脳トレより重要! 認知症の予防には「体の管理」が不可欠だった

認知症

認知症予防には「脳トレ」と考える人も多いかもしれません。しかし、睡眠や視力、聴力など、体のメンテナンスの重要性を忘れてはなりません。認知症予防&治療の第一人者である朝田隆先生に認知症リスクを下げ、グレーゾーンから引き返す方法を聞きました。

認知症リスクと睡眠の深い関係

認知症グレーゾーンの予防と回復には、日常の生活習慣を見直すことも重要なキーワードとなります。

認知症との関係性が科学的に明らかにされている生活習慣としては、睡眠がまず挙げられます。

睡眠の重要性1──睡眠中にアミロイドβが脳から捨てられる

睡眠に関する認知症の危険因子としては、睡眠時間が短いことと、睡眠の質が悪いことの2つが挙げられます。

最新の研究では、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβなどの脳内沈着が、睡眠中に脳脊髄液によって脳の外へと洗い流されていることがわかってきました。睡眠時間と流される量が相関すると考えられるため、アミロイドβの蓄積を防ぐためには、十分な睡眠時間を確保する必要があります。

また、不眠はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促します。このコルチゾールが多量に分泌されると、脳の海馬などの記憶を司る部分にダメージを与えてしまうことがわかっています。

ところが、日本人の平均睡眠時間は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でワースト1位となっています。アメリカ、イギリス、フランスなどの欧米先進諸国が8時間を超えているのに対し、日本は約7.4時間にとどまっています。

さらに、2017年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、40代、50代の約半数が、過去1カ月の平均睡眠時間が6時間未満と報告されています。

睡眠の重要性2──高齢者の夜更かしは認知症リスクを2倍に高める

夜更かしする習慣も、高齢者の脳に大きな負担をかけます。国立長寿医療研究センターの研究によると、75歳以上の人は、午後9時〜11時に寝る人に比べて、午後11時以降に寝る人では、認知症の発症リスクが約2倍も高かったと報告されています。

その理由として、夜更かしをすることにより、体内時計や生体機能のリズムが乱れることが影響している可能性が示唆されています。

睡眠の重要性3──30分以内の昼寝がボケを防ぐ

認知症を予防する睡眠ということでは、昼寝(仮眠)も重要です。

毎日、午後3時までに30分以内の昼寝をしている人は、認知症になるリスクを5分の1に減らせるのです。

ただし、1時間以上の昼寝をしたり、午後3時以降に寝てしまうと、夜の睡眠の質を下げてしまうため、かえって認知症のリスクを高めてしまうことも明らかになっています。

実は、日本の老人会の会長さんは30分以内の昼寝習慣がある人が多いという研究報告がありました。これを参考に、認知症に関して私が調査して得られたもので、アメリカの睡眠専門雑誌にも掲載されました。

認知症を防ぐには、午後3時までに、30分以内の短い昼寝をすることが効果的なのです。

睡眠の重要性4――認知症につながる睡眠時無呼吸症候群

睡眠の質が悪くなるもう1つの大きな要因として、睡眠時無呼吸症候群があります。睡眠時無呼吸症候群は、以前から脳梗塞や心筋梗塞の危険因子として知られてきました。それが認知症に対しても重大な引き金となることがわかってきたのです。

睡眠時無呼吸症候群というのは、就寝中に口蓋垂(のどちんこ)が後ろに下がり、のどに栓をした状態となって、一時的に呼吸が止まる状態が何度も繰り返される症状です。

睡眠時無呼吸症候群で就寝中に呼吸が止まると、その間、全身の組織が酸欠状態となります。脳も同じです。これが毎晩何度も繰り返され、数十年積み重なると認知症につながると言われています。

軽度であれば、マウスピースを使用することで治まる場合もあります。ただ、口に何かを入れて寝るのは違和感を覚える人も少なくありません。むしろ、「横向き枕」や「抱き枕」を利用して横向きに寝ることで症状を抑えることのほうが実践しやすいでしょう。

40〜50代のサラリーマンの方から、お酒を飲まないと夜眠れないという声がよく聞かれます。仕事のストレスなどで大変なのはわかりますが、就寝直前の寝酒は睡眠の質を悪くし、睡眠時無呼吸症候群を悪化させます。アルコールによって筋肉が弛緩し、口蓋垂が後ろに下がりやすくなるからです。

70代、80代になって後悔しないように、早めに睡眠外来を受診し、眠りの質を良くする習慣を身につけておくことが、認知症の効果的な予防策となります。

視力は重要。メガネの度は合っていますか

人間は情報の八割を視覚から得ています。そのため、視力が低下すると、脳へ送られる情報が大幅に減り、集中力や注意力など、あらゆる脳の機能低下につながります。認知症も例外ではありません。視力が落ちているのに眼科へ行かずに放置していると、認知症のリスクが2倍程度高くなるという疫学的なデータが、アメリカの公衆衛生学会で報告されています。

ところが、高齢者の多くが合わない眼鏡をかけているという話もあります。何年も前に作ったメガネを度が合わなくなっているのにずっと使い続けていたり、近視用と老眼用のメガネを2つ使い分けている場合、誤って老眼鏡で外出していることもある。もしかしたら、これらもまた認知症グレーゾーンの「めんどうくさい」からきている可能性も考えられます。

そんなことをしているうちに、さらに視力が衰え、認知症グレーゾーンの症状が加速し、より早く認知症に進んでしまっている人が意外に多い可能性があります。ご家族など周囲の人は、高齢者のメガネも定期的にチェックしてあげることが大切です。

近視や老眼だけでなく、中高年になると白内障、緑内障を発症する人も増えてきます。 白内障は、目の中でレンズの役割をしている水晶体が白濁し、視界がかすんでものが見えづらくなっていく病気です。これに対して緑内障は、目から入ってきた情報を脳に伝達する視神経が障害され、視野の幅がだんだん狭くなる病気です。いずれも徐々に進行するため、自覚症状のない場合が多いのですが、放置すると同じように認知症の重大なリスクとなります。

視力が落ちると脳への刺激が減るだけでなく、外出が億劫になって社会交流が少なくなったり、新聞を読む、読書をするといった知的活動が減ったりすることも問題です。

逆に言うと、しかるべき時期に、しかるべき治療、しかるべき矯正を行っていれば、少なくとも視力の低下によって、認知症グレーゾーンや認知症になることを食い止められるわけです。

難聴を放っておいてはいけない

世界的権威のある医学雑誌で、科学的根拠が確認された認知症の原因のうち、一番大きなリスクとなっていたのが難聴だったと報告されています。中年期からの難聴は、高血圧や糖尿病以上のリスクといわれ、難聴がある人は、ない人に比べて1.94倍も認知症発症のリスクが高いことがわかっています。

難聴になると、人とのコミュニケーションが取りにくくなります。その結果として、孤独からうつ状態となり、認知症へつながることが考えられます。

さらに、難聴になることで脳への聴覚刺激そのものが減少し、脳萎縮につながっている可能性も指摘されています。

もし聞こえにくさを感じたら、まずは耳鼻科へ行き、聞こえにくくなっている原因を専門家に調べてもらうことが非常に重要です。

歯周病の原因菌は、アルツハイマー型認知症の重大リスク

アルツハイマー型認知症の患者さんの脳に歯周病菌が存在することは、数年前からさまざまな研究で明らかになってきています。

つまり、通常は口の中で悪さをしている歯周病菌が、脳の中にも入り込み、アルツハイマー型認知症の発症および進行を促している可能性が指摘されているのです。

従来から、高齢になったときに、残っている歯の本数が少ない人ほど、認知症発症のリスクが高いことは知られていました。その理由として、歯の本数が少ないと、それだけ噛かむ力が弱まって栄養状態が悪くなったり、噛まないことによる脳の血流低下、あるいは脳への刺激が減ることなどが挙げられていました。もちろん、そうした影響もあるでしょう。

しかし、前記の研究報告から、口内に歯周病菌が少ないことで、高齢になっても歯がたくさん残り、脳に歯周病菌が入り込むリスクが低くなって、認知症になりにくくなると考えることもできます。

いずれにしても、歯や歯茎が健康なときから、定期的に歯医者を受診し、口腔ケアを欠かさないことが、将来的な認知症予防につながることは間違いないでしょう。

禁煙は何歳からでもリスクを下げる

中高年者の喫煙は、認知症の発症リスクを高めることが明らかになっています。ただし、高齢になってからでも喫煙をやめた人では認知症リスクの増加は見られなかったと、同じ研究で報告されています。

これまで喫煙習慣のあった人も、今からやめれば認知症になるリスクを増やさずに済む可能性が高いわけです。

喫煙は認知症のみならず、多くの疾患のリスクとなります。動脈硬化、脳卒中、高血圧、糖尿病はその代表ですが、これらはすべて認知症の危険因子でもあります。

百害あって一利なし。この機会に喫煙をやめることが、人生100年時代を豊かなものにする大きなキーワードと言えるでしょう。

 

PROFILE
朝田隆

認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。東京医科歯科大学特任教授。筑波大学名誉教授。医学博士。1955年島根県生まれ。82年東京医科歯科大学医学部卒業。40年近くにわたり、1万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害(MCI=グレーゾーン)の治療に従事。認知症予防&治療の第一人者として診察にあたる傍ら、テレビや新聞、雑誌などで認知症の理解や予防への啓発活動を続けている。

 

 

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  • メディア: 新書