最速で成長するには自分に“120%”の負荷をかけ続ける【佐藤優】

佐藤優さん

自分の仕事の範囲や量を限定して、「これは自分の仕事、これは別な人の仕事」と明確に線引きをする人は多くいます。ただし、そこにこだわりすぎて未知の仕事を避けていると、その後の成長スピードが鈍ってしまう――。作家の佐藤優さんが、自分の成長につながる仕事量とスキルの関係について解説してくれます。

1カ月で原稿用600枚書く力

いまの時代、ビジネスパーソンはとにかく忙しい。会社はより少ない人員でより高いパフォーマンスをあげるよう要求します。

そんな状況で自分の仕事を全うするには、「断る力」を身につけることが大事だといわれます。上から頼まれた仕事をすべて受け入れていては自分の身が持たない。まじめな人ほど抱え込んでうつ病にかかってしまう。上手に仕事を断ることも、ひとつのスキルだというのです。

ですが私には少なからず疑問があります。「断る力」ももちろん大切ですが、特に20代、30代の若い時期は「断らない力」こそ大切だと。

たとえば、自分の仕事が忙しい時に上司から雑用を頼まれる。「この忙しい時に!」と不満を感じる人が多いんじゃないでしょうか。ところが上司からすると、そんなイレギュラーな小さな仕事ほど、部下がどうこなすか見ているものです。

本来の自分の仕事は誰でも緊張感を持って真剣にとり組む。でも、急な用事や雑用を嫌な顔せず前向きにこなせるかどうか。上司はそれができる部下を信頼し評価するものです。私が外務省にいた時は資料のコピーやホチキス留めなど、細かい雑事をしっかりやってくれる若手を信頼したし、実際そういう奴が伸びました。

若い時は、小さな部分から上司に目をかけられることが大切。するといろんな仕事を振ってくれるようになるし、情報も入ってくる。この差は、年を経るにしたがって大きなものになっていくでしょう。

自分に負荷を掛けるという意味でも、「断らない力」というのは重要です。若い時は実力以上の仕事を引き受けると大きく成長することがありますが、自分の実力の少し上、120%くらいのところをつねに意識してみるのです。

人間の能力は不思議なもので、負荷をかけるほど鍛えられ思いがけないほど伸びる。たとえば本を読むスピード。200ページの単行本、モノにもよりますが簡単な内容のものなら、私は10分くらいで読めます。特に速読を学んだわけではなく、外務省時代に膨大な書類や書籍を短時間で読む必要があったので、自然と速く読む技術が身についた。

現在、出版社から毎月100冊から150冊の新刊本が届きますが、それらすべてに目を通します。その他全部含めると毎月300冊は読んでいると思う。

あとは抱えている連載が月約40本。400字の原稿用紙にすると毎日平均20枚以上、1カ月で600枚を書いている計算になります。それに加えてゲラのチェックでさらに膨大なテキストを読みますから、編集者に驚かれたりします。

でも私が物書きになった最初は月30枚書くのがしんどかった。それが仕事をどんどん引き受けているうちに気がついたらここまでできるようになっていた。自分の力で処理することができる仕事ならば断らず、負荷をかけ続けてきた結果だと思います。

私が特殊だと思いますか? いや、人間なら誰でもそのくらいの処理能力は潜在的に持っている。ただそれに気がつかず、鍛えていないだけです。

上手に手を抜く、無駄を省く私の方法

膨大な仕事をこなすスーパービジネスパーソンになるために、どうしても必要なのが仕事の要領と上手な手の抜き方。そのためには、仕事で何を求められているのか、そのポイントをつかむことが必要です。

外務省の研修生だったころ、朝夕の新聞の切り抜きが日課でした。朝日、読売、毎日、日経から赤旗まで約8〜9誌。これらすべてに目を通して、関連する記事を切り抜きスクラップにする。じっくりやっていたら間に合わない。最初のころは本当に参りましたが、次第に要領がわかってくるのです。

まず大事な記事が何面にあるのか見当がつくようになる。ハサミの使い方も上手くなり、スクラップを台紙に貼る時もしっかり糊づけなんてしない。切りとった新聞をずらっと裏向きに並べて、真ん中にちょっと糊をつけて一気に貼りつけていく。時間短縮です。

結局、スクラップしたものをコピーして上に持っていくので、原本自体を丁寧につくる必要はない。求められているものがわかれば、無駄を省くことができるわけです。

余計なことに時間をかけないのも大きなポイント。たとえば、書類や資料を検索するのは無駄な時間の最たるもの。私がスケジュールや取材メモ、企画や発想などを何でも1冊のノートにまとめて書くのはそのためです。

内容やテーマにわけてノートをつけていたら、いちいちそのノートを探さなきゃならない。すべて1冊のノートにまとまっているからこそ、即座に検索が可能なんです。

100ページのキャンパスノートに時系列でどんどん書き込む。1カ月1冊として厚みが約1センチ。1年で約10センチとすると10年で1メートル。ここに、自分の10年間のすべてが詰まっていることになる。

逆にいえば、ここに書かれていなければどこにも書き残していないということなので、無駄に探しまくることもありません。

ちなみに、書類などは一つの箱に入れて3カ月間保存します。そして、3カ月たっても必要のない書類はどんどん捨てていく。捨てた書類を見直す必要があったとしても、せいぜい1年に1回か2回。そのために膨大な資料をとっておく必要はありません。特に、いまはネットで調べればたいていのことはある程度わかります。

明日できることは今日やらない

たくさんの仕事をこなすうえでもうひとつ大切なのが、「明日できることは今日やらない」という原則に立つこと。そういうと皆さんは違和感があるかもしれません。「今日できることは今日のうちにやっておけ」といわれて育ってきている人が圧倒的でしょうから。

でも、私からいわせるとちょっと違う。「今日できることを今日やっておけ」という感覚が強いと、明日やればいい仕事まで今日こなさなければならないという強迫観念にとらわれてしまう。特に仕事が増えてくると、そんなことをしていたら、本当に今日中にこなさなければいけない仕事が滞ってしまうでしょう。

簡単にいえば、危急の仕事とそうでない仕事を仕分けること。ですが、意外にこれができていない人が多いのです。よくいませんか? たいして仕事を受けているように見えないのに、なぜかいつもアップアップで残業している人。

そういう人には、今日やるべき仕事と明日に回しても大丈夫な仕事の大きさが同じに見えてしまっていて、仕事の遠近感がない。だから、一見膨大な仕事が迫っているように感じても、時系列で整理すればそんなに恐れることはないと気がつくはずです。あえて仕事を先送りにする。そういう判断や思い切りが必要な場合があるのです。

あと、仕事の内容によってはむしろ直前に仕上げた方がよいものもあります。私の場合でいうと雑誌の原稿などがそうです。余裕を持って1週間前に原稿を仕上げても、その間に世の中の情勢が変わったらその原稿は価値がなくなってしまう。ヘタをすると企画やテーマが変わってしまうことも。そうなると完全に無駄骨です。

直前に自分を追い込んで一気に仕上げることで、むしろアウトプットの質が高まる場合もあるのです。集中してやるのでそれが好結果につながる。締め切り寸前にならないと書きださない作家などは、自分の傾向を知って無意識にそうしているのかもしれません。

ただし、仕事の遠近感をつかんで“今日やる仕事”と“先送りをする仕事”を仕分けるのには、やはりある程度の経験が必要です。

そのためにも、いろんな仕事を「断らない」ことで、自分に負荷をかけることが大切。それによって「明日できることを今日やらない」仕分けができ、さらに仕事をこなすことが可能になる。プラスのスパイラルになっていくのです。

 

 
PROFILE
佐藤優

1960年東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本国大使館勤務を経て、95年、同省国際情報局分析第一課主任分析官。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、背任及び偽計業務妨害の有罪確定で外務省を失職。13年、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。捜査の内幕を描いた『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)が05年に出版されると大反響を呼ぶ。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

人に強くなる極意 (青春新書インテリジェンス)

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  • 作者:佐藤 優
  • 発売日: 2013/10/02
  • メディア: 新書