どんな教材より学力が上がる!「安心」を与えてあげる事の重要性

勝手に学力が上がっていく「安心」

いじめを受けて学校にいけない子、発達障害など支援の必要な子がたくさん転校してきたにもかかわらず、不登校ゼロ、全国学力調査で全国一の県を上回ったこともあるという「大空小学校」。初代校長の木村泰子先生は、「学力は勝手に上がっていく」と言いますが、はたしてその真意とは――?

「わからない」と言える環境をつくると、「見える学力」が上がる事実

大空小学校では教室を走り回る子、椅子をがたがたさせる子も、みんな「いつもいっしょ」が当たり前です。

「そんな子どもといっしょだと、学力が心配」「授業はちゃんとできるの?」と思ってしまうかもしれません。

でも、全国学力調査で全国一の県を上回ったこともあるんですよ。授業中も、誰一人集中力は欠かしません。

どんな授業をしているのか、聞かれることもよくありますし、教育関係者に限らず、多くの方が全国から見学にいらっしゃいますが、答えは簡単。子どもたちが安心しているからです。

安心していると、学力なんて勝手に上がってしまうんですよ。子どもたちは授業中も安心して「わからへん」「教えて」と言います。

先生が「わかりましたか?」と聞いて「はい」と言っている子は、まずわかっていません(笑)。

大空小学校でも最初の頃は、授業の最後に「わかりましたか?」と聞いていました。でも、子どもたちによく聞くと、「はいと言わないと休み時間がなくなるから」と言うんです。そこから職員室でみんなと話し合って、「わかりましたか」を聞くことはやめました。

その代わり、「わからないところはどこですか?」と聞くようにしたんです。そしたら、子どもたちが口をそろえて「わからなーい!」と言い出しました。

つまり、先生が授業中、子どもたちに教えているつもりだったことは自己満足で、受け身の子どもたちにはまったく伝わっていなかったことがバレてしまった。

そこで、45分間の授業時間で、先生は10分しか話さないようにチャレンジしました。残りの時間は子どもたちが主体的に学ぶ時間。子どもたちが学び合う時間にしたんです。

子どもたちって、先生に教わるよりも教え合っているときに伸びるんです。教えるほうも理解が深まるし、教わるほうも同じ。

その中で困ったときだけ、「先生、ここ、わからんから助けて」「○○ちゃんに教えてるんやけど、わからへんみたいやから、先生教えて」と言ってきます。教師は困ったときだけ行けばいいのです。

そうやって子どもたちが学び合って課題を解決する力こそ、10年後の社会で必要になる力です。

「言いたいことが言えない」関係をつくってしまう親のひと言

子どもたちは自分で考えておかしいと思ったら、「先生、それおかしいんちゃう?」と安心して言います。そういう環境で勉強したら、子どもはどんどん自分からチャレンジして、できるようになるまで主体的にやり直しします。

これは、学校だけにとどまりません。家庭でも同じです。

まず最初に、家庭でも子どもが安心していること。これが大前提です。安心しているから「わからない」と言えるのです

子どもに「宿題やったの?」「本当にわかってるの?」などと、上から目線で問い詰めるように聞いていませんか。

子どもは全部わかっていますよ。「これ以上、親にいろいろ聞かれるのは面倒だから”わかった”って言っておこう」と。

それよりも「わからへんねん。ちょっと教えて」と子どもが言える関係だといいですね。私も含めて猛反省ですが、親って勝手なもので、自分の都合で子どもを振り回します。

自分が暇なときは「宿題、やったの?」などと問い詰めるくせに、忙しいときは「今、ちょっと時間がないから、あとでね」なんて言ったりする。これでは子どもも安心できません。大切なのは、目の前の子どもの事実から学ぶことなのです。私も大空小学校の子どもたちからたくさん学ばせてもらいました。

「見えない学力」が身につけば、「見える学力」は結果として後からいくらでもついてきます。こういうことも、私たち教師は子どもたちから学びました。

大人が正解を教える習慣で、子どもは考えなくなる

子どもの「自分の考えを持つ力」を奪っているのは大人です。

大人が先に考えを出してしまったら、もう子どもは何も言わなくなります

親はよかれと思って自分の経験値の範囲内の狭い正解を言ってしまいたくなるもの。でも、正解を教えてしまったら、正解のない問いを問い続ける力など、生まれないのは当たり前です。

ここで母ちゃんたち、立ち止まって考えみてください。今の世の中に正解ってあると思いますか? 親の言うことをよく聞いて一流大学に入ったら、みんな幸せになれますか? 「正解を持ったらあかん」「正解を持たないようにしなければ」などという努力ではなくて、親自身が「正解なんて、やっぱりないよな」ってストンと納得できるかどうかです。ここを外したら、その先は難しいかもしれません。

子どもの文章はほめない、叱らない、直さない

大空小学校には「さよならメッセージ」というものがあります。全校で必要な学力として取り組んでいたことです。

「さよならメッセージ」は、毎日帰る前に全員が書くもの。そこに書くのは、「その子自身にしかわからないこと」です。わかりやすく言うと、「自分から、自分らしく、自分の言葉で語る」です。

「今日は遠足に行って楽しかったです」などというのは、みんな知っていること。そうではなくて、「何が楽しかったのか」を自分の言葉で書く。

いわゆる反省文や作文とも違います。そんな先生の反応を期待して「書かされる」文章など、面白くないでしょう。だから先生はほめたり叱ったりもしません。

「いつも先生ありがとう。お母さんありがとう」などと書く子もいません。きれいごとで学校なんて来られませんから。

私らが叱らない代わりにほめもしないのは、さよならメッセージを見て”評価”してしまったら、ほめられるようなことを書きはじめるから。それってもう「自分の考え」でも「本音」でもない。

ついでに言うと、先生は添削もしなければ、字の間違いも直しませんし、「見ました」みたいなハンコも押しません。

子どもたちがさよならメッセージに本音を書くことができるのは、「何を書いても怒られない」という子どもと学校の信頼関係ができるから。

言い換えれば、子どもが「安心」したら、「自分から自分らしく自分の言葉で語る」ことができるのです

「自分の考えを持つ」から始まる学力の好循環

子どもたちは何を書いても怒られない「安心」を得た結果、本音を書きます。そうすると、「誰々にいじめられているからどうしたらいい? 助けて」と書ける。家で虐待されていることも書ける。

安心して自分の考えを持って自分の考えを伝える。友だちや周りの人の考えを知る。すると、より自分の考えが深まって広がっていく。それをまた表現していく。その結果、たとえ失敗しても何度もやり直ししてチャンレンジしていく。この好循環が続けば、「見えない学力」はもちろん、「見える学力」が上がらないわけがありません。

”安心”ってすごいんですよ。「わからへん」ってちゃんと言えると見える学力が伸びるという話を先にしましたが、子ども同士の「わからないから教えてよ」「おお、教えたるわ」みたいなことも、安心している関わりですよね。

先生や親との関わりも同じで、「勉強しろ」と怒ったり、脅したり、上から目線で言ったりして本や課題を与えることよりも、”安心する空気”を子どもの周りに満たしたほうが、子どもの「見える学力」は伸びるんです。

 

PROFILE
木村泰子

大阪府生まれ。武庫川学院女子短期大学(現武庫川女子大学短期大学部)卒業。大阪市立大空小学校初代校長として、障害の有無に関わらず、すべての子どもがともに学び合い育ち合う教育に力を注ぐ。その取り組みを描いたドキュメンタリー映画『みんなの学校』は大きな話題を呼び、文部科学省特別選定作品にも選ばれた。2015年に45年間の教員生活を終え、現在は講演活動で全国を飛び回っている。東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター協力研究員。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』(小学館)、『「ふつうの子」なんて、どこにもいない』(家の光協会)などがある。

 

10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方

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  • 作者:木村 泰子
  • 発売日: 2020/11/10
  • メディア: 単行本