「老後のお金」はこう考えると楽になる―弘兼憲史の“やめる”生き方

“老後”がどんどん長くなってきている昨今、誰にとってもお金の問題は切実なものですが、あまり深刻に考えるとそれが「心の重荷」になってしまいかねません。年齢とともに“やめる”生き方を提唱している弘兼憲史さんに、心が穏やかになるお金に対する考え方をうかがいました。

「老後に2000万円足りない」を真に受けてはいませんか

60歳の男女に対するアンケートでは、80%以上の人が老後に不安を感じているといいます。厚生労働省が2020年に発表した日本人の平均寿命は、男性が81・41歳、女性が87・45歳ですから、平均すれば60歳から男性は約21年間、女性は約27年間生きることになるわけです。

おもな不安のタネは、この間、経済的に困らず生きていけるのだろうかということ。自分が何歳まで生きるかということはわかりませんが、お金の心配がなくなれば、老後の不安はほとんど解消します。

金融庁の発表で問題になった、「年金だけでは老後30年で2000万円不足する」という数字の根拠は、高齢者無職世帯では毎月5万5000円足りなくなり、それが1年で66万円、30年間で1980万円になるという試算。夫婦の年金を含めた収入が月に約21万円あり、月の支出を約26万5000円と設定しています。

いやいや、それでは足りない。30年後には年金が18万7000円程度に目減りしていると考えられるので、この目減り分を約685万円と試算し、実際には2685万円不足するのではないか。さらに現実的に考えて、必要とされる医療費、家のリフォーム代などを加えたら3000万円以上になるのではないか。

いや、老人ホームなどへの入居料を考えたら5000万円は必要になるのではないかと、どんどん金額が上がっていって、不安になる人が増えたのです。

でも、よく考えてみてください。

これは65歳から30年間無職世帯で、年金以外の収入がほぼない場合です。毎月5万5000円足りないのであれば、その分、働いて収入を得ればいいわけです。現役時代と同じ稼ぎを得ることは難しくても、月5万5000円なら必ずしも難しいことではないのではないでしょうか。

さらに、95歳まで30年間も本当に生きるのでしょうか。最初に出した30年間の試算を20年間に変えたら不足額は1320万円になり、75歳まで毎月10万円の収入があれば、それだけで1200万円になりますから、差額は120万円になります。

月の支出は死ぬまでずっと26万円もいるのでしょうか。そもそも、毎月5万5000円足りないという試算がどうなのでしょう。持ち家に住んでいる夫婦もいれば賃貸住宅に住む夫婦もいて、食料は半分自給自足なんていう人だっているかもしれません。

収入や年金の額も、支出の額もみんな違うわけですから、一様にいくら足りないという考え方はやめたほうがいいと思うのです。

お金の安心を求めること=不安を求めること

もっと言えば、どんなに稼いだり、貯めていたとしても、お金の不安は尽きることがありません。

実際、どのくらいの稼ぎ(貯蓄)があると安心かというアンケートをすると、一年に500万円稼いでいる人は1000万円あれば安心と答え、1000万円の人は2000万円と、現状の倍の額を答える人が多いといいます。これは1億円以上の資産がある人でも同じようです。

つまり、「いくらあってもお金の不安はなくならない」のです。

いくらあってもお金の不安はなくならないのなら、「不安に思うだけ損じゃないか」というのが僕の結論です。

お金とどこかで折り合いをつけて、身の丈に合った生活をし、お金の不安に振り回されないようにすることが大事。お金の安心を追い求めることは、かえって不安を追い求めることになってしまうからです。

60歳からのお金とのつきあい方

もちろん、夫婦二人で生きていくためには、一定の金額が必要になるでしょう。でも、この金額は自分たちで決めるもの。お金がなければないなりに幸せな生き方を見つければいいのだし、お金が欲しいと思ったら、そこからできる範囲で貯めればいい。

どうしても足りない時に借りられる状況にあったら、借りてもいい。お金というものは、自分でつきあい方を決めるものなのです。

60歳や65歳で働くのをやめたいというのであれば、それなりの蓄えが必要になります。でも今は、働ける間は働いていたいと考える人が大多数でしょう。

具体的に言うと、60歳で貯蓄がなくて心配だったら、70歳まではがんばってお金を貯めるという計画を立ててもいいし、65歳までの5年間は徹底的に貯金をして、その後のことは65歳になった時に考えようという生き方だってできるのです。

せっかく子育てから解放されて、これからは自分のために生きることができるのですから、やみくもに心配するのはやめて、自分なりのお金とのつきあい方を受け入れ、今、この状況からどうやって人生を楽しいものにするかを考えたほうがいいと思いませんか。

 

PROFILE
弘兼憲史

1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業。松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。『島耕作』シリーズや『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』など数々の話題作を世に出す。『人間交差点』で小学館漫画賞(84年)、『課長 島耕作』で講談社漫画賞(91年)、講談社漫画賞特別賞(2019年)、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞(00年)、日本漫画家協会賞大賞(03年)を受賞。07年には紫綬褒章を受章。人生や生き方に関するエッセイも多く手がけ、『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(海竜社)、『弘兼流 60歳からの楽々男メシ』(マガジンハウス)、『一人暮らしパラダイス』(大和書房)などの著書がある。

弘兼流 やめる!生き方

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