「気にしすぎて心が苦しくなる人」が陥りがちな“思考のクセ”

日常生活のさまざまな場面で他人との関わり合いが生まれますが、そこでのささいな出来事がどうにも気になってしまうことがあります。仕事の資料の間違いを指摘されたり、LINEのメッセージがなかなか既読にならなかったり……。こうした「気にしすぎる」心の動きはどうやってつくられるのでしょうか? 日本では数少ないHSP臨床医の長沼睦雄先生が解説します。

「気にしすぎてクヨクヨしてしまう…」その正体とは?

小さなことを気にしすぎて、クヨクヨ思い悩んでしまう。このとき心はどんな状態にあるのでしょうか。そこでまずは、「気にしすぎて、クヨクヨする」という心のありかたについて考えましょう。

小さなことが気になって仕方なく、それによってクヨクヨしているときは、思考は停滞して、視野も狭まって、物事を客観視できず、同じひとつの考えのまわりを堂々めぐりしている状態です。このような心のありかたは「うつうつとした気持ち」と「不安」に支配されている状態であると考えられます。

もちろんうつといっても、うつ病になっているというわけではありません。心の中がうつうつと重い感情に支配されていることを指します。それでは、このような重い感情が生まれてしまうのは、なぜなのでしょうか。それは、心の中に飛びこんできた刺激や情報が処理できていないからです。つまり、ここでのうつは、これらが処理できていない状態、いってみれば「心の便秘」になっているようなものです。

人は、生きている中で、さまざまな刺激や情報を無意識にとりこんでいます。多くの人は、それを自分の中で処理して友人に話したり、怒りに変えて発散するなど、何らかの形でアウトプットしているのですが、クヨクヨ思い悩むのがクセになってしまっている人は、それがうまくできません。心の処理機能がうまく働かず、身のまわりのいろいろな出来事や情報、もしくは小さな頃から抱えていた心の傷が心の中でわだかまっていて、それらの整理と処理をどうすればいいのかわからないまま悶々としているのです。これが心をうつうつした気持ちに支配されている状態です。

いっぽうで、不安に支配されている状態とは、いったいどのような状態でしょうか。うつが、たくさんの刺激や情報を処理できない状態だとしたら、不安に支配されている状態とは、目隠しをされ、必要な情報が入ってこない中で、目にみえない何かに怖がっているようなものです。

こういった負の感情や気になることの溜め込みが何度も起こり、心の中に未処理の重い感情がどんどんと溜まっていってしまうことになるのです。

自分の“思考のクセ”が「気にしすぎ」を生み出す!

「気にしすぎてクヨクヨしてしまう」のは、いうまでもなく、自分の心の動きです。そのため、そうなってしまう原因自体も実は自分の中にあるということがほとんどです。クヨクヨしてしまう原因は、だれかと喧嘩したり、仕事や家事を失敗してしまったなど、自分以外の外の世界にあると思われがちですが、それは少し違います。気にしすぎてクヨクヨ思い悩む「きっかけ」と、「原因」は違うのです。

気にしすぎ」「クヨクヨ」のきっかけは、日常の中で起こる悲しい出来事や、仕事における自分のミスなど、起きた本人にとって不利だったり、マイナスに感じるような出来事だったりします。悲しい出来事は、たしかに一時的に心につらい気持ちを呼び起こしますが、これは気にしすぎやクヨクヨを抱えこんでしまう大本の原因とは異なります。

たとえば、同じような失敗をしたとしても、いつまでもクヨクヨ悩んでしまう人がいるいっぽうで、さして悩むことなく、すぐに改善策を考えるなど「次のステップ」に進むことができる人がいませんか?この違いはなぜ起こるのでしょう。気にしすぎたり、クヨクヨ悩むことがやめられない人は、多くの場合、起きた出来事を過度にマイナスな出来事と決めつけてしまう「思考のクセ」を持っていて、物事を悪い方向に考えることが多いのです。

つまり、気にしすぎてクヨクヨと悩みがちな人は、物事の受けとめ方が「マイナス」になりやすく、単純化していえば、マイナス思考に陥りやすい状態になっているということです。そのため、起きた出来事に対して大きく振りまわされてしまい、マイナスの方向に考えを引きずられることが多くなってしまうのです。

気にしすぎたり、クヨクヨ悩みやすい人は、物事をみるとき、考えるときに思考のクセともいうべき特有な思考パターンを使っていることが多々あります。クヨクヨグセに陥りやすい思考パターン、うつうつと悩んでしまいがちな思考のクセが自分の心に深くしみついてしまっているからこそ、ささいなことを気にする自分からなかなか抜け出すことができないのです。

もちろん、思考のクセなど関係なく、あなたを思い切りクヨクヨさせるような絶対的に悲しい出来事が突然起きてしまうこともあるでしょう。ただ、その悲しい気持ちを長引かせるか否か、もしくはそれを悲しいことと認めるか否かは、自分の心の動きでもあるのです。あなたをクヨクヨや気にしすぎに引っぱりこんでいる、あなた自身の思考のクセに気づくことが、「気にしすぎる」自分のことをよく知る、第一歩になるかもしれません。

悩みから抜けられない原因は心の本質にあった

こういったマイナスに捉えてしまう考え方が一度定着してしまうと、ふしぎなことが起きます。マイナスの行動が好きになるのです。実際に、私は治療をする中で、そのようなケースを何度も目の当たりにしています。

世の中には、怒ることが生きがいになっている人がいますね。彼らは怒ることがエネルギーになっていて、世の不正に怒り、政治に怒り、他人に怒ってしまうのと同様に、悩むことに全エネルギーを傾けてしまう人もいるのです。もちろん最初からそうだったわけではありません。ただ、しょっちゅう悩んでいるうちに、あるときから悩むことにのっとられてしまいます。つまり、ゆがんだ思考、マイナスの考えの中で長い期間、悩みつづけていると、その状態に慣れ親しむようになって、自分を変えたり、現状を変えるのが億劫になってしまうのです。

こういったことになるのは、私たちの心の奥底にある怠惰のせいです。どんな人であっても、頑張るよりも怠けるほうが楽です。何かを変えるときには、私たちが考えるより多くのエネルギーが必要になります。別に変えなくていいのであれば、何も変えずに現状に身をゆだねていたい…それが、心の本質です。

心に深い傷を負い、もがき、苦しんでいるうちに、その痛みに慣れてきて、苦しい状態にいることが当たり前になる。そして、そこから抜け出そうという気持ちが徐々に薄れていきます。たとえば、つり橋で落ちそうになったトラウマがある人が、やがてつき動かされるようにバンジージャンプをするようになるという事例もあります。これなどは、このような心の動きの格好の例でしょう。これは「トラウマの再演(再演技化)」と呼ばれます。心に深い傷を負うと、同じ状況を今度こそ自分の力でコントロールしようとして、無意識に自分をその状況の中におこうとしてしまうのです。

これと同様に、「悩むのがいやなのに悩むのをやめられない。なぜ自分はつらいことをくりかえしてしまうのだろう」といった悩みグセのある方の中では多かれ少なかれ、以上のような心のメカニズムが働いているのです。

では、こういった悩みグセのある自分とうまくつき合っていくには、どうすればよいのでしょうか。次回は、そんな「気にしすぎる自分」とのつき合い方や生かし方について具体的に紹介していきます。

 

seishun.jp

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PROFILE
長沼睦雄

北海道立緑ヶ丘病院精神科医長。日本では数少ないHSPの臨床医。平成12年よりHSPに注目し研究。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行っている。発達障害、発達性トラウマ、愛着障害などの診断治療に専念し、脳と心(魂)と体の統合的医療を目指している。