やる気と努力次第! “認知症グレーゾーン”から回復した人の共通点

認知症

「親が認知症になってしまった。自分も認知症になる可能性が高いのではないか……」。たしかに、認知症になりやすい遺伝子があることがわかってきています。ただし、認知症予防&治療の第一人者である朝田隆先生によると、本人の努力で認知症を防ぐ方法も明らかになってきているそうです。認知症のメカニズムと予防法を教えてもらいました。

アルツハイマー型認知症になりやすい遺伝子がある

親が認知症になった場合、「自分もいずれ認知症になるのではないか」と心配している人は多いと思います。一般向けの講演会ではそうした質問をよく受けます。

アルツハイマー型認知症の場合は、遺伝的な素因を受け継いでいると、子どももアルツハイマー型認知症になる確率が高いことが知られています。

人間は誰でもApoE(アポイー)と呼ばれる遺伝子を持っていて、ApoEには、ApoE2型、ApoE3型、ApoE4型の三種類があり、ApoE4型の遺伝子を持っている人は、脳にアミロイドβが溜まりやすく、アルツハイマー型認知症を発症しやすいと考えられています。ApoE4型遺伝子を持っていると、認知症になるリスクは、そうでない人の2〜4倍になると言われています。

アメリカに在住している白人、黄色人種、黒人を比較した研究では、黒人にApoE4型遺伝子を持つ人が最も多かったと報告されています。

日本人の場合は70%が3型で、4型は15%程度と言われています。両親のどちらか、または両方が80歳未満でアルツハイマー型認知症を発症した場合は、ApoE4型の遺伝子を受け継いでいる可能性が高いと言えます。

とはいえ、ApoE4型遺伝子を持っているからといって、必ずアルツハイマー型認知症になるわけではありません。

実際にApoE4型遺伝子を持っている女性で、104歳まで正常だった方を私は知っています。遺伝子のタイプを問わず、90歳になったら60%、100歳になったら90%は認知症になっています。それが104歳まで正常だったというのは、これもまたすごいことです。ですから、親がアルツハイマー型認知症になったとしても、全面的に悲観的になる必要はありません。

アルツハイマー型認知症の遺伝的影響は複雑で、簡単には説明できませんが、イギリスの研究では、親が80歳未満で認知症になった場合、子どもが認知症になるリスクは2倍になるのに対し、親が80歳を過ぎて認知症になった場合は関係ないと報告されています。

もちろん、誰もがこの研究結果に該当するわけではありませんが、わかりやすい目安として捉えていただければいいでしょう。

私が患者さんや家族に、遺伝子検査をすすめない理由

ApoE4型遺伝子を持っているかどうかは、検査で調べることができます。

しかし、遺伝子の検査を受けることを私はすすめません。自分や家族がその遺伝子を持っていることを知ったことで前向きに対応する気になるのならいいのですが、多くの人は悲観的になって、かえって余計な心配を抱えてしまうことになるからです。

たとえば、ある男性がアルツハイマー型認知症と診断され、30代の娘さんに連れられて、私のところへ来られたことがありました。

娘さんは何とかお父さんを回復させたいという思いから、アルツハイマー型認知症にいいと言われるさまざまな民間療法を試し、定期的に私のところで病状の進行をチェックしていました。その流れでApoE4型遺伝子の検査をやってほしいと頼まれました。私は「やめたほうがいいと思いますよ」と止めたのですが、娘さんの強い思いに押し切られて検査を行いました。

その結果、お父さんはApoE4型遺伝子をペアで2個持っていることがわかりました。1個なら、お母さんがApoE4型遺伝子を持っていなければ、子どもに遺伝する確率は50%ですが、お父さんが2個持っている場合は、お母さんの遺伝子のタイプに関係なく、子どもは少なくとも1つの4型を必ず持つことになります。

つまり、お父さんの遺伝子の検査を行ったために、自分が将来的にアルツハイマー型認知症になるリスクが高いことまで知ってしまったわけです。娘さんにとってはやり切れない結果となりました。ですから、私はApoE4型遺伝子の検査をすすめないのです。

ただ、最近のトピックとして、アルツハイマー型認知症協会国際会議(AAIC)でワーキンググループが作成され、ApoE4型遺伝子を持っていてもアルツハイマー型認知症にならない理由は何かを探る連続セッションを毎年開催することが発表されました。アルツハイマー型認知症の治療に新たな前進があることを期待しています。

遺伝以外の認知症のリスク因子とは

認知症の最大のリスクは加齢です。つまり、認知症はエイジングの一つのプロセスと言えます。

日本では、認知症の80%以上は80歳以上で発症していますが、認知症の全段階であるMCI(軽度認知障害)=認知症グレーゾーンは60歳以上の人に多く見られます。つまり、60歳を超えたら誰にでも起こり得る病気と考えていいでしょう。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病も、認知症の危険因子として挙げられています。

とくに糖尿病には要注意です。アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病」とも呼ばれ、密接に関係しています。血糖値が上がると、それを下げるためにインスリンというホルモンが分泌されますが、そのインスリンを分解するインスリン分解酵素は、アミロイドβの分解にも関わっています。そのため、血糖値が上昇するとインスリン分解酵素の働きが増えて、アミロイドβの分解が追いつかなくなり、脳に蓄積されやすくなる可能性が指摘されています。

さらに、九州大学・久ひさ山やま町研究室の調査結果では、60歳以上の糖尿病の人がアルツハイマー型認知症を発症するリスクは、血糖値が正常な人に比べて2.1倍。血管性認知症を発症するリスクは1.8倍と報告されています。

グレーゾーンの段階で対処することが何より大切

認知症になってしまったら、もう元に戻ることはありません。

一方で、認知症グレーゾーンの段階なら、アミロイドβが90%溜まっているような状態でも、25%の人は回復します。つまり、4人に1人は元の状態に戻ることができるのです。

では、認知症グレーゾーンの段階で回復が望める25%とは、どのような人たちなのでしょうか? その人たちには次のような共通点が見られます。

①ApoE4型遺伝子を持っていない

②生活習慣病がない

③知的好奇心が強い

④運動習慣がある

このうち、①の遺伝的因子は避けられませんが、②〜④は本人のやる気と努力で獲得できます。また、遺伝的因子を持っていたとしても、認知症を発症しない人がいるのも事実で、そこには②〜④の要素が関係している可能性は十分にあります。 実際に、運動や脳トレ、高血圧・高血糖の予防、正しい生活習慣などが認知症対策に有効であることが、科学的に証明されています。

これは1万3000人が参加した32の研究をもとに、2019年に発表されたデータですが、認知症グレーゾーンへの進行は、最終的に66%まで抑えられると報告されています。つまり、運動や脳トレ、高血圧・高血糖の予防、正しい生活習慣を続けることで、通常は100人が認知症グレーゾーンへ進行するところを66人に抑えられるということです。

健康なときから②〜④を意識した生活を送ることが最良ですが、すでに認知症グレーゾーンの兆候が見られている50代、60代の人が今から始めても遅くはありません。

 

PROFILE
朝田隆

認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。東京医科歯科大学特任教授。筑波大学名誉教授。医学博士。1955年島根県生まれ。82年東京医科歯科大学医学部卒業。40年近くにわたり、1万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害(MCI=グレーゾーン)の治療に従事。認知症予防&治療の第一人者として診察にあたる傍ら、テレビや新聞、雑誌などで認知症の理解や予防への啓発活動を続けている。

 

 

認知症グレーゾーン (青春新書インテリジェンス)

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  • 作者:朝田隆
  • 発売日: 2020/11/03
  • メディア: 新書