すでに認知症に向かってカウントダウンが始まっています。そのまま放っておくと、前述のように1年後には12%、4年後には約半数の方が認知症になってしまいます。

認知症グレーゾーンの初期の段階で気づくのはなかなか難しいのですが、お話ししてきたような記憶力の低下、行動および感情面の変化が見られたら、下に掲載した「認知症グレーゾーンに気づくチェックテスト」で、あらためてチェックしてみてください。

どれも認知症グレーゾーンならではの特徴です。それぞれに「全くない」「時々ある」「よくある」「常にある」で答えて、合計点を出してみてください。

あくまで一つの目安ではありますが、合計点が自己採点で5点以上、家族や介護者による採点なら9点以上の場合、認知症グレーゾーンを疑ってみる必要があるでしょう。専門医を受診することを検討してもいいと思います。ちなみに、自己採点のほうが厳しくなるのは、自分で自分の認知機能をチェックすると、どうしても甘い判断になりがちだからです。

また、一つの目安と述べたのは、正直なところ、認知症グレーゾーンの判断は難しく、チェックテストの合計点が何点以上だと確実にそうだと判断できるものではないからです。しかし、一つの目安としてお伝えすることで、少しでも早い段階で対策を講じるきっかけになればと思い、あえて指標を示しました。参考になれば幸いです。

認知症グレーゾーンチェックテスト

 

PROFILE
朝田隆

認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。東京医科歯科大学特任教授。筑波大学名誉教授。医学博士。1955年島根県生まれ。82年東京医科歯科大学医学部卒業。40年近くにわたり、1万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害(MCI=グレーゾーン)の治療に従事。認知症予防&治療の第一人者として診察にあたる傍ら、テレビや新聞、雑誌などで認知症の理解や予防への啓発活動を続けている。

認知症グレーゾーン (青春新書インテリジェンス)

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  • 作者:朝田隆
  • 発売日: 2020/11/03
  • メディア: 新書