発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家
口が達者で手に負えない、友達トラブルが多いなど、女の子の子育てならではの悩み、ありませんか? じつは、脳の成長には男女差があり、それが女の子特有の育てにくさにつながっていると発達脳科学の専門家・加藤俊徳先生はいいます。女の子の脳の成長について教えてもらいました。
「女の子は育てやすい」って本当?
男の子よりしっかりしていて自立が早い、おしゃべりが上手で人の話をきちんと聞ける、落ち着いて静かに遊べる……。
このような理由から、「女の子は育てやすい」と思う人が多いようです。
でも、それも小学生になる頃までのこと。
実は、本格的に集団生活が始まると、特有の「困り事」が見えてくるのが女の子。
しかも、男の子を育てる上で起こる悩みに比べて、女の子を育てる際に起こる悩みや困り事は、外ではお利口だけど、家ではワガママ、生意気な口ごたえや言い訳が多い、仲間はずれなどの友だちトラブルがよく起きるなど、問題の本質がわかりにくく複雑で、より対応が難しい……という傾向があるのです。
実は、女の子の子育てが難しい背景には「見えない脳」が隠れています。女の子は「見る力」が弱く、困った場面を「言葉」で切り抜けようとする傾向があるのです。
女の子の脳は「見るのが苦手」になりやすい
男の子と比べると、女の子は「見ること」がかなり苦手になるのですが、実はそれは、男女の脳の発達の仕方の違い、またそのことに対する親や周囲の関わり方が強く影響しているのです。
基本的に生まれてすぐの子どもの脳に男女差はありません。
しかし、生後1年を過ぎ、単語を話し始める時期になると、「言語発達」という点で、男女の差が少しずつ現れてきます。
女の子のほうがおしゃべりで言葉の発達が早い……これは昔からいわれていることでしたが、その原因を調査した結果、ある1つの事実が判明しました。
それは、記憶系脳番地に存在する「海馬」という部分の発達だけ、女の子のほうが早い、ということ。
海馬は、日常的な出来事や勉強して覚えた情報などを一時的に記憶し、保存を手伝う脳の部位です。
ですから、ここの発達が早いと、周りから聞いたことが頭に残りやすくなります。だから女の子は、小さな頃から人の話をしっかり聞けたり、おしゃべりが上手だったりするのです。
こうして、言語能力が高くなった女の子は、覚えたばかりの言葉を使いたがるようになり、お友だちやお母さんと積極的にお話ししたり、手遊び歌などの「言葉を使った遊び」を好んで行うようになります。
脳には、使えば使うほど成長するという特徴があります。そのため、話をしたり、手遊び歌などをすればするほど、言葉を聞くときに使う「聴覚系脳番地」がどんどん発達していくのです。
ただ、子どもの脳はまだ成長途中の未熟な状態のため、2つ以上の脳番地を同時にうまく働かせることができません。
ですから、女の子の場合は「聴覚系脳番地」が優位に働いているときに、そのまま、お母さんやお父さんが工夫して働きかけないでいると、その他の脳番地はほぼ働かず「おやすみ状態」になってしまいます。
とくに、物や場面を見るときに使われる「視覚系脳番地」は、働きにくくなるのです。 つまり、得意な「耳」で忙しく情報を集めている状況が増えれば増えるほど、目は働かない(=よく見えていない)場合が多くなる、ということ。
そのため、女の子は、聞こえる言葉、おしゃべりの内容に注意が向くばかりで、人の表情やしぐさ、状況をしっかり見ていない、ということが多くなりやすいのです。
左脳が発達しすぎると、右脳が育ちにくくなる!?
脳のつくりとして「右脳」と「左脳」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。右脳が発達すると肌感覚や空気を読む力、想像力などの非言語能力が主に鍛えられ、左脳が発達すると読み書きなどの言語能力が鍛えられます。
通常、子どもの脳は右脳から発達を始め、そのあとを追って左脳が発達をします。
とくに言葉の話せない赤ちゃんは右脳を活発に働かせます。温かい、寒いなど言語にならない感覚的な情報を懸命に吸収しているのです。
見る力を司る「視覚系脳番地」でも、右脳と左脳では働き方が違います。
・右脳の視覚系脳番地=人の顔色や表情、その場の状況や空気を読み取る
・左脳の視覚系脳番地=文字を読む、イメージを言語化する
女の子の場合、問題となるのは「右脳の視覚系脳番地」です。
本来なら、子どもが小さいうちは外遊びなどを通じて右脳の視覚系脳番地を育てる時間がたくさんあるのですが、女の子は男の子に比べて、室内でおとなしく過ごすことが多くなりがちです。
聞き分けがよく話が聞けることもあって、室内で習い事に勤しんだり、部屋でゆっくり読書をしたり……と、インドアな活動に偏ってしまうことが、少なくないのです。
そのため、外で走り回ったり、虫とりをしたり、ボールを追いかけるような、アウトドアでの遊びをたくさんする男の子より、右脳の視覚系が発達しづらい傾向があります。
しかも、最近は入学前から文字を教えたり、幼いうちからIT機器の使い方をマスターさせたり、幼少の頃から左脳を鍛える教育が主流になってきています。
これが右脳を使う大事な時間を奪っています。
実は、子どものうちに右脳が育たたないまま左脳を鍛えてしまうと、脳の主軸が左脳に大きく偏り、その後の人生で右脳が育ちにくくなることが多いのです。
才能が開花するかどうかは、「見る力」で決まる
親御さんの中には、「見る力が弱くても、聞く力が高いからいいのでは?」「言語発達がしっかりしていれば問題ない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
それでも私が「脳の見る力を育てるべき」というのには理由があります。
「脳の見る力」は、女の子の脳全体に影響を及ぼし、脳を“あと伸び”させてくれる大切な「土台」となるからなのです。幼児から小学生の時期は、「脳の基礎力」をつくる時期です。「脳の基礎力」とは、自分の目や耳で情報を集めた上で、それらを分析し理解する力。それが、中学生以降に伸びる、「考える力」や「行動する力」の元になるのです。
女の子は言語能力が高いため、どうしても言葉に頼りがちになりますし、周りの大人もそれをよしとすることが多くあります。
しかし、いったん「言葉」に頼って情報を集めるようになると、目の前の出来事や物事、状況から、「自分の目で」情報を集めたり、それを分析する力は、なかなか成長しにくくなります。
「聞く力」があり、一見しっかりしているように見える女の子こそ、意識して「脳の見る力」を育て、言葉だけに頼らない情報収集力や理解力を高めてほしいのです。
子どものうちはできるだけ、「脳の弱点をなくし、脳全体をバランスよく成長させること」も大切です。
何事も土台がしっかりしていなければ、その上に「特別な力」を伸ばしていくのは難しいでしょう。
子どもの頃に育ったバランスのよい脳が土台となるからこそ、脳の中の強い力がメキメキと成長していくのです。
女の子でいうと、脳の弱点は、見る力を司る「視覚系脳番地」。
ここを強化することで、バランスのよい脳が育ちます。
実は、子どもの頃に脳のバランスが悪いと、その後の脳の成長にも少なからず影響が出てくることがわかってきました。
苦手なことは一切やらなかったり、コミュニケーションが上手に取れなかったり自己肯定感が著しく低いような偏った脳に育ってしまう可能性が高く、さらに学力が伸び悩むなど、いわゆる「あと伸び」する伸びしろのない子になりやすいのです。
小さいうちに脳の弱点をつくらないことは、脳をバランスよく育てることだけでなく、脳にさまざまな「伸びしろ」をつくることでもあります。
脳に伸びしろがあれば、アウトプット力を支える前頭葉が発達してくる10歳以降は、勉強、スポーツ、芸術など、いろいろな分野で才能が花開いてくるでしょう。
1961年新潟県生まれ。小児科専門医。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳画像法を用いて子どもから超高齢者まで1万人以上を診断・治療。米国ミネソタ大学、慶應義塾大学、東京大学などで、脳研究に従事。2013年、加藤プラチナクリニックを開設し、得意・不得意な脳番地を脳診断し、学習法、適職指導など薬だけに頼らない治療を行う。『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(小社刊)、『脳の強化書』(あさ出版)、など著書多数。「脳番地」(商標登録第5056139/第5264859)