発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家
女の子の才能を開花させ、伸ばしていくには「脳の見る力」が大切―。発達脳科学の専門家・加藤俊徳先生はそう言います。といっても、特別な訓練が必要なのではなく、日常生活でも十分、脳に刺激を与えることができるといいます。ぜひ、親子で取り組んでみてください。
習慣を変えると、「見る力」が伸びる!
女の子は男の子に比べ、脳内の「視覚系脳番地」の働きが弱いのが特徴。
そして、脳は、苦手な脳番地があると、そこをなるべく使わずラクをしようとし、得意な脳番地ばかり使う傾向があります。そのため、放っておくと、より一層苦手な視覚系脳番地を使わない暮らしをしてしまう可能性があります。
ですから、女の子の「見える脳」を育てるためには、今までの生活を見直して、休んでいる視覚系脳番地に刺激を与えることが大切。「目で見て情報収集するクセ」を脳に染み込ませましょう。
1.「かわいいもの探し」を習慣にする
女の子は視野が狭かったり、動くものを追いかけて見ることが苦手な傾向がありま すが、その代わり、手元の細かいものを見たり、目の前の色の違いを見分けたりする ことはわりと得意です。また、かわいいもの・愛らしいものを好む傾向もあります。
ですから、「見て探す練習」として、毎日の生活の中に、親子で「かわいいもの探し」 をする時間を設けてみてください。前頭葉の視覚系や思考系脳番地が活発に刺激され ます。
例えば、毎朝出かける準備が終わったら、お母さんと子どもが向き合って、
母「今日はヘアゴムとTシャツの色が合っててかわいいね!」
子「ママは髪がツヤツヤでクルンとしててかわいい♪」
などと、お互いにかわいいポイントを探していい合ったり。
または、子どもが家に帰ってきてから、
「今日は〇〇ちゃんが持ってたハンカチがかわいかった~」
「あの曲がり角に、すごいかわいい猫ちゃんがいたの!」
などと、今日見たかわいいものを報告してもらったり。
できれば時間を決めて、毎日できるようになるといいですね。 これを習慣にできたら、かわいいもの、キラキラしたもの、憧れを呼び起こすようなものを自分で積極的に探すようになります。「もっと見たい」と思い、世界を見るようになるので、思考系脳番地が覚醒し、視覚系脳番地もぐんぐん伸びていくでしょう。
2.思い出写真を見返す
子どもの成長記録や旅行などの思い出を写真に残しておきたいと、スマホのカメラでシャッターを切る回数が増えている親御さんは多いと思います。でも、撮った写真をアルバムにまとめている方は、意外と少ないのではないでしょうか。スマホやパソコンにデータを入れたまま見返さない……という方が大半でしょう。
実は、この「写真を見返す」という行為は、女の子にこそ必要な習慣。見る力が弱い女の子は、思い出を場面(視覚記憶)で覚えておくことが苦手なので、写真を見返すことで、出来事やそのときの感情などをスムーズに振り返ることができます。
そして写真を見返せば、行った場所や遊んだ状況をいつでも思い出せるだけでなく、自分がどれだけ大きくなったか、どれだけできるようになったか、どんなに大事に育てられているか、ということも実感できます。
こうしたポジティブな思い出=「視覚記憶」を積み重ねることで、自己肯定感が高まり、自分に自信を持って人生を歩めるようになっていくのです。
また、家族の昔の写真を見返すことも、脳へのよい刺激になります。例えば、親の若い頃の写真を見ているとき、子どもの脳は、まだ自分が生まれる前のお母さんと、今のお母さんを何とかつなげようとフル回転します。記憶と感情がより鮮明になり、腹側視覚ルートが鍛えられます。
もちろんパソコンやスマホに保存している画像でも同じような効果はあるのですが、プリントすることで、画像が「写真」になり、データが「物」になります。すると、手で持ったり、どこに貼るか考えたり、ページをめくったりすることで、より脳の広い箇所を刺激でき、視覚系脳番地の覚醒度も上がるのです。
3.ほうきと雑巾で掃除をする
お子さんはおうちのお手伝いを何かしているでしょうか?
実は、料理、洗濯、掃除など、家事のお手伝いをすることは、「見る力」を育てることにつながります。お母さんの行動・しぐさなどを「しっかりと見て、まねすること」は、言葉に頼りがちな女の子の視覚系脳番地を鍛えるのにもってこいなのです。
家事の中でも私が一番おすすめするのは掃除。しかも、「ほうきで掃く」「雑巾で拭く」という昔ながらの掃除方法が、より多くの脳番地を鍛えてくれます。
ほうきを使った掃除では、ゴミがたまった場所を探すため、目がセンサーのように働き、視覚系脳番地を刺激。玄関先など外の掃除の場合は、ゴミの種類によって、砂なら細かく、落ち葉などの場合は大きくなど、ほうきの動かし方が変わります。室内の掃除の場合は、畳なら目に沿って、フローリングなら傷つけないよう優しく掃くなど、床面のタイプに合わせるでしょう。このような目から入った情報を分析するのに理解系脳番地が、その分析結果を行動に移すのに運動系脳番地が活発に働くのです。
「両手・両足を使いながら見る」という雑巾がけも、左脳と右脳にとてもよい刺激を与えます。しかも、足腰を使い、移動しながら床を見るので、女の子が苦手になりがちな空間認知を司る背側視覚ルートが鍛えられます。また、きれいにした箇所と、まだ汚れている箇所を比べて、目で確認できるのもよいポイント。「見て気づく」「比べて違いがわかる」というのは、脳の見る力が成長している証です。
このように、自分で掃除をして「きれいになった!」と感じられると、「もっときれいにしたい」「きれいにするには、どうしたらいいかな?」と考えるようになり、掃除の精度を上げようと、目でしっかり見て情報を集めるようにもなります。
その他の家事では、「食事の盛り付け」も見る力を育てます。おかずなら、きれいに美味しそうに盛り付けるために工夫しよう、ご飯なら、家族によって多め・少なめなど加減しよう、などと「目で見て考えて行動する」からです。また、誕生日などでホールケーキを食べる機会があれば、ぜひ切り分けにチャレンジさせましょう。丸い物を均等に切り分ける経験は、視覚系と理解系脳番地を大いに刺激します。
4.一緒に空を見上げる
「遠くを眺める」というのは、視野が狭くなりがちな女の子にとって、とてもよい脳トレなのですが、それにプラスする形でおすすめしたいのが「空を見る」という習慣。しかも、「親子で一緒に空を見上げること」をたくさん経験してほしいのです。
空を見ると、雲の形・動き・色などがわかるだけでなく、太陽の光の具合、風の強弱・方向、温度や湿気なども感じることができます。このような「体で感じること」「皮膚感覚」を子どもに残すことはとても大切。幼い頃に伸ばしておくべき右脳の力は、こうした言葉にならない生の情報をたくさん入れることで発達していくからです。
小さなお子さんの場合は、一緒に空を眺めて、空の色や雲の形などについてお話ししましょう。「今日はとっても空が青いね」「雲がオレンジ色になってきた〜」「あの雲、〇〇の形みたい!」など、お互いの感想をいい合えれば十分です。見たことを伝える力がつき、伝達系脳番地が成長します。
私自身は幼い頃、日本海の真上に広がる雲が、本物の「龍」に見えて、大興奮で家族と話したことを覚えています。そういう楽しい、視覚的な思い出も残せるといいですね。
小学生くらいになったら、空を見てわかる現在の状況、また今後の天気はどう予想できるかなど、いろいろなことを話してみましょう。
「雲がこういう動きをしているから、もうすぐ雨かな」
「きれいな夕焼けだから明日は晴れそう」
など、先回りして教えすぎない程度に話すのがポイント。そのとき子どもは、空を見ているだけでなく、大人が「どう見ているか」、その様子も見て、感じています。右脳の視覚系と理解系脳番地がぐんぐん伸びていくでしょう。
もちろん、毎日が難しい場合は週末だけでもいいですし、日中の空を見られない場合は、夜の空を眺めるのでも構いません。庭やベランダに出てみたり、窓から夜空を眺めたり。親子で星の色や大きさ、星座の種類、月の模様や形について語るというのもいいですね。忙しい毎日だと思いますが、ぜひ時間をつくり、空を見上げましょう。
1961年新潟県生まれ。小児科専門医。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳画像法を用いて子どもから超高齢者まで1万人以上を診断・治療。米国ミネソタ大学、慶應義塾大学、東京大学などで、脳研究に従事。2013年、加藤プラチナクリニックを開設し、得意・不得意な脳番地を脳診断し、学習法、適職指導など薬だけに頼らない治療を行う。『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(小社刊)、『脳の強化書』(あさ出版)、など著書多数。「脳番地」(商標登録第5056139/第5264859)