発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家
女の子を育てるうえで出てくる特有の困りごとには、「脳の見る力」が関係している――。この「脳の見る力」とは、目で見る事とどう違うのか? また、脳のネットワークを強化する方法について、発達脳科学の専門家・加藤俊徳先生に教えてもらいました。
女の子は目で見ていても、「脳では見ていない」
・口が達者で、言い訳や生意気な口ごたえが多い
・すぐ「できない」「無理」といい、失敗を怖がる
・陰口や仲間はずれなど、友だちトラブルが起きがち
・よい意味でも悪い意味でもませていて、お母さんとは女同士でバトルになることも
・意外に、お片付けや整理整頓が苦手
・算数や運動などが苦手な子が多い傾向にあり、苦手なことはやりたがらない
・強がっていたのに急にふさぎ込むなど、気分が変わりやすい
・男の子よりも、心も体も複雑で対応が難しい
こんな女の子特有の困り事の裏には、共通の原因があります。
それは、圧倒的な「脳の見る力」不足。
すべて、「脳の中の見る力が弱いこと」が原因なのです。
うちの子は、赤ちゃんの頃はガラガラやメリーをじっと見ていたし、乳幼児健診で視力に問題があると指摘されたこともない……。
まさか、自分の子どもが「見る力が弱い」とは、信じがたいかもしれません。
しかし、「目が見えている」から、「脳でしっかり見えている」わけではないのです。 女の子の“見えない”は、「脳の中の見る力が弱い」という状態。
つまり、目から届いた内容を脳に届け、それを認識したり、残しておいたりする力が弱いということ。
「見る」という行為には、目だけではなく、脳も深く関わっているのです。
脳には、一千億個を超える神経細胞が存在していますが、さまざまな働きをする細胞がバラバラに存在しているわけではありません。同じような働きをする細胞同士が近くに集まって、脳細胞集団を構成しているのです。
そして、その脳細胞集団は、下のイラストのように「運動」や「記憶」など、担当する機能や働きによって、大きく8系統のエリアに分かれています。
私はその働きによって分けられたエリアのことを「脳番地」と呼んでいます。8つの脳番地の詳しい働きは、次の通りです。
【情報収集や理解など、「インプット」を担当する脳番地】
◎聴覚系脳番地……耳で聞いた情報を脳に取り込む
◎視覚系脳番地……目で見た情報を脳に取り込む。前頭葉の視覚系は、見たいものを 見るために、眼球へ指令を出すときにも働く
◎記憶系脳番地……情報をたくわえ、その情報を供給する
◎理解系脳番地……与えられた情報を理解し、役立つよう整理する
【思考や行動など、「アウトプット」を担当する脳番地】
◎思考系脳番地……何かを考えたり、判断するときに幅広く関係する
◎伝達系脳番地……コミュニケーションを通じて意思疎通を行う
◎運動系脳番地……体を動かすこと全般に関係する
【「インプット」「アウトプット」の両方を担当する脳番地】
◎感情系脳番地……喜怒哀楽などの感情を感じ取り、さらに、自分の気持ちを生成して表現する。運動系の後方に位置する感情系は、皮膚からくる感覚情報を処理し、その情報を元に働く。また、感情系などから抑制されて皮膚感覚が変わる
視覚系脳番地は、物を見る働きを担っているのですが、さらにその働きによって、エリアが細かく分かれています。色を見分ける脳番地、動きを捉える脳番地、奥行きを捉える脳番地、図形によく反応する脳番地など、10種類ぐらいに細かく番地分けができるのです。
また、視覚情報は、単純に視覚系脳番地だけで処理されるわけではなく、理解系、記憶系、聴覚系などのインプット系の脳番地と連携することで、その情報の精度が高まります。普段何気なく行っている「見る」という行為は、しっかりできていれば、脳の広い範囲を使うことができるものなのです。
ただ見るだけでは、脳の見る力は伸ばせない
脳は基本的には「脳番地ごと」に成長していきます。
そのため、女の子に足りていない「見る力」を伸ばしたければ、「しっかり観察する」「空や遠くの景色を見て視野を広げる」「動いて場所を変え、いろんな角度から物を見る」など、視覚系脳番地を使い、育てることが大切です。
視覚情報をインプットする機会を増やし、視覚系脳番地を満遍なく育てていくことで、「脳の見る力」の強い女の子になることができます。
そして、視覚系脳番地を育てるときには、「ただ、目の前の物を見ればいい」というわけにはいきません。他の番地と連携させることが、視覚系脳番地を伸ばすカギとなります。 私たちが物を見るときは、単純に視覚系脳番地だけ使っているわけではなかったことを思い出してください。
視覚情報の精度を高めるには、理解系、記憶系、聴覚系などのインプット系の脳番地も動かすことが大切です。そのため、視覚系脳番地と他の脳番地を連携させることを意識すると、「脳の見る力」はぐんぐん伸びるのです。
しかし、それだけではまだ十分とはいえません。
脳の見る力を伸ばすには、「アウトプット」も必要なのです。
ここでのアウトプットとは、見たり聞いたりして脳に入れた情報(インプット)を元に、「考えて、行動すること」を指します。
植木鉢に植えられた「しおれかけの花」を見たときに、どう考え行動を起こすかで、インプットとアウトプットを説明しましょう。
① 花を見て、「あ、花がしおれている」と情報を脳に入れる(=インプット)
②「完全にダメになってしまう前に、どうにかしよう。水をあげたら元気になるかもしれない」と考える
③ じょうろで水をあげるという行動を起こす(=アウトプット)
アウトプット(行動)を意識すると、インプット(見ること)が冴えます。
アウトプットとは、何か行動を起こすことなので、そこには「やりたいこと」があります。
やりたいこと、つまり、「目的」を持っていると、そのために必要な情報をより多く、より正確に集めようとするのです。
能動的に、つまり、「見たい」と思って見ると「見る力」は飛躍的に伸びます。
「見たい」「やりたい」が、脳のネットワークを強くする
子ども自身が、
「ボール投げが上手になりたい」
「かわいいものをじっくり見たい」
「上手に絵を描きたい」
「見たことを、お友だちに正確に伝えたい」
など、アウトプットに対して、自主的・意欲的になると、視覚系脳番地と、運動系・伝達系・思考系・感情系の脳番地とのネットワークがより強化されます。
逆に、これらとの結びつきが弱いと、ネットワークが強化されないどころか、「見ること自体に興味が湧かない」ということが起こります。
興味を持てないと、挑戦する機会も減っていくので、「しっかりと物を見ること」はいつまでもできません。
脳の見る力を育てるというと、「どうやってよく見ればいいのか」だけを考えがちですが、実はそれだけでは、見る力は伸びません。
見る力を育てるには、最終目的である「アウトプット(行動)」を意識することが大切なのです。
1961年新潟県生まれ。小児科専門医。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳画像法を用いて子どもから超高齢者まで1万人以上を診断・治療。米国ミネソタ大学、慶應義塾大学、東京大学などで、脳研究に従事。2013年、加藤プラチナクリニックを開設し、得意・不得意な脳番地を脳診断し、学習法、適職指導など薬だけに頼らない治療を行う。『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(小社刊)、『脳の強化書』(あさ出版)、など著書多数。「脳番地」(商標登録第5056139/第5264859)